賢者達
◆千代草
「リアは、こんなことをするような人じゃなかった……」
私の体に乗りかかるリアが滲んで見える……私は泣いているのだ。
「あ、あぁ……」
リアは私の泣き顔を見て怯えた表情になると、ベッドから降りて私を解放してくれた。
「ごめん、雫……僕はキミを……」
コチラに背を向けて謝るリアの言葉を遮る。
「ひとりにしてほしい……」
私はそう告げると体を起こして露になった肌を手で隠した。
リアはゆっくり立ち上がり、何も言わずにそのまま部屋を出て行った。
私はベッドの上で、今頃になって震えはじめた体を、膝を抱えて無理やり止めようとしている。
ここは確かに昔、私が望んで作った世界なのにどうしてリアはあんなことを……恐い……ここにはもう居たくない。英さん……助けて!
◇???
その男が居る部屋の壁には四枚の絵画が飾られてある。男は椅子に腰掛け、正面の絵画達をじっと見据えている。部屋は耳鳴りがするほど静かだ。
ほどなくして、絵画から複数人の声が流れはじめた。
「異世界は一つの塊だ。感覚的には現実世界に近い三次元構造だか、実際には平面である。そして隣接し合うその平面はパネルとして多面的に構築されている。ハニカム構造がそれに近い。だか、壁を突き破らない限りお互いを観測、干渉することは出来ない。ドラゴンが火を吐く世界も、魔王がはびこる世界も、近代の戦争も、すべて同じ世界線の中で起きている。一箇所に集約されているのだ。」
「それが異世界集合体『蜂窩』……」
「だが、ある者がその壁をぶち破ることに成功してしまったぞ」
「紫雲英よ……ワシらの方針は今、この時より変更とする。よいな?」
「他国に遅れをとること、まかりならん。こゝろせよ」
絵画からの声達に紫雲英が応える。
「蒲公英と槐はいかがなさいます? おそらくどちらも私達側には付きませんよ」
「槐なぞ小物。捨ておけい……だが蒲公英の思想は危険だ、枯らすなら必ず根から枯らせ」
「承知致しました。賢者達……」
絵画からの声と気配が途絶えると、紫雲英は左手薬指にはめられた指輪を撫でた。
*次回、『私の素敵な思い出たち』




