坂口 ハジメ
◇ 坂口 ハジメ
「メリィーーークリスマァァース!!」
オレがトナカイの格好を、木下部長がサンタの格好をして、元気よく病室の中へ入る。
こども達は目を輝かせ、笑顔で一斉にオレたちに寄ってくる。サンタの木下部長が、白い袋からみんなへプレゼントを手渡しする。オレはその隣で、下手くそなクリスマスソングを歌った。
この病室には生まれながら臓器に重い疾患を持っているこども達が四人入院している。全員が臓器移植を待っている状態だ。
今日はクリスマス。オレと部長は病院側からの許可をもらい、計画していたクリスマス会をお昼に行った。子ども達の体調も今は安定している。
ちなみにオレと部長はこの病院の医師ではなく、病院に医療器具の販売や備品を納める仕事をしている医療専門機器メーカーの営業だ。
部長が最後のひとりにプレゼントを手渡しする。
「はい、これは菫の分」
「パパ! ありがとう!」
その女の子は、部長の娘、菫ちゃんだ。
生まれつき心臓の筋肉と、血を送る弁が弱く、治す方法は心臓を移植するしか方法はないらしい。部長が男手ひとつで育てあげ、今年で五歳を迎えた。
「パパじゃないぞー、サンタだぞー!」
そう言って部長は菫ちゃんを抱きしめた。
部長は菫ちゃんに頬ずりをする。
幸せそうな親子二人の姿を見て、オレは満足感で思わず笑みを浮かべた。そばにいる看護師達も頬が緩んでいる。きっと同じ気持ちのだろう
「本当によかったわね、菫ちゃん。手術が決まって」
「年が明けたら渡米するんですって、うまくいくといいよね」
我が子のように、いつもこども達をみてくれている看護師達も喜んでいる。
「そうッスね! 部長も菫ちゃんも頑張ったから絶対報われるッスよ!」
「おーい、坂口トナカイ! こどもを背中に乗せて部屋を一周してくれ! 俺は菫を乗せる! どっちが早いか勝負だ!」
四つん這いになってる部長がオレを呼んだ。
「ハジメ!おれが最初に乗るね!」
「おい、ショウ!次はおれだぞ!」
「おい、カケル落ち着け、おまえら二人同時に乗せてやるよ!」
オレは子ども二人を背中に乗せて四足歩行で室内を駆ける。
木下部長も背中に菫ちゃんと、サキちゃんを乗せ、室内を走り回る。調子に乗りすぎて看護師さんから怒られてしまったが、みんなが幸せになれるなら、オレは怒られても構わない。オレは独身だが、家族がいるクリスマスに触れられてとても幸せな気持ちだった。
……
「坂口、今日はありがとうな、みんな喜んでたよ」
その日の帰り道、木下部長に食事に誘われた。
いつも連れてきてもらっている居酒屋だが、店内はクリスマスイヴでも多くの客で賑わってている。
「オレはあの子達の笑顔が見れるならいくらでも付き合いますよ!」
そう言ってオレは、十二月の渇いた空気でカラカラになった喉に生ビールを流し込む。
「しかし、いいのか坂口? こんな日に俺なんかと呑んでて……お前、彼女とかいねーのか?」
「女なんていないッスよ、そもそも海外ではクリスマスは家族と過ごすものッスよ。それが正しいクリスマスっす! 今日という日は男女の戯れの為にある日じゃねーッスから」
「ははは、お前らしい愚直な考え方だな」
部長は焼き鳥の串を横から咥えて、一気に頬ばる。
「でも部長、大丈夫なんスか? 菫ちゃんの手術の費用? 億単位の金が必要だと聞きましたよ?」
渡米して心臓移植の手術を受ける為には、手術代の他に渡米費用、入院に掛かる費用、ホテルの宿泊費などで莫大な金が必要になるはずだ。部長はどうやって資金を工面したのだろう?
「心配には及ばねーよ、身内から借りまくって、会社からも借りまくって、クラウドファンディングまでしたからな。今から返済の事を考えたら吐きそうだが、菫の為なら屁でもないぜ」
部長はニカっと笑って、オレの皿にも焼き鳥を乗せてくれた。
この人はなんでも前向きに考える事ができる、まるで太陽みたいな人だ。尊敬できる憧れの上司。
この人と菫ちゃん、ほかの子達にも、これから最良の人生が訪れる事を、オレは心から願った。
しかし、運命というのはあまりに残酷だ。幸せを願う人へ、望んだ幸せを与えない。
年が明けても、二人がアメリカに渡ることはなかった。
*次回、『坂口 ハジメ ニ』




