67話:カリヴァとシオン
〜前回のあらすじ〜
激しい戦いの末、深い眠りに着いたアルスは深層意識の中で自身の過去を回想していく。
自身がいた故郷と孤児院、カリヴァとシオンの兄妹との出会い……
やがて15歳となったアルスはカリヴァ達と共に魔王討伐隊を結成し、夢のような冒険を始めるのだった。
「グオォォォ……ッッ!!」
薄暗い闇の中で獣のような唸り声が響き渡る。洞窟の中で反響した声の主は、大国アミナス教国から手配書を出されている上級魔族……
──────その胸元には、勇者の剣が深々と突き刺さっていた。
勇者カリヴァの力は圧倒的だった。
大陸北部に位置するファーレン王国領内の村々を襲っていた魔族達の根城を突き止め、早急に討ち取るに至ったのだ。
まだ戦闘経験が少なく緊張でまともに動けなかったアルスとシオンを庇いつつも大量の魔族の群れを殲滅出来た理由は、彼が戦力の育成に重きを置くフェルシング孤児院で学業・実技共にトップだった基礎能力もあるのだろうが……それ以上に彼の固有魔法の強力さが関係している事は明らかだった。
"理想化"────物体や魔法に自身の理想を反映する力。
・どんなに硬い鎧や盾をも無視して貫く槍
・一切刃毀せず斬れ味が落ちる事のない剣
・凡ゆる攻撃を無効化する鉄壁の盾
・着火したが最後、対象を焼き尽くすまで決して消えない炎魔法
この能力は今挙げたように物体や魔法に使用者の理想を反映することが出来るという……他に類を見ない強力なもので、他にも自身に魔族を思わせる超人的な身体能力を付与したり魔法の威力そのものを底上げするなど純粋な基礎能力の強化に使用することも可能だ。
当然、強力さ故に制約が幾つかあるらしく……使用者であるカリヴァからは主な欠点として以下の三つを教えてもらった。
・理想化という性質上、敵を弱体化させる目的での使用は不可
・同時に二つ以上の理想を反映させる事は出来ない
・叶えられる理想は使用者自身が想像できる範囲内に限られる
──────そんな前例のない常識外れの力を駆使し……勇者カリヴァは自身の隊を結成してからの最初の任務で、たった一人で上級魔族率いる魔族の群れを壊滅させるという偉業を成し遂げたのだ。
この活躍により初陣にしてカリヴァ隊は大陸北部で一躍有名になった……厳密には主に活躍していたのはカリヴァなのだが。
また一方でデタラメだの、他者の成果を横取りしただの……心ない噂が流れた事もあった。どうやら一部魔王討伐隊の快挙が面白くない輩も存在するようだ。
「【竜の息吹】!!」
「【癒しの魔花】!!」
それから数ヶ月ばかり経ち……アルス達は勇者カリヴァと共に様々な依頼を熟して少しずつ成長していった。
アルスは元々得意だった炎魔法を更に伸ばし、シオンは土・水属性の自然魔法に加えて新たに植物魔法の才能を開花させ、下〜中級程度の魔族なら然程苦もなく倒せる実力に……
そうやって着実に実績を積み上げ、気が付けば魔法使いとして一人前とされる"中級魔導士"となっていたのだった。
・・・
「カリヴァ、またこんな時間まで……少しは休まないと身体が持たないんじゃないか?」
「大丈夫だよ、アルス……これくらいどうってことさ」
ある日、アルスは夜遅くまで一人鍛錬を続ける勇者カリヴァに声を掛けた。彼は日々、暇さえあれば己を高めていた……まるで何かに取り憑かれたかのように。
そんな彼を見かねての言葉に、カリヴァは剣を振り続けながら笑って返す。
「俺はもっと、誰よりも強くならなきゃいけないんだ……じゃなきゃシオンやお前を守れないからな」
「カリヴァ……」
気が付けば、アルスは彼の隣で同じように剣を振っていた。自らの仲間のために弛まぬ努力を重ねる男の姿に、幼い頃に漠然と憧れていた英雄を重ねて感銘を受けたが故の行動だった。
「アルス……?」
「俺ももっと強くなって、二人を助ける……!まだ全然足りないけど頑張る……だから俺にも背負わせてくれ、カリヴァ」
「……ありがとよ、やっぱりお前は信頼出来る……良い奴だ」
しばらく他に誰もいない夜風の下、共に黙々と剣を振り続ける静かな時が流れゆく。やがて不意に、今度はカリヴァの方から「なぁ……」と口を開いてきた。
「アルス……お前、夢ってあるか?」
「夢……?いや、今を生きるので精一杯だ……けど、今みたいな日々がずっと続けば良いと思うよ」
「俺も同じだ……お前やシオンと、ずっと仲良く笑い合って過ごしたいと思ってる……そのためには居場所が必要だ」
「居場所?」
「そうだ、この国じゃない……俺達みたいな孤児でも、親もいなくて金もない……国に、世界に見捨てられたような弱者でも、安心して笑って過ごせる居場所が……」
「でも、そんな夢みたいな場所……」
「そうだな……俺もそう思う。だからさ、お前にだけは話すよ……
─────────俺さ、王になりたいんだ」
アルスは目を見開いた。会話の中で聞いた……思いがけもしなかった親友の夢の内容に。
固まるアルスに対し、カリヴァは剣を振る手を止めて続きの言葉を紡いでいく。
昔から自分と妹が安心して暮らせる居場所……新たな国を作りたかったと。土地は魔族に奪われた領土を取り返し、国民は今後討伐隊としての活動域を広げて人脈を増やすことで得たいと。そして……それらを成すために"絶対的な強さ"が必要だと。
「居場所がないなら作ればいい……家族が、シオンが安心して笑っていられる優しい世界を俺が作る……!」
カリヴァの語る夢に具体的な未来像があるのは、奥で静かに燃ゆる彼の瞳を見れば明らかだった。
アルスはそこで親友が自分を信用し、秘密を話してくれた事を嬉しく思いつつ……彼の夢が叶ってほしい、その助けになりたいと思い抱くのだった。
「もしそれが許されないのなら……そんな世界は俺がぶっ壊してやる」
・・・
「……っ」
「こら!動かない……【癒しの魔花】……!!」
「ふぅ……ありがとう、シオン」
「全くもうっ、なんでこんな無茶したの!?」
「もっと強くなりたいんだ……そのためには、カリヴァに頼るだけじゃなく俺一人で色々やらなきゃって思って……」
ある日、アルスは森林の中でシオンから回復魔法による治療を受けていた。
いつも笑顔で接してくる彼女が珍しくムッとした表情でアルスを叱る理由……それは相談なしにたった一人で魔獣の群れの討伐依頼を受け、結果重傷を負ったからという実に自業自得かつ尤もなもの。事実、彼女がこっそり後を付けて来てくれていなければアルスは出血多量で死んでいたことだろう。
「はぁ……兄さんみたいのが近くにいたら焦るのは分かるけどさ、それで死んだら元も子もないでしょ?お花は散っても種を植えればまた咲くけど……人は散っちゃったら、二度と帰ってこないんだから」
「シオン……ごめん」
「いいよ……でもこれからは絶対に一人で無茶しないでよね?約束」
「あぁ……分かった」
謝罪の後、アルスはシオンと互いの小指を絡めて約束した。彼女曰く、この行為は彼女の母親が生前教えてくれた約束事をする際の儀式のようなものらしい。
「よし……さて、と!ここも魔獣のおかげで大分荒れちゃってるわね……【翠の庭園】!!」
謝罪を受け入れ、普段通りの笑顔を取り戻したシオンは立ち上がって辺り一面……戦闘によって荒れ果ててしまった自然を一望し呪文を唱える。
──────刹那、大地から鮮やかな色合いの花植物達が咲き……見る見るうちに周囲は元通りの美しい景色を取り戻していった。その中には彼女が特に好きと言っていた花の姿も……
「相変わらず凄い魔法だな……」
「でしょー?私だって二人に負けないように頑張ってるんだから……ねぇアルス、私達は兄さんとは違うんだから私達のペースで無理せず頑張ればいいのよ」
「でもそれじゃ、カリヴァの負担が……」
「もう!相変わらずクソ真面目なんだからー……今は無理せず花でも見て休も!ほら、あの花見てよ……相変わらず綺麗でしょ?」
「あぁ……なんていう名前だったか」
「前に教えたでしょ!もう、仕方ないなぁ……アルスのためにもう一回だけ教えてあげる……あの花の名前はね……──────────」
・・・
更に少し経ち、国領内周囲に点在していた魔族を大方狩り尽くした頃……アルス達にとっての更なる転機が訪れる。
急な召集に向かったアルス達と、その周囲に集まった数多くの魔王討伐隊に向かって国の正規兵と思われる男は言った────上級魔族が真っ直ぐにこの国に向かっている、と。
魔物の名は"蠱毒のヴィリス"……当時、大陸北部で最も恐れられていた凶悪な魔物だ。




