60話:最後の切り札
〜前回のあらすじ〜
聖地・アミナス教国に魔王側が攻め込んだ事から始まった神秘の森────エリュシオンの戦い……上空と大地双方各地で繰り広げられた激戦は段々と決着を見せ、大戦自体もいよいよ終局へと向かいつつあった。
紆余曲折を経て離れ離れになった仲間達がそれぞれ魔王の元へと向かう中……勇者アルスは今正に、異次元の怪物である魔王ハイルと対峙していた。
「はぁッはぁ……ッッ!!」
周囲を薄暗い霧────瘴気に支配された"魔樹の森"の中、勇者アルスは息を乱しながらも戦い続けていた。
息が苦しい。身体が熱い。大地の感触がない。
先程から感じているこの変調は、自身を覆っている濃度の高い瘴気による影響だ。
まるで平衡感覚が失くなったかのような錯覚に、ここまで大分苦戦させられてきたが……
『ザシュッ!!』
──────今は、不思議と悪い気はしない。
むしろ普段よりも調子が良い。まるで身体に翼でも生えたかのよう……そんな不思議な高揚感と共に、アルスは一気に敵を斬り伏せていく。
次々に生み出される魔族達の中には上級魔族に匹敵する魔力量の個体もいたが、まだ生を受けて間もなく経験を伴わないためかその実力は本物の上級魔族には遠く及ばなかった。
「──────【星の産声】」
……だが、そんな勇者の快進撃もそう長くは続かないだろう。
一体、また一体と敵を倒している間にも魔王ハイルはこれまで何度も唱えてきた呪いの言葉により無尽蔵に新しい魔族を生み出し続けている。
シオンの植物魔法による援護のおかげでなんとかここまで抵抗を続けられたものの……まともに感覚が機能していない今、いつ身体の限界がやって来るのか分からなかった。
「はぁはぁ……ッ」
「くっ……!」
それに加え、共に戦っている二人のエルフ────巫女と騎士団長の方も大分苦しそうだ。
恐らく彼等エルフ族は、自分達人類と違って瘴気に対する耐性がまるでないのだろう。身を守るためか戦闘中常に奇跡の力を身体中に張り巡らしていた……故に普通よりも消耗が激しいのだ。
魔王の直接的な相手を担ってる彼等が倒れれば、一気に戦線が崩壊してしまう。このままでは……
「アルス!!」
──────圧倒的な物量によって削り殺される。
不意に後方から聞こえたシオンの声、気が付けば目の前には巨大な樹木の影が……巫女達が撃ち漏らした攻撃がこっちに飛んできたのだ。
対処しなければ死ぬが、どうにか出来る威力の技をアルスは持ち合わせていない。そして皆が皆目の前の事に手一杯の中、彼を助けられる者もまた何処にもいなかった。
「【散りゆく火花】!!」
そんな時、突如として現れた眩い光がアルスの周囲の魔族を斃し、樹木の動きをも止める。
一瞬一角獣の騎士の姿が勇者の頭を過ぎるも、詠唱の声からすぐに違うと気が付く。危機的状況の中、アルスを救ってくれたのは……
「アルス!大丈夫!?」
「レヴィン!無事だったか……よかった」
少し前に散り散りになってしまった大切な仲間の一人──────シオンの蔓に連れられて退避した先で、彼女と再会を果たしたアルスは降臨祭の一件での気まずさを一瞬完全に忘れて安堵の笑みを見せる。
その隣には、彼女の姉であるレーニス・トゥローノの姿もあった。
「あなた達、仲直りしたの?」
「ううん、たまたま一緒に来ただけ」
「それよりコレどういう状況……!?」
険悪な関係だった筈の姉に肩を貸すレヴィンに思わずツッコミを入れるシオンだったが、直後にレーニスの小さな悲鳴が上がる。
彼女の視線の先には既に魔王の手で新たに生み出された大量の魔族の群れが。当然アルス達は迎撃の構えを取るが……
「「「【竜の息吹】!!」」」
「【音速の風刃】!!」
「【風の精霊の怒り】!!」
魔法を発動する前に、巨大な火炎と大量の風の斬撃が後方から敵に向かって炸裂した。
振り向けば、森の奥から何小隊かの魔導士とエルフ族の姿……中から一人先頭に出たエルフが杖を掲げ声高に叫ぶ。
「一角獣の騎士……グラシア様の命により、魔王との戦いに馳せ参じました!!レイア様、これより我々も貴方様のお力に!!」
その宣言を聞くに、彼等はどうやら先程この戦場を離脱したグラシアによって救われた者達らしい。
かくして、巫女の目論見通り……神秘の森全域に散らばっていた各戦力が集結しつつあった──────全ては打倒魔王のために。
『次々から次へと、都合の良い操り人形共が……!!』
「……風向きが変わりましたね」
絶望的な劣勢の中、耐え続けた事で微かに見出された人類側の勝機……増援の到着に不快感を露わにする魔王に対し、巫女は小さな笑みを見せ剣を構え直す。
「ペルデール……あの技を使います」
「!!だが、それを使えばもう……」
「どの道大技はあと一度が限界です……後の事は頼みましたよ」
そして、彼女は身に宿る奇跡の力を解放し……綺麗な歌声を思わせる詠唱を場に響かせるのだった。
「──────【今この時を永遠に】」




