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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第九七話 当たり前すぎて


「うわぁ…想像してたよりもずっと種類がいっぱいあるんだね。蓮くんはどれにする?」

「アイス、か…俺は別に食べなくてもいいかな。美穂が好きな物を選んだらいいよ」

「えっ…………」

「え?」


 偶然発見したアイスクリームの店に足を踏み入れると、予想通りの光景ではあるがそこそこに人の波で混み合っている状態。

 夏場の、それも蒸し暑さが増してくるこの時間帯であるためある種当然なのだが実際に目の当たりにすると中々の圧迫感だ。


 しかしこの見ているだけで辟易としてしまいそうな景色を前にしても、これだけの人を集める人気ぶりは見ただけで実感できる。

 店舗前のカウンターにこれでもかと並べられたアイスのフレーバーの種類を豊富に用意されていることも然り、どちらかというとカラフルに装飾された店内の様相だってそうだ。


 ただそんな折に目前の賑やかな光景を確認しながら、密かにテンションを高めていた美穂の問いに対して蓮が返す言葉は自分は食べなくてもよいとの返事である。

 ……少し待ってほしい。少しだけ弁明をさせてほしい。


 これは別に美穂とアイスを食べるのが嫌だとか、そんな意図を込めたわけでは無い。

 単純に彼女に連れられる形で訪れたこの場ではあるが、素直なところを言ってしまうと今の気分として積極的にアイスクリームを食べたいとの意欲が湧き辛くなっていただけだ。

 何より蓮自身、彼の嗜好が甘い物をそれほど好んでいないので今回も美穂が好きな物を食べてくれれば満足だったのだ。


 以上の理由から遠慮をしたわけでもなく、本当に文字通りアイスの気分ではなかっただけで深い意図も意味もない。

 ただ…その言葉を受け取った美穂だけはそれを聞いた瞬間に何故かひどくショックを受けたような表情を浮かべて。


 呆然とするかのような反応を蓮に向けつつ、微かに震えてしまっている声を何とか紡ぎながら…こう言われてしまう。


「も、もしかして…このお店に来るの、嫌だった? それとも私とアイスは食べたくなかった…とか? だったらごめんね…無理にこんな場所まで連れてきちゃって…」

「イヤイヤ、そういう事じゃないからな!? 別に美穂と来るのが嫌とかではないから安心してくれ!」

「そ、そうなの? でも今蓮くんはアイスを食べたくないって…」

「それも勘違いだよ…ほら、だったら俺も普通に食べるから不安そうにしなくていいよ。断じて美穂といるのが嫌とかじゃないから」

「うん…よ、良かったぁ……てっきり蓮くんが嫌がることに付き合わせちゃったのかと思ったよ…」


 どうやら蓮の放った言葉は受け手側である美穂からとんでもない解釈をされてしまっていたらしく、あまりの衝撃とショックから普段から気丈夫な彼女の顔色を青くさせてしまった。

 しかし当然ながらそれは誤解も良いところであり、蓮の側にそのような意図は一切ない。


 それでも美穂の反応の仕方があまりにも悲壮感を漂わせていたために、彼も自分の好みが云々などと言っていられる状況では無くなってしまった。

 気が付いた時には考えるよりも早く蓮もアイスを食べると宣言していて、そう明言するとようやく美穂も安心してくれたのか震えていた声色も鎮まりを見せていた。


 ……甘いと言うことなかれ。

 美穂にあのような顔をされてしまえば蓮に取れる選択肢など最初から決まり切っていて、彼女を涙目にさせてしまう未来など選べるはずもない。


 なので結論から言うと、数分後には自分たちが眺めていた行列に並ぶ姿が目撃されることになったという。




「ふわあぁ…! 今まで食べたことは無かった種類だけど、この味も美味しいぃ…!」

「確かに、これは美味いな…ここまでしっかり味わえるとは思ってなかったよ」

「だよねだよね! アイスだから冷たさを求めてたのは当たり前だとしても、それ以上に甘さがしっかりしてるというか…うぅん、頬が蕩けちゃいそう…」


 店側の回転効率が想像していたよりも良かったのか、幸い蓮たちが並び始めてからそこまで時間を掛けずに注文までありつくことが出来た。

 そして今、二人揃って店内の中心から少し外れた片隅の位置にてそれぞれがチョイスしたアイスを頬張っているがその味わいは期待を超えてくるもの。


 美穂の方はコーンの上に丸く乗せられた橙色のアイス……聞いたところフレーバーはオレンジらしい。

 これを口にして感動したように瞳をキラキラと輝かせ、蓮にもその感想を共有していた。


 言いたいことは彼にもよく分かる。

 何しろ蓮が食べている物も彼女の味わいに決して負けず劣らず、素晴らしい後味を実現しているのだから。


「…そういえば、蓮くんは何のアイスにしたの? 私はこれだけど…」

「こっちもそこまで尖ったものじゃないけどな。見たら期間限定の味があったから、試しにそれにしたんだけどこれも結構いけるよ」

「んん! そっちにしたんだ! 確かにそれも見てたら美味しそうだったもんねぇ…」


 自らのアイスに感動した様子ではむはむと味わっていた美穂に対し、蓮の方はというと小さなカップに収められた黄金色に照り輝くアイスをスプーンですくって食べている。

 こちらは何やら期間限定のマンゴー味らしく、蓮もあまり食べた経験が無いので分からないが味としては中々に美味だ。


 濃厚でありながらさっぱりとした酸味がよく効いており、それほど甘すぎる物は好まない彼であっても満足感を高くして楽しめる仕上がりである。


 が、そこでふと気が付いた事柄にはなるも何とはなしに横の彼女を見てみると美穂はどこか興味深そうな表情を見せて蓮のアイスを見つめていた。

 ……これはもしや、そういう事なのだろうか。


 頭の中でそんな推測を立てた彼は意図を悟られないよう、しかしさりげなく話題を振ってみた。


「…ならもしよかったら美穂も一口食べてみるか? 気になるなら分けるよ」

「えっ、いいの? …それなら少しだけ味見させてもらってもいいかな?」

「いいよ全然。ほい、食べてみてくれ」

「いただきま~す……んむ。……んっ! これも美味しい!」


 予想通り、蓮が恐る恐る提案してみれば美穂は少し遠慮するかどうか迷う素振りこそ見せていたものの最終的には味見の案を受け入れていた。

 目線から何となく察しはしていたが、彼のアイスの味がどのようなものか気になっていたらしい彼女の言いたいことは短い付き合いだろうと蓮も大体は分かるのだ。


 ゆえに自分のスプーンで一口分をすくうとそのまま差し出し、躊躇なく頬張った美穂はというとこれまた良いリアクションでその感動を表現してくれていた。


「この爽やかにも関わらずしっかりとした甘み……しかも全然くどくないよ!」

「中々いけるよな。美穂にも満足してもらえたようで何よりだ…っと!」

「んふふっ、味見させてくれてありがとうね? じゃあせっかくだし──今度は()()()食べてみてっ! 私ばっかり貰うのはフェアじゃないもんね!」

「…また急なことを。スプーンまで奪わなくとも良かっただろうに…」

「いいの! はい! つべこべ言わずに食べる!」

「はいはい……むっ、こっちも結構美味いな」

「でしょ! そっちも良いけど…私のも凄い美味しいんだもん!」


 ──ただし、その流れは彼だけで終わることなく。


 美穂が食べ切ったところを見届けて自分のアイスを引き続き味わおうとした瞬間、手に持っていたスプーンを掠め取られた蓮は気が付いた時にはそれですくわれた美穂のアイスを差し出されていた。

 おそらく…というか目の前の光景と今の発言からして彼女も蓮と同じことがやりたくなったに違いない。


 つまり美穂も彼にアイスを食べさせるなんてシチュエーションを再現したくなったようで、こうなると実現するまで彼女はこちらの言う事を聞いてくれなくなってしまう。

 よって仕方なく蓮は彼女の言う事に従い、少し身を屈めて甘さの塊を頬張る。


 すると美穂はそれでようやく納得してくれたらしく、やっと彼のスプーンがそれぞれの手を一巡して戻ってきた。


 しかしこれでいよいよ目の前のアイスに集中できると、蓮は彼女の些細な我儘に苦笑しそうになりながら手を動かして──()()()()に思い至ってしまった。


(………ん? ……あ、そういえば何気なくやったけど…今、特に不思議に思うこともなく美穂と()()()()()()()()よな。…何やってるんだよ、俺は…公衆の面前で……)


 そう、そこで蓮が気が付いたのは今しがたのやり取りを含めた一部始終について。

 あまりにも流れが自然過ぎたために張本人の彼でさえも一瞬忘れかけるところではあったが、よくよく考えていくと今蓮は当たり前のように美穂へとアイスを分け与えていた。


 付け加えるならその際に彼が使用していたスプーンをそのまま利用していたので、間接キスのオプションもセットでやらかしていた。


 ……まるで親密な仲にある男女がするような一連の行動を、ごく自然なことのようにこなしていた自分自身の記憶を今一度振り返って蓮も今更ながら呆れた心境になってしまう。

 頭では美穂は友人であると言い聞かせておきながら、肝心な場面ではこれだ。


 要するに彼も口ではどう言っていようとも、無意識下では当然の如く彼女を受け入れ始めているとのことで……自分で自分が情けなくなってくる。


「──むん? 蓮くん顔赤いよ? どうかしたの?」

「…何でもない、自分の愚かさを思い知っただけだから…」

「?」


 蓮にとって幸いだったのは、今の出来事についてもう一人の当事者である美穂が何かに気が付いた様子を見せていなかった事。

 これで彼女までも意識していたなら散々揶揄われていたこと間違いなしだっただろうが、キョトンとこちらを見つめている態度からしてその可能性は無さそうなのでそこだけは一安心といったところか。


 まぁ先ほどのことを思い返して自身の気の緩みを痛感させられた蓮の方は頬に集まり始めた熱を分散させることに苦労させられることになってしまうも、その点は失態した分の罰として甘んじて受け止めることにした。


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