83話:リアムとリリィ
〜前回のあらすじ〜
巫女の救出を目的とした大陸北部への航海は、魔族の襲来により波乱の幕開けとなってしまう。
ケルピーとヒンドロ────二種の敵はそれぞれ厄介な特性を持っていたが、数々の死線を経て成長したアルス達にとっては最早敵ではなかった。
戦闘終了直前、敵は最後の悪足掻きに後方部隊を狙うもアルス達より早く動いた部隊によって阻止され事なきを得る……それは勇者アルスにとって久しぶりの再会だった。
魔族に奪われた大地・大陸北部を目的地とした航海の途中、突如始まった魔族との戦いは恙無く終了した。アルス達とエルフ族の騎士・グラシア、そして……
「トーキテではどーも!俺達のこと覚えてるか?」
──────かつて大陸南部の冒険中に対峙した元盗賊達の活躍によって。
「テメェらは……!」
「……足を洗ったのか」
「まぁな、おかげさまでね」
思いがけない再会にいの一番に反応を示す、彼等と戦った当事者であるアルスとウォルフ……
頭上に疑問符を浮かべている様子の仲間達を余所に、アルスは当時の出来事を思い返していく。
"限界だったんだ……危険な任務で仲間が死に、魔獣をチマチマ狩っても生活出来ないような端金しか貰えず、挙げ句の果てには報酬未払い……生きるためにはこうするしか……"
"今回は見逃してやる……だが今度道を間違えれば、その時は俺がお前を斬る"
"すまねぇ……!恩に着る……"
アレは確かまだ冒険開始当初、ヴァイゼン村からクス伯爵領までの道中にて近隣集落の巡回活動をしていた時の事だ。
虚偽の魔族出現情報を流布することで集落の住人を追い出し、盗みを働いていた彼等とアルス達は遭遇した。直後、口封じにと襲い掛かってきたリーダー格の青年を軽く往なしたのだが、その後に彼の口から聞かされたのは物資がなく限界だったという魔王討伐隊の現状を表した悲痛な叫び……
そこで当時のアルスが下したのは、自分が持っていた物資の一部を分け与えて見逃すという判断だった。
「お二人とも、お知り合いなんですか?」
「あ、あぁ」
「どんな関係なの?」
「それは……」
結局あの後、彼等の盗賊行為についてレヴィンとフィルビーに報告はしなかった……故に当時から冒険を共にしていた少女達の純粋な眼差しにアルスは言葉を濁してしまう。既に足を洗った身とはいえ、一体どう説明したものか……
「俺らが腐って賊をやってた頃にちょっと……な」
──────そんな風に悩んでると、驚いたことに色黒の青年は自分から過去に犯した罪を自嘲気味に話し出した。直後「え!?」と声を上げるレヴィンに、余計な事を言う前にウォルフが口を抑えて沈静化を図る。
「アナタ達、盗賊だったの……?」
「あぁ……けどよ、そこのアルスの旦那にやり直す機会を貰ったのさ」
「まぁ!そんなことがあったんですね」
「当時はとんだ甘ちゃんだと呆れたけどな……ま、更生出来たならよかったじゃねーか」
「あぁ……とりあえず、改めてちゃんと名乗らせてくれよ」
その後、周りに聞こえない声量で無事に事情を説明し終えた後の事……
不意に青年が肩に手を置いた"三つ編みおさげの髪が特徴的な少女"の存在にアルスは既視感を覚える。確か彼女もまた、あの時青年と一緒に行動していた者達の一人だ。
「俺はクレス、魔王討伐隊の勇者をやってる。そしてこっちの可愛いのは……」
「アンカです!あの時は兄共々、助けてくれてありがとうございました!!」
クレスとアンカ────そう名乗った兄妹に続き、場に集まっていた他の隊員達も次々と名乗っていく。
彼等の姿にもまた、見覚えがあった。何名か欠けているのが少し気になったが、ほぼ当時の顔触れのまま……そんな彼等に応えるようにアルス達も自己紹介を始めるのだった。
・・・
「にしても、まさかオメェらも今回の遠征に選ばれてたとはなぁ……!」
「ヒヒッまぁね、俺らもアレから頑張ったんだぜ?神秘の森大戦では騎士団の指示に従って上級魔族討伐に貢献したりしてよ……その甲斐あって今回お声が掛かったのさ」
──────数十分後……お互いの身の上話をする中でアルス達はすっかり打ち解けて会話に花を咲かせていた。
"クレスとアンカ"
聞くに彼等は幼い頃に両親を亡くして身寄りがなくなり、村の住人達の指名されたことで不幸にも魔王討伐隊に選ばれてしまったらしい。
当然危険極まり無い任務や低賃金により兄妹は追い詰められ、危うく犯罪行為に手を染めかけた……が、そこを勇者アルスによって何とか救われて以来真面目に任務を熟してきたとのこと。
そうしてコツコツと実績を積み重ねた結果、アミナス教国・降臨祭の警備任務に就く事になり、流れのまま先の大戦にも参加していたのだとか。
「まぁ、流石に上級魔族は強くてな……何人かは向こうに逝っちまった」
「……そういうことか」
そんな会話の中で、不意に聞かされたクレス隊の隊員が一部欠けている理由にアルスは思わず表情を曇らせてしまう。当時はああした対応を取るしかなかったとはいえ、結果的にクレスの仲間が命を落とした遠因は自分にあるような気がしたからだ。
「旦那……そんな顔しないでくれよ!俺達ゃアンタには感謝してんだ」
「……?」
「あのまま悪いことしてたら、俺達ゃきっとそう遠くない内に捕まって処刑されてた……けどよ、あの時アンタが助けてくれたから誉れある生き様を選ぶことが出来たんだ」
「亡くなった皆もそう、アルスさんのおかげで最後まで正しく在れた……だから私達みんな、同じ気持ちだよ!」
「……そうか」
「それによ、今回の任務はあの巫女様の救出が目的なんだろ?しがない討伐隊の俺達にゃちと荷が重い大役だが、成し遂げて英雄の一人に名を連ねることが出来たらよ……道半ばで散ったアイツらも少しは浮かばれるはずさ」
刹那、そんな勇者の心に落ちた暗い影がクレス達の言葉によって優しく払われる。次いで兄妹に同調するように頷く他の隊員達を見て、アルスは"あの時の自身の行いは間違いではなかった"と心を少し持ち直すのだった。
「"英雄"といやよ、アンタらは知ってるか?大陸北部の英雄……リアムとリリィの話」
その後、不意にクレスが話題を変えてきた。
感傷的な話だったのを自覚してか、あるいは此方を気遣ってか、出された話題は大陸北部出身であれば知っているであろう伝承……
──────魔王軍との戦禍が最も激しかった地、大陸北部には多くの英雄達による逸話がある。
・二人のエルフによる上級魔族の軍勢撃破の話
・勇者カリヴァの冒険譚
・過去最多の魔族討伐記録を持つ天才魔導士キモ
その中の一つが"双子砦の守護神"と謳われたリアムとリリィの兄妹の話だ。
詳細は不明なものの……遠い異国の地からこの大陸に訪れた二人はそれぞれ物理・魔法による攻撃を無力化する魔法を扱い、現在では"双子砦"と呼ばれている大陸北部の要所を長年魔王軍の侵攻から守り続けたとされている。
「幼いながらに俺らは憧れたもんさ……"その二人みたいな英雄になりたい"ってな」
「そうなのか……じゃあ、今回の遠征で叶うといいな」
「あぁ……!正直そんな自信なかったんだけどよ、旦那達と一緒ならやれそうな気がしてきたぜ」
「ははっ、そんな大層なもんじゃないけどな……なんにせよ今回はよろしく頼むよ」
「おうよ!ウォルフの兄貴も、他のお嬢さん方もよろしくなぁ!!」
"英雄"という存在への想い────それを口にしたクレスの顔は、かつての悲愴さとは異なり明るいものだった。
そんな真っ直ぐな青年を見て、勇者アルスは改めて決意する……自身も必ず今回の作戦成功に貢献し、胸を張って今後の人生を大切な人達と一緒に生きていけるようになりたい、と。




