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Truth Of Legend  作者: 座敷猫
第三章:アミナス教国編

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61話:紡がれる想い

「はあああああああッッッ!!!」


 "今この時を永遠に(フリージア)"──────そう(とな)えた後の巫女(みこ)の力は圧倒的だった。

 これまでとは比べものにならない程に広範囲への(あら)ゆる属性の大技を連発し、魔王が生み出す魔族の群れ……あるいは操っている広大な自然を彼女は一瞬で無へと変えていく。


『【星の産声(ジェネシス・ノヴァ)】!!』『【自然なる(プロヴィデンス)淘汰(・ピュシス)】!!』

『【地獄の業火(インフェルノ)】!!』『【地獄の業風(ヴォルティクス)】!!』

『【地獄の業水(スティギア)】!!』『【地獄の業雷(フルミネクス)】!!』



 それに対し魔王ハイルも一歩も引かず、強力な魔法を連発し迎え撃っていく。防御を捨てたかのような猛攻(もうこう)を仕掛ける巫女は、奴が生み出した配下からの攻撃を含めた一斉魔撃(まげき)をその身に受けるが……


「どうしましたハイル!!アナタの力はこの程度ですか……!?」


 ──────集中放火を一身に受けた(はず)の彼女の身体には何故だか傷一つすら付いていない。

 それどころかあれだけ大技を連発したにも関わらず、その身から放たれる奇跡の力は一切の(おとろ)えを見せていなかった。



「すごい……!!」

「さすが巫女様……!!」

「もしかして、このまま倒せちゃうんじゃない……!?」

「いや、このままじゃ駄目(だめ)だ!!」


 一気に此方(こちら)に傾いた形勢に歓喜の声を上げる人々……その中で騎士団長ペルデールだけが()を唱える。

 すぐにどういう意味なのか疑問の声が上がるが、彼は構わず敵に向かって駆け出した。


結晶(けっしょう)を……弱点部位(コア)を破壊しなければ奴は無限に再生する!確かに今の彼女は無敵だが、そう長くは()たない……早急に決着を付けなければ此方の負けだ!!」


 そして剣を構え、巫女が(さば)き切れなかった魔族の群れを一閃(いっせん)──────彼の言葉と行動を受け、それまで巫女の活躍を見守っていた人々は続くように魔王に向かって駆け出し始める。


『【魔樹降誕(マギア・トゼンドロ)】!!【星の産声(ジェネシス・ノヴァ)】!!』


 ……が、そんな彼等の行動を(わずら)わしく思ったのか魔王は地中から新たに樹木を発生させた上で、配下たる魔族を(けしか)け巫女との分断を図る。


「【竜の息吹(ドラク・スフル)】!!」   「【地獄の業火(インフェルノ)】!!」

「【水の精霊の涙(ティ・アンダイン)】!!」 「【地獄の業水(スティギア)】!!」

「【散りゆく火花(フォルスパーク)】!!」 「【地獄の業雷(フルミネクス)】!!」

「【風の通り道(ヴァン・ロウド)】!!」  「【地獄の業風(ヴォルティクス)】!!」

「【大地の捕食(マンジャ・テーレ)】!!」  「【地獄の業土(タルタリカ)】!!」


 その後に始まったのは、怒号のような詠唱(えいしょう)が飛び交う混沌(こんとん)極まりし乱戦。

 その間にも新たに味方側の増援が続々と到着し、人類側の戦力は増えていったが……それ以上に魔王が生み出す魔族の数は無尽蔵(むじんぞう)だった。



「チッ!このままじゃキリがないな」

「早く魔王をなんとかしないと……!!」

「でも、やっぱり巫女(レイア)様も苦戦してるみたい……!!」


 アルスもまた、戦いながらシオンやレヴィンの声に反応して樹木の隙間に映る()()()()の方に視線を向ける。

 その先で繰り広げられていたのは……空中を舞うように飛びながら歌い、不可視の斬撃を広範囲に放って攻め続ける巫女────それに対して(おびただ)しい数の魔族を生み出し、あるいは周囲の自然そのものを変質させることで質量攻撃を放つ魔王による……想像を絶する程に激しい攻防戦。

 戦況(せんきょう)はやや巫女側が優勢の様だが、騎士団長の説明からすると今の状態は長く続かない。そして何よりも、今の彼女であっても魔王に致命傷(ちめいしょう)を与えるのは恐らく難しい。


『舐めるな!!()らえィッ!!』

「く……ッ!!」


 その理由は────開戦当初から魔王が自身の身体に付与している()()()()()()にある。

 奴が持つ圧倒的な魔力を凝縮(ぎょうしゅく)させることで生み出した……(あら)ゆる魔法・奇跡による攻撃を寄せ付けない絶対的な防御力を(ほこ)る鎧。

 戦いが長引き魔力を消耗(しょうもう)させた現在(いま)、もう全身に展開する事は出来ないようだが……奴は今結晶(コア)()る頭部と攻撃に使用する部位にそれ(オーラ)を付与することで、不可視の斬撃を放つ巫女に対する攻撃と防御を行っていた。


「はぁはぁ……ッ!!」

『クカカッ!足掻(あが)け足掻けェッ!!』


 結果、(おちい)ったのは最悪かつ完全な膠着(こうちゃく)状態……何とか接近し近距離で弱点部位への攻撃を行おうとする巫女だったが、その度に漆黒のオーラ纏いし魔王の樹木に吹っ飛ばされて距離を離されてしまう。

 怪我(ダメージ)自体はなさそうだが、このままでは無敵時間が切れて彼女の……人類の負けだ。


 早く、何とかしないと────────



「シオン!君の()()()()であのオーラを消せないか?」

「魔力の吸収自体は出来たから可能だとは思う……けど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から、それまであの巨体を止める手段がないと……」

「さっき私の雷魔法(フォルスパーク)で少しは動き止められたけど……」

「あれじゃダメ、もっと長くないと……!」


 (あせ)った末にアルスは、シオンの"魔力を吸収する固有魔法"で漆黒のオーラを消す案を思い付くが……仲間達と話し合った結果、幾多(いくつ)かの問題が浮上した。

 "触れた生物の生命力を奪う"奴固有の能力、生半可(なまはんか)な拘束は通じない大樹のような巨体……一体どうすれば時間切れ(タイムリミット)までにこの膠着状況を破ることが出来るのか。





「ね、ねぇ……貴方(あなた)達、なんであの化け物(魔王)とやり合う気満々なの……?」


 そんな風にどこまでも高い、分厚い壁に思考が突き当たった時……不意に聞こえてきたのはそれまで沈黙を保っていたレヴィンの姉(レーニス)の怯えたような声だった。


「お姉様……トゥローノ家の誇りとやらを守るんじゃなかったの?」

「身の程を(わきま)えなさいって話よ……普通に考えてあんな怪物に私達がどうこう出来るわけないじゃない」

「ここに来て今更そんな弱音を……っ!!」

「待ってくれレヴィン……レーニス、何が言いたい?」


 彼女の主張は一見、強大な敵を前に畏縮(いしゅく)してしまった者の弱音……だが表情を見るにどうにも何か考えがあるようだ。

 一種の確信めいたものを感じたアルスは(いきどお)るレヴィンを抑えつつ、レーニスに話の続きを促した。


「……私達が今どうにかするべきは魔王じゃなくて、()()()()()()()()()じゃないのかしら?」

「!!」

「開戦前に巫女(レイア)様が(おっしゃ)っていたでしょう?この戦いは如何(いか)敵の戦力(魔王の手駒)()げるかが大事だって……」


 ──────結果、その口から出てきた言葉を受けてアルスの中に電流が走る。


 敵軍の将たる魔王ではなく、先ず周囲の配下たる魔族達を処理してから奴への総攻撃を一斉に仕掛ける……一見普通の作戦だが、今回の戦いを経て敵との力の差を認識(にんしき)したらしいレーニスならではの案だ。

 何よりも、これまで複数の上級魔族と交戦・討伐(とうばつ)して自信を付けてきたアルス達からは中々出て来ない発想だった。



「なるほどな、一理ある……だが魔王は今もこうして戦力(魔族)を生み出し続けている……!敵を一気に倒す手段がなければ意味ないが、何か(さく)はあるのか?」

自国(トーキテ)に伝わる上級魔法"雷神の怒り(サンダーストーム)"ならあるいは……私じゃ難しいけど、(レヴィン)の魔力量なら……!!」


 唯一の不安要素を指摘すると、次いで彼女が出した解決策は上級魔法の使用……

 雷神の怒り(サンダーストーム)────以前彼女がレヴィンと決闘(けっとう)する際に開幕で見せた強力な雷魔法だ。当時は落雷全てを標的に集中させていたが、本来は複数いる敵の殲滅(せんめつ)に使う技なのだろう。

 確かにあれだけの規模の魔法をレヴィンが使えば、周囲の敵を一掃(いっそう)出来るかもしれない。


「え?でも私そんな魔法使えないんだけど……」

「だから、お前の魔力を使って()()()()私が魔法を発動させるのよ……レヴィン、お前さえよければ……だけど」

「なるほど、()()()()か」

「……」


 そうやって話が纏まりかけたところで不意にレヴィンから疑問の声が上がった……が、続くレーニスの説明を聞くにどうやら今回実際に魔法を発動させるのはレヴィンではないらしい。

 (いわ)く、魔力付与────城塞都市(じょうさいとし)クヴィスリングで紅い竜巻(フラスト)との戦いの際にアルス達が使用した"他の物体および他者に魔力を与える"魔力操作技術の一種……それを使うというのだ。


「レヴィン……大丈夫か?」


 しかしそれを行うには一つ()()()()()がある。

 同じ雷属性に加えて魔力の性質が近い姉妹同士……魔力付与を行う相性としては最高だが、肝心(かんじん)の二人の仲が最悪な事だ。依然として確執(かくしつ)がある今の状態で協力するなんて……


「大丈夫、それでこの状況を変えられるなら……!」


 ──────しかし、そんなアルスの憂慮(ゆうりょ)とは裏腹にレヴィンは迷いなく……驚くほどあっさりに姉からの提案を受け入れた。


「レヴィン、お前……」

「勘違いしないでよ!お姉様……あくまで皆を助けるために仕方なく、だから」


 強大な敵を前にして(なお)、怯む事な自分に出来ることをこなしていく……その姿に、冒険を始めた当初の下級(見習い)魔法使いだった頃の彼女の面影(おもかげ)はもうない。


「アルス!私達が準備してる間、守りをお願い……!!」

「あぁ……!」


 頼もしく成長した仲間からの頼みに、軽く笑みを見せながらも力強く(うなず)くアルス……────いつの間にか、気まずさは感じなくなっていた。



 ・・・



「どう?お姉様……」

「えぇ、いけそうだわ……!」

「おっけ!()()()、私達から離れといて!!」

「あぁ、頼むぞ!」「やっちゃいなよ!!」


 数分後……シオンと共に敵の手からトゥローノ姉妹を守り切ったアルスは、レヴィンの指示を受けて急いで彼女達から距離を取る。

 作業を終えた今、レヴィンからレーニスへと付与された膨大(ぼうだい)な雷の魔力は解き放たれるのを待ち()びるように不安定に揺らめき……今にも破裂(はれつ)してしまいそうだ。


「いくわよ……!」

「外したり味方に当てたりしたら、承知(しょうち)しないんだから!!」

「お前と一緒にしないで……!!」


 その中で長い金色(こんじき)の髪を(なび)かせる姉妹は、(たが)いに憎まれ口を叩き合いながらも共に同じ杖を握り締め……魔力操作に集中していた。

 こうして見ると本当によく似ている────二人が聞いたら嫌悪に顔を(ゆが)ませるであろう事をアルスは思い抱くが、その間にレーニスからの魔力干渉を受けた雷の魔力はゆっくりと上昇していく。

 やがてそれは『バチバチ……ッ』と音を立てる雷雲を上空に形成し……



「【雷神の(サンダー)…………怒り(ストーム)】ッッッッ!!!!」


 ──────次の瞬間、詠唱と同時に激しい雷鳴と(まばゆ)い閃光が一斉に放たれた。



 (とどろ)轟音(ごうおん)と思わず目を(つぶ)ってしまう光に悲鳴と動揺が上がる。

 数秒後……視界が晴れた時、周囲の魔族達は全て(たお)れ、群れは壊滅していた。それにも関わらず味方は全員無事な様、どうやら本当に敵だけを正確に狙い撃ったらしい。

 アミナス兵団の兵士達からも賛美(さんび)されたレーニス・トゥローノの高い魔力制御技術を(もっ)てして()せる(わざ)だった。



「今だ!魔王に!!」

「攻撃を集中させてっ!!」


 一瞬の出来事に戸惑う味方にアルスはレヴィンと共に声を張り上げて次の行動を指示する。

 全員の視線が一斉に魔王に向く────その先には巨体から煙を上げる木竜の姿が……流石の奴もレヴィンが渾身(こんしん)の魔力を込めた一撃は効いたらしい。


『グ……ッ!!【星の(ジェネシス)……──────】』

「「【竜の息吹(ドラク・スフル)】!!」」

「【風の精霊の怒り(シルフィードツォルン)】!!」

「【散りゆく火花(フォルスパーク)】!!」

「【音速の風刃(ムーブ・ソヌス)】!!」


 刹那(せつな)、再び前方に()()()を発生させた魔王に味方全員の魔法・奇跡が集中して降り注ぐ。新たに生み出された魔族も即座に蒸発(じょうはつ)して無に帰していく────気付けば、奴を(おお)う漆黒のオーラも弱まったのか薄暗い紫へと色を変えていた。


「【大地の捕食(マンジャ・テーレ)】!!【純朴なる愛(アンリ・アカンタ)】!!」


 そこにダメ押しとばかりに前に出たシオンが魔法によって大地を割り、地中から展開した夥しい数の茨(植物魔法)を用いて木竜(魔王)の身体を拘束する……が、やはり予想通り奴に触れた側から植物が(しお)れていってしまう。


「こっちには!さっきから(もら)ってる気持ち悪いくらい魔力があるんだからあああ!!【魔花の噴嚔(フロスタル・マニス)】!!」


 しかしその現象は(すで)に彼女にとって承知の上……シオンは今まで魔王から吸収した大量の魔力を使って何度も上から無数の(イバラ)を張り巡らし、更に上乗せするように咲かせた複数の巨大な花から麻痺(まひ)属性の黄色い花粉を勢いよく噴射(ふんしゃ)させた。



『グウウゥゥゥゥ……ッ!!この、ワタシが……ッ人形共、(ごと)きに……ッ!!』


 結果、魔王ハイルは遂に自身の弱点を守るオーラを失い、身動きが取れなくなる。

 トゥローノ姉妹の渾身の雷撃、全ての味方による集中攻撃、シオンの植物魔法による魔力吸収と拘束……ここまで(つむ)いできた人々の想いが形を成した瞬間だった。


「みんな……ありがとう……!!」


 ──────そこに一人微笑(ほほえ)むのは、これまで味方である人々を守ってきた(うるわ)しき巫女……いよいよ追い詰めた敵に、彼女はトドメを刺さんと両手に(たずさ)えた銀の(つるぎ)を振り上げる。


『まだだァッ!!』


 しかし魔王はまだ諦めていなかった。攻撃を放つ直前、突如として地中から音を立てて()い出た()()()纏いし樹木が巫女に襲い掛かる。

 最後の最後の奥の手────アレを喰らってまた距離を離されたら、恐らくもう時間切れ……再起の目はない。


『ザシュッ!!』


 人々が息を()んだ直後、その最後の抵抗が()()()()()()()によって斬り落とされ大地に落ちる。

 騎士団長(ペルデール)だ。巫女(レイア)を救うべく最初に動き出した彼が間に合い、最後の障害を文字通り斬り払ったのだ。



「今度こそ終わりです……魔王、ハイルッ!!」

『おのれェッッッ!!!スーヤ……ッッッレイアアアアアアアッッッ!!!!』



 全ての切り札を使い切り完全な無防備となった魔王は咆哮(ほうこう)を轟かせ、見に宿る魔力を膨張(ぼうちょう)させる……が、その前に巫女(レイア)の奇跡の力を乗せた一撃が振り下ろされる。


『パキ……ッ』


 次の瞬間、勇者の(ひとみ)に入ったのは真っ二つに叩き斬られた巨大な木竜────魔王ハイルの姿……

 そして(むくろ)の中から転がり出て、音を立てて(くず)れる……(かがや)きを失った()()だった。

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