急襲
九鬼班に予想外の報告があったのは、迷子奪還作戦決行二日前の夜だった。
一人目の迷子、宮田カケルが四十五日ぶりに発見されたのだ。
第一発見者は両親だった。カケルは自分の足で家に帰り、自宅のインターホンを鳴らした。
彼は失踪した時の記憶は一切なかったが意識ははっきりしていて健康に問題はなさそうに見えた。
カケルは元々心臓に重い疾患があった為、両親はすぐに病院へ運び、検査を受けさせたのだが、不思議なことにカケルの心臓は優良な状態だった。
しかし、その五時間後に事態は一変する。宮田カケルは突然意識を失くしたのだ。主治医による処置がされるも、まもなく息を引き取る。
違和感を覚えた医師が早急に病理解剖を行なった結果、彼の胸部の中には本来あるべき臓器が消えていた。
数時間前まで命の鼓動を刻んでいた心臓が、どこにも見当たらなかっのだ。
◆千代草
「三十分後に英がここに到着する予定だ。千代草は周辺を警戒してくれ。俺は機材の準備をしておく」
鉄線さんからそう言われた私は、ワゴン車を降りて辺りを見渡した。
私達が今いる場所は、山の中にあるダムのすぐ近くの公園だ。時刻は午前三時二十分。ここが今回のポイントRに選ばれた場所だ。
ワゴン車のハッチバックを開き、中から歪みを検知する機材を取り出す。それらを慣れた手付きでセッティングしている鉄線さんに話しかけた。
「英さんが今会いに行ってる万年青さんって、どんな人なんですか?」
鉄線さんは手を休めずに私の質問に答えてくれた。
「アレ? 面識なかったっけ? あぁ、そうか、千代草がウチに来る前に万年青さんは救済課を抜けたんだったわ」
「あの英さんが、先生って呼んでましたけど……」
「英の能力を解析して、効率的な戦い方と武器を考案したのが万年青さんだ。だからアイツはそう呼んでるんだろう」
「へぇー、すごい人なんですね?」
「まぁ、確かに凄い人ではあるけども……かなりの変人だぞ」
鉄線さんは私に向けて苦笑いする。
機材の配線を全てつなぎ終え、電源を入れた直後だった。
ジジ……ジジジジ……
私は耳を疑った。これは空間の歪みを感知する音だ。
私たちはまだ異世界へ干渉していない。なのにこの音が鳴るのはありえない、異常な事態だ。
鉄線さんは、私と顔を見合わせると、すぐに車から離れて周囲の警戒を強めた。
夜の終わりはまだ見えない。中聞き慣れているはずの検知の音が、周辺の暗闇に溶けて混ざり、私の不安を煽った。背中に冷たい汗が流れる。
私はいつでもシロを出せるように、常に斜めがけに装備しているポシェットの蓋に手をかけようとした……でも、その手は空を掴んでいた。
ポシェットが無い!?
視認するとポシェットは私の足元に転がっている。拾おうとした瞬間、背後から強い力で拘束され、同時に口の中に布のような物をねじ込まれた。
「んんッ!」
私の事態に気づいた鉄線さんが、手を伸ばしてくれたが、その手との距離は一気に遠のいた。
体が宙に浮かぶ感覚がした後、鉄線さんは遠ざかる私の名を叫ぶ。地面から離れた私の視界は暗い闇に支配され、やがて意識は断たれた。
*次回、『懐旧』




