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Truth Of Legend  作者: 座敷猫
第四章:泡沫の夢編

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70話:そして最強に

〜前回のあらすじ〜

勇者カリヴァと蠱毒のヴィリス……

強者二名による互いに喰い合うような激突は拮抗するも、カリヴァの想定を超えた近接戦能力を見せた敵の方に軍配が上がる。

直後に主力たる正規軍がヴィリスの攻撃により壊滅させられたのもあり、なんとか生き残った味方全員が奴に恐れを成し逃げ出すも……

勇者カリヴァだけは決して諦めずもう一度立ち上がり、再び目の前の強大な敵に立ち向かっていくのだった。

 蠱毒(こどく)のヴィリスは苛立(いらだ)っていた。

 白銀に光る剣を手に雪原を駆け、決死の表情で自身に向かってくる敵────銀毛が特徴的な下等種族(ニンゲン)に。


 最早勝敗は決したはずだった。

 敵側の主戦力と思われし後方で待機していた部隊は(すで)に壊滅し逃走、残ったのは自身を陽動するための(おとり)に使われたであろう雑兵ばかり……だというのに


「まだ、足掻(あが)くというのか……!?」


 眼前に迫り来る()の、(あお)い瞳はまだ死んでいない……むしろ一度下した以前よりも激しく燃え上がっているようにすら見える。

 理解出来なかった。勝ち目など無いというのに、これだけ力の差を見せつけたというのに、闘志(とうし)を失わず立ち上がってくる目の前の存在が。


「ここまできて、まだ望みがあるとでも……!?」


 (たと)えるなら、血を()う虫ケラが自身より遥かに(おお)きい生き物を仕留めようとするようなもの……そう思ってしまう程にヴィリスにとってこの戦いは、普段通りの害虫駆除に過ぎなかった。

 全ては甘さの消えない()に代わり害虫共を殲滅(せんめつ)し真の平和を成し遂げるため、そして自身を()()()などと愚弄(ぐろう)した同族を見返すため。



「──────フザけるなァ!!」


 だからこそ許せなかった。

 自身の存在を、野望を、夢を否定しようと立ち(ふさ)がる目の前の敵が。

 争わずに済む方法が?復讐(ふくしゅう)の連鎖が?理解(わか)り合える?……知ったことではない。

 目の前に気に食わない存在(もの)が現れたならぶっ潰す。潰して潰して潰して潰して潰して……その果てでいずれ、自分の存在が認められればそれでよかったのだ。


 ただ、それだけ────胸の奥に湧き上がった自身の原点(オリジン)を思い出し、激情を(あら)わにしたヴィリスは再び呪文を唱える。自身を否定せんとする全てを(ほうむ)り去るために……



 ――――――――――――――――――――――――



「──────【地獄の業水(スティギア)】!!!!」


 復活した勇者カリヴァに対し、蠱毒のヴィリスが放ったのは今までと比にならない程の巨大な……津波を想起させる水塊(すいかい)


 奴の水魔法は触れた対象を猛毒に(おか)し、あるいは燃やし、そして溶かすように跡形もなく消滅させる。どういう原理なのかは一切不明の攻撃……ただ、決して喰らってはならないと本能的に理解できた。

 しかしそうしてる間にも眼前の水魔法は全てを喰らい尽くさんと押し寄せて来て──────



「【音速の風刃(ムーブ・ソヌス)】!!」


 刹那(せつな)、勇者の空を切る一閃(いっせん)が強風を引き起こしそれらを撃ち返す。


 "音速の風刃(ムーブ・ソヌス)"

 風の魔力を(ヤイバ)状に変質させて放つ殺傷力の高い上級魔法……勇者カリヴァが使えるもう一つの自然魔法による遠距離攻撃だ。



「チッ!いいだろう……ならば今度こそ完膚(かんぷ)無きまでに潰して、理解(わか)らせてやるまでよ!!」


 それでも目の前の敵(蠱毒のヴィリス)には届かない。奴は自身の特殊な水魔法を反射されたにも関わらずその場から動かず、あまつさえ何の抵抗もせずに受け流していた。

 自分には効かない性質の毒なのか……?


「アルス!炎魔法(ドラク・スフル)を撃て!!」

「!!────【竜の息吹(ドラク・スフル)】ッ!!」


 不可解な事象に思考を(めぐ)らした時、不意に聞こえた親友(カリヴァ)の声……アルスはその指示に従い前方の敵目掛けて勢いよく紅蓮(ぐれん)の炎を解き放つ。

 それは瞬く間にヴィリスに命中するが、直前に反射された水魔法を浴びた影響で効果が薄いのか……奴は一切歯牙(しが)にも掛けてない様子だ。


「なるほどな……────【水面斬り(アクア・トモス)】!!」


 だが直後、状況は一変する。()()に気付いたらしいカリヴァが圧縮した水魔法を放った次の瞬間……


「グオオオォォォッッッ!?!?ナンダ!?」


 アルスの炎魔法(ドラク・スフル)は勢いを増し、蠱毒のヴィリスの全身は一気に(まばゆ)い紅蓮の輝きへと包まれた。



(ようや)理解(わか)ったよ……()()()()()()()が!!【風の通り道(ヴァン・ロウド)】ッ!!」

「クソがァッ!【地獄の業水(スティギア)】ッ!!」


 そんな奴にカリヴァは(たた)み掛けるように強風を放つことで燃え上がる敵に更なる追い討ちを掛け、対するヴィリスは自身を(おお)う炎を消そうと改めて水魔法を展開し(まと)う──────が、紅色の輝きが(おとろ)える気配はない。


「グオオォッ!!ナンダこの炎はッ!?」

「昔、()の図書館で読んだ本を思い出した……確かこの世界には、燃えやすい液体や触れた物体を溶かす液体があるんだってな」


 その攻撃は、アルスの炎魔法にカリヴァの理想を叶える固有魔法(イザニコス)を掛け合わせることで生み出した()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 今まで目にしたこともないだろう事象に困惑し苦しむ敵に、カリヴァは何かを思い出したように笑みを見せ……一言告げる。



「"水の性質を自在に変化させる"────それがお前の操る魔法なんだろ?」



 それはここまでの戦いで勇者カリヴァが尻尾を(つか)んだ、蠱毒のヴィリスが使用する特殊な水魔法に関する推察だった。

 彼の説明の意味は理解し切れなかったが、確かにそんな液体があるのであれば……その能力であればこれまで起こった全ての不可解な事象に説明が付く。

 ()()()と共に繰り出された奴の高速移動も、シオンの植物魔法を()らした強い毒性も、人々を燃やしあるいは溶かして消滅させたあの現象も、反射された水魔法を受けたにも関わらず無傷(ノーダメージ)なのも……


 ──────全ては奴自身が水魔法の性質を操作したことで引き起こされた事だったのだ。


 カリヴァはヴィリスが反射した水魔法でダメージを受けなかったのを確認した後、アルスに火炎魔法(ドラク・スフル)を撃たせてその特性(ギミック)を見破った。

 そして遂には自身も固有魔法(イザニコス)()()()()()()()()()()()()()()()を放ち、火炎魔法と合わせることで奴の身体に一気に引火させたのだ。




「グ……フザケ……オレハ……王ニ……ッ!!ッッッグオアアアアアアアァァァッッッ!!!!」


 消えない炎に(うめ)き苦しむヴィリス……刹那、この世のものとは思えない断末魔(だんまつま)と共に奴の身体がドロドロに溶解(ようかい)し出す。


 カリヴァの魔法(イザニコス)の影響……?────いや違う。

 (くず)れながら激しく燃え上がる外殻を()がし、中から新たに身体を再生していく奴を見てアルスは確信する。魔法で生み出した溶解液を(もっ)て、消えない炎が引火した部位を瞬時に切り離したのだ。



「この瞬間(とき)を待っていた……【理想化(イザニコス)】!!」


 しかしそれこそが勇者(カリヴァ)の真の狙い────外殻を切り捨て身を守る(よろい)を失った奴に一瞬で接近し、滅多(メッタ)斬りを叩き込んでいく。

 その"乱舞(らんぶ)"を思わせる……本来人の身体能力では成し得ない高速連斬は、強化魔法(イザニコス)で自身の身体能力を向上させられる彼だからこそ可能な必殺技。

 如何(いか)に再生能力の高い上級魔族といえど、生身の状態でアレを喰らえば致命傷(ちめいしょう)は必至……故にアルスは勝利を確信し、様子を見守っていた周囲も小さく歓声を上げた。



「────ッ!?」


 だがそれも束の間、アルスは気付いてしまう。

 トドメの一撃を放った勇者の剣……その(ヤイバ)が黒く()び、ボロボロに破損してしまっている状態(こと)に。

 恐らく奴が直前まで(まと)っていた溶解液の影響だろうが、そう考えてる間に腕の再生を終えた(ヴィリス)凶刃(きょうじん)がカリヴァへと迫る。

 最後の斬り上げを、技を出し切ったが故に生まれてしまった僅かな隙……今の彼に攻撃を(かわ)せる余地はない。


「【純朴なる愛(アンリ・アカンタ)】!!」


 ……が、(すんで)の所でシオンの優しい(ツル)の助けが間に合い勇者(カリヴァ)を安全圏まで引き寄せた。

 妹の援護(サポート)に彼は小さく「ありがとう」と礼を口にすると、改めて敵に向き直る。



「人間……害虫共ハ……コロス……!オ……レガ……ツ……ブス……!!」


 奴は……蠱毒のヴィリスは正気を失っていた。

 いくら再生能力が高いとはいえ、致命傷を回避するためとはいえ……鋼で出来た剣を一瞬であそこまで損壊させてしまうような危険な液体を纏い続けるなんて、完全に常軌(じょうき)を逸している。

 だがそのイカれた狂気こそが、奴が単騎で大陸北部を荒らし回った圧倒的な強さの本質なのだろう。


 ────そんな凶悪な上級魔族を前に勇者カリヴァは一切(おく)さず、再び立ち上がる。



「兄さん……?」

「出来れば今ので仕留めたかったんだがな……アルス、悪いが剣を貸してくれ」

「また一人でやるつもりか?流石に無茶だ、俺も一緒に……」

「大丈夫だよ……さっき言ったろ?後は任せろって」

「カリヴァ……」

「シオンの事は任せたぜ……親友」


 壊れた剣を捨て、アルスから(たく)された剣を手にもう一度……完全に再生を終えた敵に向け歩み行く。

 そうして再び、勇者カリヴァと蠱毒のヴィリスの二度目の激突────死闘が幕を開けるのだった。



『ギィンッ!!』『ガンッ!!』『ガキィッ!!』



 刹那に繰り広げられるのは先程と同じ、銀世界にて火花散り()う強者同士の熾烈(しれつ)な攻防……その速度はやはり普通の人間が割り入れるものではない。


「ドウシた虫ケラ!?さっきより遅いぞォ!!」

「ぐ……ッ!!」

「クハハハハ!!最期の(うたげ)ダァ……!滅びの一時(ひととき)まで存分ニ、楽しもうじゃないカァ!!」


 しかしやはりと言うべきか……長期戦になった分、押されているのはカリヴァの方だ。

 これまでの戦闘による疲労・ダメージが蓄積(ちくせき)が原因か、速度・手数共に圧倒されている敵に何とか喰らい付き(しの)いでいる状態……このままでは負ける。

 やはり自分も──────────



「ガハ……ッ!?」



 焦燥(しょうそう)に駆られたアルスが親友の元へ駆け寄ろうとした、直後の事だった。

 突如吐血(とけつ)し動きが止まるヴィリス……────瞬間、奴の片腕が鮮血と共に(ちゅう)を舞う。


「やっと効いてきたみたいだな……化け物め」

「ゴハッ!!貴様、何をシタ……ッ!?」


 敵の動きに(ほころ)びが生じた一瞬でそれを成したのは勇者カリヴァ……彼はヴィリスの硬い外殻の隙間を()うように、関節から腕を斬り飛ばしたのだ。

 本来であれば近接戦闘能力も高い奴にそれを実行に移すのは至難の業だったろうが、今は十分可能な程に敵の動きは鈍化(どんか)していた。



「不思議そうだな……理由を教えてやろうか?」

「……ッッ!?」

「さっきお前に攻撃した時、剣に付与してたんだよ……俺の、()()()()を」


 その理由を一つ、また一つと奴の身体を斬り飛ばしながら……淡々(たんたん)とカリヴァは告げていく。


「その水の魔力に、俺は固有魔法(イザニコス)を掛けたんだ……"お前(蠱毒のヴィリス)が使うような、()()()()に変わってほしい"って」


 先のカリヴァが放った乱舞────あの時既に、カリヴァは先手を打っていたようだ。

 先程捨てた、ヴィリスを滅多斬りにした勇者の剣……溶解液で斬れ味が落ちはしたが、どうやら敵も無傷とはいかなかったらしい。

 カリヴァは固有魔法で変質させた()()()()()()()()()を剣に付与し、斬撃を入れることで奴の体内に猛毒を撃ち込んだ。

 だからこそヴィリスの体内に猛毒が回り切るまで固有魔法(イザニコス)を解除出来ず、自身への身体強化付与が行えず……直前の斬り合いで劣勢に(おちい)ったのだ。

 しかしそれでもカリヴァは素の身体能力のまま上級魔族(ヴィリス)に喰らい付いた……結果、毒が効くまでの時間稼ぎが出来たのだ。



「どうだ?散々人を殺してきた毒で苦しめられている気分は?」


 勇者カリヴァと蠱毒のヴィリス────熾烈(しれつ)な戦いの勝敗を分けた要因は一体何だったのか……

 恐らくは()()()()()()にあったのだろうとアルスは察する。

 勇者カリヴァはヴィリスの能力特性を暴くために戦いの中で思考を(めぐ)らせた上に様々な手法を試し、短期間でその本質を見極めた。一方で彼自身は固有魔法(イザニコス)を場面ごとに切り替えながら戦い、最後の最後まで敵にその詳細を(つか)ませなかった。

 その情報の優位性(アドバンテージ)が両者の運命を、明暗を分け(へだ)てたのだ。



「ク、ソ……オレハ……オレ、ハ……ッ」

「でも感謝してるぜ……"蠱毒のヴィリス"」


 それでも(なお)、蠱毒のヴィリスは足掻(あが)いていた。

 猛毒を撃ち込まれ、四肢と尻尾を切断されたにも関わらず……身体を再生させて勇者(カリヴァ)に向け手を伸ばそうとしている。

 そんな奴にカリヴァは軽く感謝の意を伝えると……


 ──────その首を、勢い良く跳ね飛ばすのだった。



「お前のお陰で、魔法の想像力の幅が広がった……俺は前よりも更に強くなれた」


 同時に周囲から一際大きな喝采(かっさい)が上がる。強大な敵を、上級魔族を倒して自分達を救ってくれた……純白の外套(マント)(なび)かせる勇者の名を褒め立てていく。


「まぁ……言ったところでお前には理解(わか)んないか」


 彼の名はカリヴァ────後に"最強の勇者"と呼ばれし者。

 気づけば、直前までアルス達を襲っていた冷たい風は吹き止んでいた。

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