夢の代償
◆千代草
リアは額に汗をかき、ずいぶんと呼吸が乱れていた。慌てて私のところへ来たのかな?
「雫……」
しばらく見つめ合ったあと、そう呟いて彼は私を強く抱きしめた。
恋人との久しぶりの抱擁に胸は高鳴なった。私は彼の背中に手を回して服を掴み、ギュッと抱きしめ返していた。
ほとんど反射的な行動だった。
「おかえり、雫……」
「あ、うん……ただいま……」
……
これはマズい……非常にマズい。私はここで誰にも関わらずに助けを待つつもりだったのに、よりによってリアに見つかってしまうなんて。
無下に追い返すこともできずに、リアを部屋に招き入れてしまった。とりあえずテーブルに着かせると、リアは矢継ぎ早に質問をしたきた。
何処に行っていたのか? 何故黙っていなくなったのか? その服はどうしたのか? 今までどう過ごしていたのか? それらの質問に対して真実を言えず、私はただ謝る事しかできなかった。
リアは、この地域一体を収める領主の一人息子だ。年齢は私より二つ下。銀髪サラサラミディアムヘアーの美少年。
優しくて泣き虫。剣の腕と魔法はイマイチだけど、笑顔がとってもチャーミングで甘え上手。奥手なのがまた唆る。私の好みをぜんぶ……
あ、いや、これは私が設定したから都合上そうなっている人物だ。
「とにかく、雫が無事でよかった。また会えて嬉しいよ。もう急にいなくならないでね」
目を潤ませながらも爽やかな笑顔を見せるリアに、思わず胸が締め付けられる。でも、同時に怖気がした。
ここは異世界転生者が自分の都合よく創造した優しい異世界、蜂窩の一部にすぎない。
この場所に人を甘い香りで誘き寄せ、夢を見させたまま骨の髄まで溶かすアプリ……靫葛
過去の私なら、何も気にせずこの夢に飲まれてしまっていただろう。
「あのね、リア。何も言わずに突然いなくなってしまってごめんなさい……でも、私もう行かなくちゃならないの」
「何処へいくの? 僕のこと、嫌いになったの?」
リアは眉を八の字にする。困り顔もとても魅力的だ。
こんな時にどう言えばよいかわからない。無責任かもしれない。でもここはもう私には必要の無い世界。
「ごめんなさい、リア、貴方のことは好きだけど、私には他にやらなきゃならない事があるから……」
リアの目を見て話せない、見れば決意が揺らいでしまう気がする。
リアは立ち上がり、何も言わずに正面から私の肩を抱くと唇を重ねてきた。私は驚いた。初めての感触に頭の中が困惑した。一度離れると、リアは真っ直ぐ私を見てこう言った。
「僕はもう雫を離したくないんだ!」
この子にこんな強引な一面があるなんて知らなかった。
「お願いだ……雫」
リアはゆっくりと、もう一度私の唇に近づこうとする。
私はそれを瞳を閉じて受け入れてしまった。
そのまま舌を絡め、リアは私の背中に手を当て、ゆっくり後ろへ押されたかたちでベッドの上に倒された。
覆いかぶさったリアは次に私の首筋に顔を埋めながら片方の手でブラウスのボタンをはずそうとする。
不思議だ……なぜだろう。
自分でもよくわらない……私は今、英さんの事を思っている。いつも気怠そうにしていて、私にぶっきらぼうな態度を取るような人なのに。
でも、いざって時はとても頼りになる人……。仲間を思いやるあの優しい目……
私は私に覆い被さっているリアのことを見ていなかった。
「ま、まって、リア! ……わたし、んっ」
私の次の言葉が出るのを、リアは唇で塞ぐ。それを顔をずらして解く。
「……っ! お願い! 待って!」
私は両手でリアの肩を押して引き離すとやっと動きが止まった。
「雫は……他に、好きな人ができたの?」
リアは悲しそうな顔をする。
「違うのよ、リア、落ち着いて……」
突然リアが馬乗りになり、私の胸ぐらを両手で掴むとブラウスを強引に引き裂いた。
ブチブチとちぎれ飛んだボタンが床を転がる。
「誰にも渡さない! 雫は僕のものだ!」
*次回、『賢者達』




