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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第九八話 咄嗟の判断は大事


 やはりというべきか何と表現するべきか、この時期のアイスとは偉大だ。


 夏の暑さで満たされ切った身にも心地よい冷たさが染み渡っていく感覚は他の何者にも代えがたく、言葉でも表現しきれないものがある。

 …まぁアイスを食べた直後に、他の要因によって身体の熱が高まっていくことがあるとするならその限りではないが。


 今回の蓮はまさにそのケースに当てはまる状態であり……しかしそこはもうどうでもいい。

 このことは単なる買い物の一環だと考えていて気を緩めていた彼にも責任がある。


 いくら美穂がこちらに気を許してくれているとはいえ、現在のお互いの立ち位置を考慮した最低限の配慮は徹底しておかなければ。

 彼女の好意にばかり甘えるようになってしまえば、それこそ望まない未来への道を一直線で転がり落ちていくだけだ。


 それらの理由と先ほどやってしまった迂闊な行動を反省し、蓮ももう一度意識を切り替え直すといつの間にか手にしていたアイスを美穂も食べ終えていたので店を出ることに。


「いやぁ…美味しかったね! あれだけの味なら、また今度食べに来るのも悪くないかも!」

「俺も同じこと思ったよ。もう少しで夏も終わりだし、そうしたら食べる機会も減るだろうから…それまでにもう一回来るのもいいかもな」

「うん! その時はじゃあ、また私と一緒に行こうね?」

「…分かってるって。黙って行ったりしないから」

「むっ…本当かな? こういう時の蓮くんは妙に怪しいから…」

「本当だって…信じてくれよ。誓って美穂を置いて来たりしない」

「………なら、今は信じてあげる! 絶対だからね!!」


 店を出た後、その道中でも語ることは今食べたばかりのアイスにまつわる感想ばかりだったがそこで蓮も妙な約束を交わされる。

 どうやら今後、今の店に蓮一人で黙って赴いた際には後々とてつもないペナルティが課されることになったそうだが…特に問題も無いだろう。


 美穂の言う通り、もしそうした用事が出来た時には他の用事でも重なっていない限り彼女と共にやってくればいい。

 そのくらい大した手間でも無いのだから。


「…ところで、もうアイスも食べ終わったわけだけども。もうこれで用事は終わりって感じで良いのか? 見る場所がこれ以上ないなら帰ることになるんだが…まだ見たいところは?」

「──ふっふっふ…よくぞ聞いてくれたね、蓮くん。そこはバッチリだよ。実はさっきの待ち時間の間にリサーチしておいたんだ」

「うん?」

「もうちょっとだけ時間を掛けさせちゃうのは申し訳ないんだけど……()()()()。一か所だけ見ておきたいお店があったの! そこだけ付いてきてもらっても…いい?」

「場所にもよるけど…いいよ。どの店なんだ?」


 なのでこれらの用件を済ませ、ほんの些細な外出から始まったこの買い物で片付けるべき事項は粗方終了したと言っても良くなってきた頃合い。

 先ほどの様子からしても美穂の方も赴きたいポイントは然程残っていないようでもあったので、よもやすればこれでひとまず終わりかとも思っていたが…そこは彼の推測とは異なる返答がもたらされた。


 曰く、ついさっきまでは発見できていなかった所で一つだけ見ておきたい店舗があるとのこと。

 すっかりもう終了のテンションでいた蓮の面持ちを見ていたからか、そこに釘を刺してしまう返事を申し訳なく思ったようで伏し目がちに申し出されてくるも…別にその程度なら構わない。


 これであと何十か所と見たい場所があると言われれば少しくらいは渋った可能性があったとしても、一つ程度ならさしたる手間でもないので問題も無し。

 ゆえに蓮も付き添ってほしいと告げられた後で深く考えもせず安易に了承の意を返し、直後に彼女から該当の店先を示されて……深く()()()()


「えへへっ、そんな変なお店ではないから安心していいよ。ただほんのちょっとだけ、蓮くんには()()()に一緒に行ってもらいたいな~って──…」

「………却下。よし、早く帰ろう」

「──って、ちょっと待って!? 今了承してくれてたよね!? どうしてすぐ帰ろうとするの!」

「当たり前だろうが……美穂お前、何ていう場所に連れて行こうとしてるんだよ…」


 こちらの警戒心を根こそぎ溶かしきるような笑みを浮かべつつ、彼女が指し示してきた先にある店舗。

 そこは一目見ただけでも華やかなレディース向けの衣類を販売しているショップであって、見るからに華やかな雰囲気を周辺に振りまいている。


 ……ただ蓮は、その場所を見て一考の余地すら与えず即座に付き添いを断った。


 というのも、これが単純に普通の衣類を販売している店であれば彼も特に断ることなく付き合ったに違いない。

 それでも一瞥することすらせず断固拒否の姿勢を見せたのは、あの店先にて販売されている()()の数々を遠目にでも認識出来てしまったから。


 華美な装飾を細部にまで施されながら、女性の地肌を保護する目的でも飾り立てるためにも扱われるもの。……つまるところ、女性ものの()()である。

 要するに目の前のランジェリーショップに付き添ってほしいなどと言われたことを悟った瞬間、行けるわけがないと即座に判断した蓮は返事をさせる間もなく要求を突っぱねたのだ。


「だってぇ…この前胸のサイズを測り直してみたらまた大きくなってたから新しいのを見たいんだよ。それなら蓮くん好みのも把握しておきたいし、一緒に行くしかないでしょ?」

「何を当然のように『でしょ?』なんて言ってるんだ…付き添うわけないだろ。俺が行ったりしたら奇異の視線に晒されて気まずい思いするだけだぞ」

「……むうぅぅ! さっきはいいって言ってくれてたのに!!」

「それはそれ、これはこれだ。とにかく俺は行かないから、美穂一人で見てきてくれ。そこのベンチに座って待ってるよ」


 いくら何でもその要望だけは美穂の望みだろうと叶えることは出来ない。

 ただでさえ男の蓮があのような場所に近づくのはハードルが高いのに、そこに加えて彼女が下着を吟味しているところに付き添っていれば周囲の女性客からおかしな視線を向けられることは避けられない。


 いいや、もしかしたらそうはならない可能性も僅かには残されているも確実にそうなる可能性の方が高いはず。


 ……それとサラッと明かされてきたので聞き流しそうになったが、恐ろしいことに美穂の豊満な胸部は未だに成長しているらしい。

 彼女自身の手でその柔らかさを主張するように、揉みこまれる度に形を変える様子からは嘘も冗談も感じ取れないのでおそらく事実なのだろう。


 まぁだとしても、このような人の目がある場所で胸を下から持ち上げ、視界越しに弾力を主張してくるのは止めていただきたいが。

 具体的に述べるのなら蓮の理性を焼き切りにかかる仕草を。切実に。


「ふーんだ、いいもんね! それなら私一人で、蓮くんの目を釘付けにするくらい魅力的な下着買ってくるから!」

「……いやそれ以前に、どうして俺が美穂の…その、下着を見る前提みたいになってるんだ? そんな機会あるわけないだろ。…無いよな?」

「…………それじゃあ少し見てくるね! 蓮くんはここで待ってて!」

「あ、おい答えて行けよ!? …絶対見たりしないからな」


 だがその一環として交わしていた会話の最中にも何やら不穏な気配を漂わせる文言を残しつつ、彼女は蓮から更なる追及が飛んでくる前に逃走する選択肢を取ったようで。

 彼が美穂の下着を見ることなど未来永劫無いだろうと呆れた様子で言い放つ蓮に対し、言い返すわけでも反論するわけでもなく聞こえないふりをしたまま立ち去った彼女の後ろ姿には嫌な予感を覚えざるを得ない。


 ……しかしながら、既に立ち去ってしまった彼女をここで呼び止めるのも変な話であるため蓮も軽く諦めながら近場のベンチに腰掛けて待つこととした。


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