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甕に帰る狸  作者: futan
第二部 共感
11/25

2

「ここは何処だ・・・」

見たことのない駅舎の駅名票を見上げ思わず声が漏れた。

「ここは何処なんだ・・・」

あまりの出来事に同じ言葉しか出てこなかった。

「仲村、何度も同じ事を言うなよ。一度言えばわかるよ」

「俺たちは亀田にいたはずだ・・・よな?それが何故甕潟なんて所にいるんだ」と震える声で古林に詰め寄った。

「ああ、確かにここへ着いた時は亀田だったが。この辺りに甕潟なんて地名は見あたらない。ついでに言えば新潟県に甕潟なんて言う地名はない」と古林はiPadの地図アプリを見ながら言った。

「さっきと駅名が変わっている」

最初に気づいたのはミズホだった。

 呆然とした三人が駅前交差点から見上げる先には駅舎に設置されている駅名票には初號丸形ゴヂックで甕潟駅と表示され橋上駅舎から地上駅舎に変わっていた。

 数時間前に古林、ミズホと三人で東京駅から上越新幹線で新潟駅へ向かった。そこから信越線に乗り換え亀田と言う町へ来たはずだったが、いつの間にか甕潟という地名の土地にいた。確かに二時間程前にこの駅に到着した時は亀田駅だった。

 駅前の景色も高い建物が消え空は広くさっぱりとしていた。大きく変わっていたのは駅名と駅舎だった。他は殆ど変わっていないようだ。歩いてきた道も駅前通りもそれ程目立った変化は見受けられない。

「なぁ古林。俺たちワープしたのか、それともテレポートしたのか?」と話し掛ける。

それを聞いた途端に古林の肩が震えだした。古林は笑いを堪えていた。

「何が可笑しい。訳が解らん状況になっているんだぞ」と我知らず声が荒くなる。

「仲村のセンスは古典SF小説並みだな。今時の小学生だってもっと気が利いたこと言うよ。うっふっ」

古林は小馬鹿にした笑いを漏らした。そんな様子をミズホは横で不快な表情を浮かべ見ていた。

「黙れ。そんな事よりこの状況だよ。・・・どうなっているんだよ」

「そうだなぁ。今の時点では何も解らない。今は状況観察するしかないだろうな」と古林は事も無げに言う。

 言葉が継げなかった。この異常な状況下でも慌てず騒がず落ち着いている古林を見ていると何となくばつが悪い。何よりもしれっとしている古林が憎たらしく思えた。ここは取り乱す所だろう。奴の精神状態はどうなっている。だが確かに騒ぎ立てても状況は変わらない。この状況の原因を究明しない限りは。

「ネットに繋がらない。GPS衛星やみちびきが見つからない。測位衛星群が全てロストしている」と古林がいきなり声を上げる。古林の言葉に自分のスマホを見ると圏外と表示されている。もちろん電話もつながらない。

「何が起きているのだ・・・」

「取り敢えず移動してみよう。測位衛星群のロストもスマホが使えないのもこの周辺で電波障害が起きているのかも知れない」

古林の提案で三人は再び商店街の方へ向かい歩き始める。跨線橋近くの交差点で信号待ちをしていると交差点に設置されている標識にも甕潟と表示されている。

「やっぱり甕潟か」

「そりゃそうだよ。駅にもしっかりと甕潟とあったじゃないか」と古林iPadを操作している。

「そう言う事じゃない。俺たちは亀田に来たはずなんだ。亀田に。それが何故いつの間にか甕潟なんて所にいるんだぞ」

頭が混乱している。思わず腕時計を耳に当てた。腕時計の時を刻む音は心を落ち着かせる為のルーティンだった。

 ミズホが何も言わず道路の方を睨み、指を差した。指差す先を見ると白い車が信号待ちをしていた。ドアにはペパーミントグリーンの波模様の上に黒文字でデイサービスセンター大月と描かれていた。

「あのデイサービスの送迎車がどうかしたのか」

古林は興味深そうに尋ねた。

 指を指された運転手もこちらを見ている。後続の車からクラクションを鳴らされデイサービスセンター大月の送迎車は慌てて発進していった。

「何だろうな。何か心当たりが有るのか」と古林はミズホに問いかける。

「今はそんな事どうでもいいだろう。この異常な状況をどう理解すればいい」

二人の間に割ってはいる。古林は此方を向くと両手を広げ、肩を竦めるだけだった。

 いい年をして迷子か、それもただの迷子ではない。突然違う土地にいたのだ。状況を思い起こした。だが、どうした訳かはっきりと思いだせない。ここへ来てからの記憶がぼんやりとしていた。酷く酔っぱらってでもいるような気分だ。

 原因は間違いなくあの石だ。それだけは妙に印象深く記憶に残っている。この異状な状況に陥ったのはあの石を見に行ってからだ。ほんの数時間、いや、数十分前かも知れない出来事なのに濃霧の中のようなぼんやりとした記憶を必死で辿り始めた。

 腕時計を見つめる。時間の感覚さえ曖昧に感じられ、確かめるように再び腕時計を耳に当てた。リズミカルなムーブメントの振動音が聞こえる。この腕時計だけは規則正しく時を刻んでいるように思えた。そんな最中古林が腕を掴み尋ねてきた。

「仲村。取り込み中、済まないが俺達が亀田に到着した時間を覚えているか」

「亀田に到着したのは十時過ぎだったような気がするが。何故・・・・?」

「仲村の時計は今何時だ」

古林の問いに腕時計を見ると九時十五分を刺していた。俺達は時間を遡ったのか。地名が変わっているだけで無く時間まで変わっている。何がどうなっているのだ。

「特異な事態に巻き込まれている事は確かだな」と古林が空を見上げた。

 蒸し暑く、濁った風が三人を取り巻いていた。

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