詰み
◆英
「松代さん……あんたが母親のアカウントを使って中傷的な事を書き込んだのは、魔法少女アイラちゃんの事なんだな?」
松代は沈黙した。逡巡しているのが分かる。自分がどこかで間違えた事を言ったのではないかと。
そして松代は答えた。
「そう……だな、書いた」
「俺がさっき聞いた『あんな中傷する内容』とは、正確には、『なんで母親のスマホのアカウントで、プリプリ魔法少女アイラちゃんに登場する四人目の魔法少女サツキ役の声優、花畑春絵を中傷したのか?』だ」
……
「おめでたいことに彼女は最近になって結婚を発表した。アンタが母親のアカウントで、彼女を誹謗中傷する書き込みをしたのは結婚発表の翌日の一回のみだ。それも、開示請求されるほどに酷い書き込みだったが忘れたのか?」
前のめりだった松代は、椅子の背もたれに背中をつけた。
「松代は『プリプリ魔法少女アイラちゃん』のファンだが、一番好きだったのはサツキ役の声優、花畑春絵だ。彼女の熱心なファンだった。写真集、本、ゲーム…とにかく彼女関連の物は何でも集めていた。だが、婚約発表を受け、激怒した松代は部屋の中から彼女に関連する全てのグッズをゴミ袋に入れて押入れの中に隠した。そして母親のアカウントを使って書き込みをした」
松代は表情を作らずに無言でじっと俺を見ている。
「そもそも俺が言った『悪口の対象』。それは岡見監督の代表作を示さない。勝手にアンタがそう思ったんだ」
「…………」
「『なぜ母親のスマホのアカウントから、悪口を書き込んだんだ?』と聞かれれば、松代なら、花畑の事が真っ先に頭に浮かぶだろう。そして彼女を悪く語るか、黙るかどちらかを選んだはずだ」
「…………」
「あんた、松代本人に会って色々と調べたようだが、家には入ってないよな? 何年も引き篭もって、見た目が不潔でだらしない松代だ。部屋も汚いと思い込んでいたんだろ? でも実際は、母親が毎日部屋の掃除をしていたから清潔に保たれていた。部屋がゴミ屋敷だと言ったが、かなり綺麗だったぞ。それなのに、俺が勝手に部屋に入ったことだけに対して怒り、ゴミ屋敷というワードは否定しなかった」
松代(仮)は何も言わずにに俯いた。
「ついでにコレも見てくれないか」
俺は机の上に、厳重に密封された松代(仮)の汚れた下着と、使用済みティッシュを出した。
「クソまで漏らす演技はやりすぎたな……この下着に付着していた汚物の中の腸壁のDNAと、松代の部屋から持ち帰ったティッシュに付着していた体液のDNAには相違があった。ティッシュのモノは松代本人だと断定できたが、下着に付着していたDNAは別人のモノだ。俺の仲間には回復魔法を使える鑑定士がいる。ソイツに頼んで短時間で調べてもらった。かなり嫌な顔をされたがな……だが結果は間違いはない」
俺は、俯いたまま無言を貫く松代(仮)の顔を覗き込んだ。
「さて………あんたは一体誰なんだろうな?」
黙っていた松代(仮)が両腕をだらんと降ろして天を仰ぐ。天井からぶら下げられたライトが眼鏡に反射する。
「おちょくってんのかよ? ……そっちを最初に出しとけや、クソガキ」
「すまない、俺より性格の悪い人が、こうしないと納得してくれないと思ったんでね」
そう言いつつ、俺は心の中で胸を撫で下ろしていた。
「マジか……ほな、コイツは誰なんや? 英」
施覆花さんが俺に聞いた。
「最近、課の中で行方がわからない人が二人居ましてね……まぁ、あとは本人の口からお願いしたいのですが……」
俺の目配せに奴が反応する。
「オレは……吾亦紅だ」
*次回、『恫喝』




