74話:審判の時
〜前回のあらすじ〜
魔物になってしまった青年は全てを語った。
魔族の襲撃により気を失った後に何があったのか、如何にして"人型の魔物"と呼ばれた現在の自分が形成されたのか。そして……仲間を見捨ててしまっていたという、どうしようもない過去の自分の罪を。
そんな青年からの真実の告白に、昔からの仲間であるシオンは強く動揺し……涙を流すのだった。
「──────してグラシア、今のアルス・フェルシングの証言とこれまで得た情報とで相違点は?」
「いえ、ありません……シオン殿からの報告とも、私が視た彼の記憶とも」
それは罪の告白から少し経ちシオンが落ち着きを取り戻した後の事……二人のエルフの間で短い会話が交わされた。
内容から察するにどうやら一角獣の騎士もアルスが見た夢の内容を共有していたようだが──────
「ペルデール様!グラシア様!お願いです……!アルスを……許してあげてください!!」
「今のアルスの話からすれば、要は魔族に攫われて身体を弄られた被害者ってことだろ?俺からも頼むぜ……!」
「スーヤ教の司祭として、彼の仲間として、私からもお願いです……!ペルデールさん、グラシアさん……どうかアルスさんに寛大なご処置を……!!」
その直後だった。
不意に怒涛に押し寄せるように自身の助命を願う仲間達……その姿にアルスは思わず目を見開き、目頭が熱くなってしまう。
彼等の必死の嘆願を受けたスーヤ騎士団の団長は口元に手を当てて少し考える仕草を見せた後、「グラシア……」と隣に控えている白金髪のエルフに向かって再び口を開く。
「魔族を拘束した後の処分について、教義には何と記されている?」
「……"全て断罪せよ"と」
「……では人間だった者が魔族にされた場合は?」
「そのような特殊な事例は今までなく……お答え出来ません」
「ふむ、ご苦労……今回の場合通常であれば巫女の裁量に任せるのが賢明に思うが、現在は不在か……」
軽い議論の末、騎士団長は考え込んでいた。
前例のない異常事態────それに対する審判を下せるのは巫女・レイアが不在の今はスーヤ騎士団・団長である彼のみ……
アルスはただ黙って、言葉の続きを待った。
「これまで見てきた限りではアルス・フェルシングの行動は全て人類側に味方するものだった……現状ではグラシアが視た記憶を覆すような情報もない……か」
仲間達もまた、アルスと同じように誰一人として声を上げずに審判の時を待っていた。
白い長髪と眼帯に覆われた、表情の窺い辛い騎士団長の内面には何があるのか……やがて彼の「よし」という一声と共にその時はやって来る。
「今回の件について審判を下すには巫女の存在が不可欠であると私は考える……よって、アルス・フェルシングの処遇に関しては一旦保留とする」
それは魔物になってしまった自身の助命が一時的に叶った事を意味していた。あくまで不問ではなく保留なため決して手放しでは喜べないものの、騎士団長の柔軟な判断に仲間達は安堵の表情を見せる。
──────が、その直後の事だった……アルスが自身の耳を疑ったのは。
「ひとまず魔物でなく、これまで通り我々の仲間として扱う……今日を以て檻の中からは解放だ」
「いいのか……?俺を出したら……騒ぎになるかもしれないぞ?」
魔物と化した自身の釈放……
正体が露見したあの時、あの場には今ここにいる者達以外の何人もの事情を知らない人々がいた……そして噂というものは広まるのが早い。
身柄を解放されたとして、もしあの場にいた誰かが既にアルスの正体を漏らしていれば……外に出た瞬間に街中が混沌と化すのは想像に難くない。
「案ずるな、既に目撃者達とは全員話を付けてある……皆、口外しないように約束してくれた」
しかしどういう訳か既に手は打たれているようだった。如何にして説得したのか気になるが……スーヤ騎士団の威信故だろうか?
とにかく必要のない懸念だったようだ。
「ただし、今後お前は我々騎士団の監視下に入ってもらう事になる……許可なく国外に出る事は許さない」
ホッと一息吐くアルスだったが、直後に騎士団長から掛けられた厳しい言葉により再び現実に立ち返る。
その処置は自身の正体を考えれば当然のもの……しかし頭では理解出来ても、改めて突き付けられた現状が再び青年の心に暗い影を落としていく。
「アルス……仮に今話した事情を公表したとしても、お前を恐れ疑う者は出て来るだろう……だからこそお前はこれからも人類のために尽くし、実績を積み上げるのだ」
そんな彼に騎士団長はまるで諭すように言い、最後に「さすれば女神様もお前に慈悲を見せてくれるはずだ」と締め括るのだった。
一瞬蘇る希望……だが視界に映る、自身に重々しく嵌められた銀の腕輪を見てアルスは……
「実績……そんなの、今の俺にどうすればいいんだ……?」
どうしようもない本音が口から漏れてしまう。
牢獄から解放されるとはいえ、スーヤ騎士団の監視下に入った以上これまでの様に自由に動くことは出来ない。そのような状態で自分に何が成せるというのか……
──────そう、諦めかけた時だった。
「……その点に関しては、此方に一つ考えがある」
上から投げ掛けられた思いもしなかった言葉に顔を上げるアルス……
その先で自身を見据える騎士団長はとんでもない事を言い出すのだった。
「お前はこれから我々スーヤ騎士団と共に動き、大陸北部を魔族の手から解放するんだ……勇者アルス」




