82話:海上の戦い
〜前回のあらすじ〜
「ボクはあなたのこと、認めませんから」
──────遂に始まった大陸北部への遠征の最中、新たに現れたもう一人の監視員"リュース"から突き付けられた否定の言葉にアルスは言葉を失う。
その後、不穏な空気を感じつつ船に乗り込み航海が始まるが……直後に魔獣の群れ襲来の報せを受け、アルスは剣を取るのだった。
"ケルピー"
別名水棲馬とも呼ばれる馬に似た上半身と魚の下半身を持つ魔獣。水中を縄張りにしていて人肉を好んで喰らう危険な生き物だが、どうにも肝臓は苦手らしく……ケルピーの襲撃跡には肝臓だけが残されるという。
「クソッ!なんて威力だ……船が傾く!!」
「まずいぞ!?このままじゃ沈む!!」
特筆すべきは知性の低い魔獣でありながら高度な水魔法を使いこなす点……船を破壊され、奴等の得意領域である水中に引き摺り込まれば人間側に勝ち目は薄いだろう。
──────だからそうなる前に対処しなければならない。
「グラシア様!!雷の奇跡で敵を一網打尽に出来ませんか!?」
「ダメだ、この距離で放てば船にも損傷を与える。だが任せるといい……【風の精霊の怒り】」
急いで船の甲板へと出たアルス達……刹那に二人を迎えたのは、船外に向け細剣から風の斬撃を放つ白金髪のエルフの姿だった。直後、下方から魔獣達の甲高い悲鳴が上がる。
「やったか!?」
「まだだ!上に乗ってた奴等が……」
「上から来るぞ!!迎撃用意!!」
しかしそこで戦闘は終わらない。
魔導士達の声に反応し目線を上げれば、上空から急降下してくる複数の黒い影が────即座に周囲に合わせて魔法を放つアルス。目論見通り魔法は直撃したが……
『ダンッッッ!!!』
衝撃と共に船上へ降り立った魔族には擦り傷一つ付いていなかった。
現れたのは、どこか見覚えのある漆黒の外殻を纏いし一つ目の怪物達……かつて城塞都市クヴィスリングで交戦した上級魔族"ザヴォート"と同種の魔族だ。
「気を付けろ!コイツらには雷属性以外の魔法はほぼ効かない!!戦士が前に出て複数で対応しろ!!」
"ヒンドロ"
それは近年現れた新種の魔族である魔眼族の一種。
種族全体で"地獄の鋼禍"と呼ばれる魔法を有しており、その効果は魔法耐性の高い金属を生み出すという……魔法の強弱が全てのこの世界においては力の上下関係・相性差を根底から覆してしまいかねない恐ろしいもの。
それにより生成された黒鉄の鎧は文字通り魔法攻撃の大半を寄せ付けず、人類は優れた身体能力・再生能力を持つ魔族相手に敢えて不利な近接戦を挑まなければならないという理不尽を強いられる───────
……と、アミナス教国で目にした魔族に関する文献には記されていた。
「ぐっ!!」
「なんて力だ……ッ!」
まるで効率的に魔導士を殺害するために生まれたような存在……生みの親である魔王が生命創造の魔法を有している以上、実際そうなのだろう。そんな敵を前には流石に、今回の遠征任務に選ばれた精鋭の魔導士達も苦戦しているようだった。
「はッ!!」
「フンッ!!」
「おらァッ!!」
しかしそんな状況を打破するようにアルスはグラシアと共に雷属性を付与した攻撃で行動不能にした上で弱点部位を突き刺し、ウォルフは持ち前の大斧で鎧の上から敵を叩き潰していく。
「「【不全なる器】!!」」
「【純朴なる愛】!!」
それだけじゃない。アルス達に続いて船上に現れた少女達の活躍により全体の形勢が此方に傾いていく……一体、また一体と少しずつ敵の数が減っていった。
「グウウゥゥゥ……ッ!!下等種の分際で……!!」
「想像以上にやる……マズい……ッ!!」
「だが我らも引けぬ身……こうなれば一匹でも多く……!!」
そんな風に戦況が好転した次の瞬間、突如敵の残党が動きを変えて後方に待機していた部隊へと一直線に飛び掛かる。追い詰められた末の悪足掻きだろうが、レヴィン達はともかく他の味方が危ない────何とか庇おうとアルスが動き出した、その直後だった。
「!?」
不意に自身より速く割り行った何人かの戦士達が敵の攻撃を防ぎ、アルス達の動きに倣ったのか流れるように弱点部位を突いて倒していく。
その先頭に立つ色黒の青年……彼の姿にアルスは見覚えがあった。
「お前達は……!」
「久しぶりだなぁ……アルスの旦那」
戦闘終了後、自身を認識した彼はニヤリと笑う────それはいつしかトーキテ王国内・クス伯爵領までの冒険中に遭遇した、かつて盗賊だった彼等との再会だった。
お読み頂きありがとうございます。
本話の最後の方に登場した彼等のことを覚えていない方は、本編13話:同情を読み直して頂ければ幸いですm(_ _)m




