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「お前を、この異世界から排除《ドレイン》する……」 ー内閣府裏デジタル庁異世界転生救済課活動記録簿ー  作者: ねず ただひま
螻蟻潰堤(ろうぎかいてい)の章

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謀る

はなぶさ


 

 取り調べ室を出て、廊下を駆け出そうとした時だった。聞き慣れない電子音と共にスラックスのポケットに振動を感じた。これは……


 蒲公英たんぽぼ課長から貰った受信専用の小型通信機だ。赤く点滅するボタンを押すと耳に装着しているイヤホンに自動でリンクした。俺は廊下を早歩きしながら応答する。


『おつかれさ〜ん。もう吾亦紅われもこうを見つけちまったかぁ〜、思っていたより早かったな。実は俺と黒百合くろゆりで賭けをしてたんだよ〜、吾亦紅われもこう発見にどれだけ時間が掛かるかってな。賭けは俺の負け。俺はアイツに『ベーカリーおおた』の特製メロンパンを奢らなきゃならなくなっちまったぜぇ〜」


 課長のあっけらかんとした態度が俺の神経を逆撫でる。


「本当は吾亦紅われもこうの事なんてどうでも良かったんでしょ? 俺にはアンタが考えてそうなことが分かる。ただ単に、俺を()()()しかっただけだ」

 

『んん〜、なんのことかな? とりあえずお前は特命を果たした。帰って寝てろぉ〜』


「嫌ですね。回りくどい事しやがって……アンタは、全部知ってて九鬼くき班長とえんじゅを組ませたな」


『…………』


千代草ちよぐさを囮に使うつもりだろ?」


 俺は一旦立ち止まる。蒲公英たんぽぽ課長の声色が一段落ちた。


『今回の作戦、お前がいると必ず邪魔すると思ったからなぁ……』


「当たり前だろ、これ以上アイツを危ない目に遭わせたくない」


『今回の、迷子ロストチルドレンを救出しつつ、囮を使ってえんじゅを捕獲する作戦……九鬼くき千代草ちよぐさも快く受けてくれたぞ』


「嘘だ。千代草ちよぐさだけなら従うと思うが、班長は必ず反対する。あの二人ならきっとそうする。それより、……今から現場に行けば、俺はクビになるのか?」


『まさかぁ〜、この俺が将来有望なはなぶさ君を簡単に手離すわけないだろぉ〜……ただ、事の顛末を見届けるつもりなら、相応の覚悟を待ってのぞめ……俺からは以上いじょーだっ』


 通信は切られた。今回の作戦の立案者は蒲公英たんぽぽ課長だ。あの特命は、最初から俺を作戦から外す為だけのものだったのだ。


 千代草ちよぐさには九鬼くき班長も南天なんてんもいる。戦力に不安はないがえんじゅがどんな罠を張っているかわからない……


 俺は怒りに任せて廊下の壁を一発殴ると九鬼くき班長の元へ急いだ。



施覆花おぐるま



 施覆花おぐるまは椅子に腰掛けて手を掴み、うずくまっている吾亦紅われもこを見下ろしている。

 電子タバコを咥えた瞬間、廊下でズドンと音が鳴り、その振動で取り調べ室の壁が僅かに揺れた。


「いてぇよ……なぁ、施覆花おぐるま医療班パラメディカル呼んでくれよぉ」


 涙声で施覆花おぐるまに懇願する吾亦紅われもこうを冷たい目で見ながらこう言った。


「いらんやろ、もうすぐお迎えがくるんとちゃうか? それに、これ以上アンタの事で桔梗ききょうに頼み事したら、俺がアイツに嫌われるやんけ」


「はぁ? なんだよそれ! じゃあ病院連れて行けよぉ! おめぇのトコのガキにやられたんだ! 痛ぇんだぞ!」


 施覆花おぐるまは感情的に叫ぶ吾亦紅われもこうの眼鏡を素早く奪った。


「なっ!? か、返せよ!」


「前からうすうす感ずいとったけど、けったいな眼鏡やなぁ……カメラ付きかいな?これ、俺らが助けた時から撮影しとったんやろ?」


 施覆花おぐるまは眼鏡を部屋の天井の灯りに透かして見ている。眼鏡の右のフレームに、針の先端ほどの僅かな穴があいてた。


「ぐっ……」


 吾亦紅われもこうは歯を食いしばって施覆花おぐるまを睨んだ。その時、取り調べ室のドアが開いた。


「ノックくらいして下さいや……」


 施覆花おぐるまは振り向かずに言い放つ。誰が入室してきたのか予想はついていた。


「取り調べは終わったんだ。不要だろ? ……ウチの吾亦紅われもこうが世話になったな、施覆花おぐるま君」


 施覆花おぐるまの背後に立つのは紫雲英げんげだった。歩みを進めて吾亦紅われもこうの前に屈む。


「は、班長!? 自分はッ!」


 焦った表情の吾亦紅われもこうに対して紫雲英げんげは何も言わずに肩に手をかけた。


 施覆花おぐるまは立ち上がり、吾亦紅われもこうの眼鏡を握り潰す。


紫雲英げんげさん……次からの企み事は、九鬼班おれらとは関係ないところでやって下さいや……」


 そう言って壊れた眼鏡を机に置き、施覆花おぐるまはドアを強く閉めて部屋を出た。


「カメラを出せ……」


 施覆花おぐるまの足音が聞こえなくなるのを確認してから紫雲英げんげが小声でそう言うと、吾亦紅われもこうの顔の近くに手のひらを向けた。


 吾亦紅われもこうは自分の左目に指を突っ込み眼球をくり抜いた。それは義眼に模したカメラであった。


「本当によくやったな、吾亦紅われもこう


 紫雲英げんげは冷笑を浮かべる。


「班長……俺は悔しいですよ……あのクソガキを! ……はなぶさをぶっ殺してやりてぇよッ!」


 怨嗟のこもった低い声で、涙を流しながら吾亦紅われもこう紫雲英げんげにそう伝える。


「いいだろう、いずれお前にはチャンスを与えてやる……それまでは暫く休んでいろ」

*次回、『敢行』

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