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「お前を、この異世界から排除《ドレイン》する……」 ー内閣府裏デジタル庁異世界転生救済課活動記録簿ー  作者: ねず ただひま
螻蟻潰堤(ろうぎかいてい)の章

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恫喝

はなぶさ



「で、いつから俺に気づいてたんだよ?」


 吾亦紅われもこうは両手を頭の後ろで組んで、余裕ありそうに椅子にもたれかかる。


「あんたが吾亦紅われもこうだと気づいたのは俺じゃない、え〜っと……うん、密告があったからだ」


 俺は途中で蒲公英たんぽぽ課長から言われていた事を思い出して適当な嘘をついた。


「なんや今の間は? つーか、桔梗ききょうにコイツの()()がついたパンツを鑑定させたんか? アイツめっちゃ怒ったやろ?」


 施覆花おぐるまさんに突っ込まれた。まだ黙っていて欲しかったんだが……


「ふ〜ん、まぁいい。で、俺の正体を暴いてどうする?」


「聞きたいことがある。本物の松代まつしろの安否確認と売人の存在……俺達はハスラーと呼んでいるがソイツの存在の有無。そして誰の命令で、なぜこんな事をしたのか」


 俺の質問に吾亦紅われもこうはすんなり答えはじめる。


「そうだな……まず、本物の松代まつしろは異世界で死んだ」


「はぁ? なんやそれ、アンタが殺したんとちゃうんか?」


 施覆花おぐるまさんが詰め寄る。


「事故だよ。人外との情交こうびは刺激が強すぎたんだろう。()()すぎたんだ。まぁ死んでよかったんじゃねーか? 四十超えの自宅引き篭もりニートだ。親の年金を頼りに生きてる寄生虫。いなくなった方が親も喜ぶだろ。ただ、死んだことにする前に俺たちは利用させてもらったけどな」


 吾亦紅われもこうは悪びれた様子もなく、肩をすくめてそう言った。


「そないな奴でも、親は心配して捜索願いを出しとったんやぞ」


「どうだか? 二百万を回収しかっただけなんじゃねーの?」


 施覆花おぐるまさんは吾亦紅われもこうの胸ぐらを掴んだ。


「おい、落ち着けよ〜……俺はお前らと違って戦闘能力はないんだ。ただの諜報員。全部話すから痛いのは勘弁だぜ」


 両手をあげた吾亦紅われもこう施覆花おぐるまさんは突き飛ばす。


売人ハスラーは嘘か?」


売人それは俺だ。俺が松代まつしろに接触して売った」


「どういうこっちゃ!? お前らネペンテスを作ったんか!?」


「違う違う、俺は松代まつしろを、他人が作った異世界へ連れて行ったけだ。俺らの班で救出予定だった救出対象者ドリーマーのな。松代まつしろと似た願望を持ったソイツの世界を楽しませてやったら、アイツは気にいってくれたよ」


 その言葉に対して俺は聞いた。


「たしかに俺達は座標が判明している異世界には行くことができるが、一般人を連れて行くのは違法だ。紫雲英げんげさんの命令なのか?」


 その問い掛けに天井を見上げて下唇を摘んだ吾亦紅われもこうはすこし唸ってから答えた。


「……他のことなら教えてやる」


 黙秘を選んだか……


「それで、松代まつしろになりすました理由は?」


 吾亦紅わらもこうはニヤリと笑って答えた。


えんじゅを動かすためだ」


「なんやそれ?」


「言ってる意味がわからないんだが……」


 俺と施覆花おぐるまさんは吾亦紅われもこうの発言の意味を理解できずにいる。


「今、異世界転生救済課ではえんじゅが悪巧みをしている。奴は一度歪み(ストレイン)が発生した場所で再び歪み(ストレイン)をこじ開ける機械を開発した。そして開いた歪み(ストレイン)に様々な物を隠したのさ……なぁ施覆花おぐるま、紙のタバコ持ってねぇか? ずっと我慢してんだよ」


 吾亦紅われもこうは話の途中でタバコを要求したが、施覆花おぐるまさんは電子タバコ派だ。持ち合わせていないと伝えると舌打ちをした。


「後で好きなだけ吸えよ、続きを話してくれ」


「まぁいい……で、えんじゅがそこに隠したのは心臓外科医、四十雀伸彦しじゅうからのぶひこと闇医者達で結成した医療チームだ」


「なんやて? なんでえんじゅさんが四十雀しじゅうからを!?」


「やれやれ、お前ら九鬼くき班のアンテナの低さには同情すらするぜ。ま、ウチの紫雲英げんげ班と違って少ない人数しかいないから当然か……俺たち救済課は任務の他に、世間を欺くために別の仕事に就てる奴も少なくはない、その多くは『はなぞの製菓』の従業員だが、えんじゅは課とはまったく無関係な医療機器メーカーの営業部長として色々な場所の病院に出入りしていた。そこで四十雀しじゅうからと出会ったんだろう」


「あんたら紫雲英げんげ班は、班長会議で四十雀しじゅうからの名前が出る前からそれを知っていたのか? あんたが松代まつしろになりすました事で、なぜえんじゅさんが動く? それに、座標を確認せずに歪み(ストレイン)から異世界へ四十雀しじゅうから達を飛ばすなんて滅茶苦茶だ。どこへ行くかわからない筈だ」


 俺達が異世界に居る救出対象者ドリーマーを追う手段は転移装置を使う。一度使用した事でクラッシュしたネペンテスから、救出対象者ドリーマーが創造した世界の座標を正確に割り出す。それはとても複雑な作業が必要であり、時間も掛かってしまう。もし、俺達が闇雲に異世界へ転送しても安全を確保できない。転送された場所が、深海だったり、高度数万キロの上空だったり、建物の中や地中深くだった場合、命の補償はない。


「いい質問だよ、はなぶさ


 吾亦紅われもこうは机に乗り出した。


えんじゅのとこには異世界間の壁をぶち破って自由に、そして安全に空間を移動できる異貌人ストレンジャーがいる……そいつの名前は合歓ねむ、知ってるだろ? 白髪のガキだ」


「噂でしか聞いたことがなかったが、異貌人ストレンジャーが実在するのか!?」


「あのクソガキが?」


合歓ねむ四十雀しじゅうからを安全な場所で()()させているんだよ。迷子ロストチルドレンに非合法な臓器移植手術を行うためにな」


えんじゅさんは迷子ロストチルドレンに手術を受けさせる為に子どもを異世界へ送っていたのか?」


「そうだ。四十雀しじゅうからと結託し、病気の子どもの親をたぶらかして、足のつかない異世界で闇手術を行っている。それで大金を稼ぐつもりなんだろう」


「では、えんじゅさんを動かす。とは?」


「もし仮に、売人を捕まえてネペンテスの製造法が分かれば、まずは異世界転生救済課の俺らが捜査に使うだろう。いつでも誰でも好きな時に異世界に出向いて救出対象者ドリーマーを連れ戻せる。そうなれば異貌人ストレンジャーの価値は落ちてしまうからな。焦ったえんじゅは行動を起こすはずだ。お前ら知らなすぎだぜ」


「なんやそれ…」


 施覆花おぐるまさんは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 おろらく俺も同じな顔をしていたのだろう、吾亦紅われもこうは俺達を見て嘲笑している。


「お前ら九鬼くき班は()()()ちゃんの集まりだから、あんまり上から期待されてないだろうな。まぁ綺麗な仕事だけやってればいいんだよ。汚れ役は紫雲英げんげさんに任せとけ……さ、もう帰っていいか?」


「…………今、俺達九鬼くき班は、えんじゅ班と合同で二人目の迷子ロストチルドレン救出任務の最中だ。アンタ、これをどう考える?」


 俺はそう言って吾亦紅われもこうを睨みつける。


「はっはっは、マジかよ!? 誰の注文オーダーだよ? 紫雲英げんげさんか? 九鬼くきえんじゅをぶつけるなんて悪いコト思いついたな」


 吾亦紅われもこうは手を叩いて笑った。


「おうコラ! なにがおかしいんや!? くだらん画策しやがって、お前ら紫雲英げんげ班がさっさとえんじゅ()()抑えとったらこないな事にならんですんだんやで!」


 施覆花おぐるまさんが吾亦紅われもこうに詰め寄るのを俺は肩を掴んで止めた。


 俺の手からは無意識に赤い蒸気が上がり、それを見て施覆花おぐるまさんは驚いた顔をしている。


はなぶさ……?」


「……どいつもこいつも、好き勝手しやがって……」


 俺は椅子から立ち上がり、吾亦紅われもこうの手首を掴んでそのまま机に強く叩きつけた。


「俺は特命を果たした……もういいよな?」


 そして抑えつけた吾亦紅われもこうの手の甲に短剣アンカーを容赦なく突き立てた。


 ドスッ!


 鋭い切先は手の甲と机を貫通した。


「ぎぃやあぁぁぁぁっ!!」


 吾亦紅われもこうが悲痛な声をあげる。


はなぶさっ! やめい!」


 今度は施覆花おぐるまさんが俺の肩を掴んで離そうとする。だが俺は動かない。


「ふざけやがって……お前らのせいで俺達の仲間は傷ついたんだ。死んでも許さねぇからな……お前は変装が得意な諜報員なんだよな…? 今後、誰かに化けてもすぐ分かるようにうに、お前の手に目印をつけておくぜ」


 俺は吾亦紅われもこうの手に突き刺した短剣アンカーをグリグリと数回捻った。


「あぁっ! やめっ!! ……ぐっ! やめでぐれぇぇぇっ!!」


 グジュグジュと音を立て、机の周りには吾亦紅われもこうの鮮血が飛び散る。クソ野郎だが血はしっかり赤い。


 短剣アンカーを強引に引き抜いて解放してやると、手首を押さえて悶絶している吾亦紅われもこうの胸ぐらを掴み、恫喝する。


「次、俺の目の前に現れたら殺すぞ……」


 吾亦紅われもこうは涙を流し、怯えた目で首を数回縦にふった。


 俺は踵を返して、施覆花おぐるまさんに班長と合流する事を伝える。途中で呼び止められたが俺は構わず取り調べ室を後にした。


*次回、『謀る』

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