59話:レヴィンの決意
〜前回のあらすじ〜
アルス、シオン、巫女、騎士団長の四人が魔王と戦っている頃……
重症を負ったウォルフを助け、そのまま黒血騎士との戦闘に入る一角獣の騎士"グラシア"だったが、死闘の末に追い詰めたのも束の間……起死回生の一手により逆転されてしまう。
しかしそれでも諦めなかったグラシアは、黒血騎士を拘束し自分諸共一角獣の突進を受ける"道連れ"を選び────その意識を手放すのだった。
一方その頃、また別の場所では……
「はぁッ……はぁ……ッ」
どこまでも続く同じ景色……樹木生い茂る深い森の中、一人の少女が息を切らして走っていた。
何が起こったのか分からない。
覚えているのは激しい大地の揺れ、そして生き物のように荒れ狂う神秘の森……気が付けば自分は一人になっていた。
アルスは、フィルビーは……直前まで一緒にいた仲間達はどうなったのだろうか。
「はぁッ!はぁッ!」
手掛かりになりそうなものは、先程聞こえてきたこの世のものとは思えない恐ろしい咆哮だけ……
仲間の無事を祈りつつ、少女は息を荒げて走り続ける。髪が乱れようが、どれだけ苦しかろうが……怖かろうが関係ない。
「え?」
──────そんな風に必死に駆け抜けた先で……不意に視界の片隅、少女の金色の瞳は何かを捉えた。
「お姉様……?」
「レ、レヴィン……っ」
それは薄暗い茂みの中で一人蹲る自身の姉……レーニス・トゥローノの姿。
突如として出会した思ってもなかった事態に少女───レヴィン・トゥローノは困惑を露わにする。
「えっと……何してるの?」
「お、お前には……関係ないでしょ……!」
「……」
返ってきたのは当然、昔と同じように自身を拒絶する言葉……しかし強気な言動とは裏腹に彼女は恥ずかしそうに顔を背け、全身を小刻みに震わせている。
まるで魔王討伐隊に入り冒険を始めたばかりの頃……魔獣の群れに遭遇し、恐怖心から震えて動けなかったかつての自分の様だ。
「……は?な、何よ……?」
──────気付けばレヴィンは姉に向かって手を差し伸べていた。
「動けないんでしょ?肩、貸すから」
「何の、つもり……?恩でも売ろうっていうの……!?」
正直、レーニスの事は嫌いだ。
幼い頃は家族の中でも取り分け自分にキツく当たり、この国で再会した時は仲間達と離れることを迫られた。
仲間達の安否が分からない現在、動けない姉のことなんか放って一刻も早く先に進みたい。
でも、たとえ嫌いな相手だったとしても……こんな時、彼なら……
「違うよ……私が好きな人ならきっと、こうするって思ったから」
"勇者アルス"なら決して困っている人を見捨てたりしない……かつて自分にそうしてくれたように。
そんな淡い想いだけが、レヴィンを今突き動かしていた。
「それに今は味方でしょ?これからまた戦いになるだろうし……戦力は多い方が良いと思って」
「!?お前まさか、あの声がした方に行くつもり……!?」
「多分それが一番仲間と会える可能性高いから……嫌なら置いていくけど?」
「何でそんな落ち着いてんのよ……!?ちょっと前まで、何も出来なかった出来損ないのくせに、怖くないの……!?」
「怖いに……ッ決まってるでしょ!!」
それでも今まで見下していた存在から手を差し伸べられた屈辱からか……尚手を取ろうとせず、あまつさえ表情を歪めて毒を吐くレーニス──────そんな彼女に対し、レヴィンは遂に内に抱えた強い感情を爆発させる。
「でも……ッこのまま何もせずにアルスを、フィルを……ッ仲間を失う方がよっぽど怖いの!!だから私は戦う!!」
「……ッ」
家にすら、血の繋がってる筈の家族の中ですら居場所のなかった自身の事を仲間達は受け入れてくれた。
共に過ごした期間こそ、そう長くはないものの……温かい記憶も、嫌な記憶も含め既にたくさんの思い出が出来ている。
そんな大切な居場所を失う事は、凶悪な敵に立ち向かう事よりも彼女にとって恐ろしく辛いものだったのだ。
「無理強いはしない。お姉様が行けないなら、私一人で行くわ……じゃあね」
「……待ちなさい!」
これ以上は時間の無駄────そう判断して背中を向けると、直後に後方から呼び止める声が響く。
振り向けば……そこには震えながらもなんとか立ち上がろうとする姉の姿が。
「……なに?」
「お前にこうも好き勝手言われて引き下がれるわけ、ないでしょ……!私にだってトゥローノ家に生まれた者としての誇りがあるの……!!」
「あっそう、興味ないけど……来るってことでいいのね?」
「えぇ……!」
相変わらず高いプライドと歪んだ執着心だが、そこには確かな覚悟が感じられた。改めてレヴィンが手を差し伸べると、今度こそレーニスはその手を取って立ち上がる。
少し前まで、あんなにも恐ろしく見えた姉に肩を貸すことになるなんて……等と不思議に思いながら歩いていると、「それと……」と小さな呟きが不意に耳に届く。
「レヴィン……今までお前にした事、謝るわ……その、悪かった……わね」
「はぁ……もういいよ」
それは本心か、形だけか……細やかながら送られた姉から自身への謝罪の言葉。
何を今更────刹那に顔を朱に染めて背けてしまう姿を見て呆れるレヴィンだったが、その内側でほんの僅かばかり……大嫌いだった姉を許す気持ちが芽生えるのだった。




