蠢動
◆英
甲西ダムから少し離れた場所にある廃墟のホテルの駐車場に俺達の乗った車は止まっている。
蒲公英課長に、今回の件での違和感について聞かれた俺は、鉄線さん達と合流する前にすれ違った車のナンバーを、蒲公英課長に教えた。すれ違ったのは一瞬だったが、深夜に禁足地のダム周辺ですれ違うにはあまりに不釣り合いな高級セダンだ。無意識にナンバーを覚えていた。
仮にキャンプに来たのだとしても、あんな車で山にくるだろうか?
俺が見た高級セダンのナンバーを黒百合がノートで照会したところ、すぐに特定できた。その車は四十雀が院長を務める病院の所有する車だった。
俺と千代草は蒲公英課長の車から降ろされた。
「もうすぐここに迎えのヘリが来る。桔梗も乗せてあるから千代草はすぐに診てもらえ」
課長は助手席に座ったままそう言った。
「待ってください課長、あのダムで起きた事を、教えてくれませんか?」
俺がそう言うと、蒲公英課長は、俺から視線を外して、グローブボックスからサングラスを取って装着した。
「焦らなくても、いずれ分かるさ……そうだ、お前にコレを渡しておこう」
課長は車の窓から手を出して小型の通信機を俺に向かって投げた。俺はそれをキャッチする。
「これは?」
「今回の件、俺の中ではもう繋がっている。プランを練る。お前にはソレを使って連絡するから大事に待ってろ。それとお前ら、今日俺と会ったことは誰にも言うな」
そう言うとガラスを閉じ、課長を乗せたSUVは俺達を残して走り去った。
蒲公英課長と黒百合の姿が見えなくなって、隣の千代草が口を開いた。
「英さん、過去にあのダム付近で何かあったんですか?」
「ああ、万年青先生のところで昔の写真を見せて貰ったんだ。そこには十五年前の先生と紫雲英班長と、こどもの頃の九鬼班長が写っていた。先生から聞いた話だと、九鬼班長は、救出対象者として紫雲英班長に助け出されたそうだ。その時のポイントRが、甲西ダム横の公園だった。」
「あの九鬼班長が、救出対象者?」
千代草は驚きを隠せない。
「その後、何故かあの公園は禁足地に指定された。そして九鬼班長のあの強さ……もしかしたら、あの人はお土産の能力持ちかもしれないな」
「私たちと同じ、希少種……」
遠くからプロペラの音が聞こえてくた。朝日が差し込む山間からヘリの姿が見えると、少しだけ安堵した。だが今回の事件は身内が関わっている。まだ気は抜けないと、俺は拳を固めた。
◇槐
「ほぅじゃ……また邪魔されたわい。おそらく、全部筒抜けなんじゃろう……ほじゃが必要な道具は届いたんじゃ、もうちょい待ってくれや、四十雀先生」
*次回、『坂口 ハジメ』




