80話:かくして彼は英雄を諦める
〜前回のあらすじ〜
魔物として拘束された勇者アルスは過去に犯した"罪"を告白した後、騎士団長ペルデールによる審議の結果一時的に身柄を騎士団の監視下で解放される事となる。
解放されたアルス達は話し合って再び絆を深め、次の遠征任務までの期間を皆思い思いに過ごし……遂に巫女の救出を目的とした"大陸北部奪還作戦"の幕が開けるのだった。
一方その頃、魔族側は──────────
時は少し遡り、大戦直後の事……人類の生息圏たる大陸タルシスカにおいて、上空を飛ぶ一つの影があった。
「クソッ!クソがァ……ッ!!」
敵地で集めた武具を含めた複数の鉄塊を足場に呻くその者の名は"レボルト"────先の神秘の森大戦で空から地上に掛けて戦場を駆け抜け、様々な敵と交戦し……そして破れ去った者。
彼の得意魔法は"縁の下"
自身の魔力範囲内に存在する生物以外の物体を自在に浮かし操ることが出来る……他の同族には発現しなかったレボルトの異質さを表す能力だが、そのおかげで今回の大戦にも参加することが出来た。
だというのに──────────
"テメェらの首を土産に、あのクソエルフにリベンジを挑んでやる……!"
"なんなんだコイツら……ッ!?クソがァッッ!!"
"クソ人間共が、覚えてろ……!次会った時はちゃんと殺してやる……!!"
結果は惨敗に次ぐ惨敗。
神獣を駆るエルフにも赤髪の人間が率いていた部隊にも無様に敗北を喫し、結局は小物しか狩れなかった。
レボルトとしては今回の戦いで大きな戦果を上げて"紅い竜巻"や"黒鉄"のような英雄の一人に名を連ねたいと思っていたのだが……かくしてその野望はあえなく潰えたのだった。
「……アレか」
強い敗北感と屈辱……ドス黒い感情を抱えながら撤退してしばらく経った頃、レボルトは目指していた場所に辿り着き息を吐く。
"城塞都市トロイアイト"
大戦前に占領し自軍の駐屯地となった元人間側の砦。
聞いたところによれば、万が一の敗戦を想定した退却経路として全能が一部戦力と共にこの地の防衛を任されていたそうだが、まさか本当に使うことになるとは────複雑な思いを抱きながら降下し鉄塊から飛び降りると、その場には自身と同じく大戦から生き延びたらしい同胞達の姿があった。
「お前には心底失望したぞ……!」
「ひっ!!あ、ああ……あ……!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいハイル様……ッどうか、どうか私を嫌わないで……!!」
刹那、視界に飛び込んできたのは奥の方で自分達の王からある者が何やら叱責を受けている異様な光景……
"全能のフォルリア"
かつて永年側近として王・ハイルに仕え続けた偉大なる賢将シルクを蹴落とし、新たにその座に居着いた謎多き女。
王に次ぐ絶大な魔力と凡ゆる魔法使いを相手に有利相性を取れる凶悪かつ特異な魔法、そして緻密にして手段を選ばない謀略を以て大陸北部を手中に収めた手腕から、一時期神童と呼ばれていた経歴を持つ。
しかしその実王以外の同胞に対しては眼中すらなく冷酷で部下使いが荒く、その上気味の悪い容貌をしているため現在では多くの者に忌み嫌われ恐れられている。
──────そんな奴が無様に叱られ惨めに許しを乞う姿はレボルトにとって大変溜飲の下がる光景だった。
他の同胞達も同じだったのだろう。頭を垂れてみっともなく震えながら大地に蹲う奴に対しその場の誰もが嘲笑い、あるいは冷ややかな視線を向けている。
「ん……?」
しかしそうした中、たった一人興味なさげに虚空を見上げる者の姿がレボルトの気に掛かる。
"ヴォロス"
近年忽然と現れた王の新たな側近。
フォルリアと同様の不気味な外見・異様な雰囲気・得体の知れなさから同胞達からも警戒されてはいるものの……余り口を開かない物静かな性格と奴が軍に加入してから叩き出した圧倒的な戦果から、現在ではフォルリアと対照的に不満を口にする者は少ない。
「まぁよいフォルリア、貴様に新たな命を授ける……必ずしや器を回収し、私に捧げよ……!!その程度の些事、今の貴様でも成せるであろう」
「……ッ!畏まり、ました……!!」
「よかろう……さて、私は魔力が戻り次第城に帰るが……」
そうこうしている内に上層部の中で軍の次なる方針が決まったようだ。
一部始終しか見ていないレボルトには彼等の会話の意味する事は分からないが、今後自分達の進退がどうなるかは気になった。
「──────せめてもの情けだ……ヴォロス以外の者達をお前に貸してやる……好きに使うがいい」
しかし次の瞬間、王の口から出たとんでもない言葉にレボルトは目を見開く。同時に周囲が一斉に騒めき出した。
全能の指揮下に入る────それは直前まで奴の醜態を嘲笑していた者達にとって"死の宣告"以外の何物でもないからだ。
「……ふ」
王がヴォロスを連れて立ち去る際、レボルトが見たのは震えながらもドス黒い笑みを浮かべる奴の顔……その時点でレボルトの腹の中は決まった。
「──────【縁の下】!!」
最早軍にいては自分の命はない。
直感で生命の危機を感じた時、レボルトは無意識に鉄塊に掴まりその場からの離脱を図っていた。
「グギャアアアアアアアアアアッッッ!!!」
「たすけッッ」
「ゴボッ……」
「フォルリア様!!どうかお許しをッ!!」
直後に聞こえたのは同胞達の悲鳴と許しを乞う声……
突如として自分達を襲った理不尽に対し、レボルトは申し訳なさを感じながらも急いで立ち去る。
最早"英雄"になる夢は諦める他なかった。




