48話:大戦の幕開け
〜前回のあらすじ〜
アミナス教国一年に一度の祭事"降臨祭"
それはエルフ達の美しき舞踏の後、巫女の身に女神が降臨し人々に希望を与える神々しい儀式だった。
その光景にアルスは思わず目を奪われるも……儀式を終えた直後、突如として上空が眩い光に包まれる。
それは────敵からの魔法による攻撃。
混乱に陥りかける人々を巫女は落ち着かせ、自分達と共に戦ってくれるよう呼びかける。
今……近年最大規模の戦いが始まろうとしていた。
聖ヤーラ歴715年、12の月……
神秘の森"エリュシオン"の最北端にて二つの軍勢が向かい合っていた。
一つはエルフ達が率いる"人類連合軍"
スーヤ騎士団を筆頭にアミナス兵団や各国の上〜中級魔導士、そしてアルス達含めた魔王討伐隊の面々……
地上に並ぶ部隊だけでも錚々たる顔ぶれだが、上空にスーヤ騎士団が誇る神獣部隊や熟練の風魔法使い達が舞う光景は圧巻の一言だ。
対するは魔族の王────ハイル率いる"魔王軍"
空を覆い尽くさんばかりの魔龍族の群れ、前方に広がる多種多様な容貌の怪物達……
何千何万という数え切れない程の魔族の大群が此方に向け進軍してきていた。
────その両軍の規模たるや、正しく"総力戦"といった雰囲気だ。
「す、すごい数です……」
「この戦い……近年では類を見ないレベルで大規模なものになりそうね」
周囲から伝わる緊迫した空気……隣で待機するフィルビーは少しばかり怯えた様子を見せ、これまで共に幾つもの修羅場を潜ってきた幼馴染も流石に息を呑む様子を見せる。
彼女の言う通り、人類と魔族の戦いはこれまでにも何度も起こったが……双方共にこれ程の大軍を率いての戦いは近年では記録にない。
それこそ文献によれば、以前起こったのは歴史書に載せられるくらいに昔のことだ。
「────皆様、どうかご武運を……啓示の通り、私達には女神の加護が付いています……それを信じ共に、精一杯戦いましょう……!!」
両軍の距離が少しずつ、着実に縮まり緊張が高まってきた時……不意に空から透き通るように響いたのは麗しき巫女────レイアの声。
見上げた先にあったその姿は、普段の聖装とも女神降臨の儀の際の衣装とも違う……身体の至る所に甲冑を身に付けた美しくも勇ましい姿。
何よりも特筆すべきは背中から純白の翼を広げていることだ。
その姿は宛ら……彼女達エルフ族のもう一つの呼称である天使そのもの。
「……いつもと雰囲気ちげぇな」
「アレは羽……か?」
「聞いたことあるわ……"エルフ族の中でも優れた者は翼を生やすことが出来る"って」
普段の儚げな印象とは異なる巫女の姿にウォルフと共に軽く驚いていると、不意に説明をするようにレヴィンが会話に入ってきた。
「そうなのか……レヴィンは物知りだな」
「う、うん……まぁね」
「……」
「……」
────直後、場に気まずい沈黙が流れる。
降臨祭の後、戦闘準備のために宿へと戻ったアルスを待っていたのはあの一件で自身が泣かせてしまった彼女との再会。
彼女は目元を少し腫らしてはいたものの、「もう大丈夫!」と改めてスッキリとした表情を見せ、取り乱してしまったことをアルスへ謝罪してきた。
それを見て、アルスも自身の今の正直な気持ちを改めて伝えようかと迷ったが……
"それにさ……振ったアナタにそんな事する資格があると思ってるの?"
あの時シオンから言われたこびり付くような言葉が頭の中で引っ掛かり、何も言う事が出来なかった。
こうして今回の一件は表向き何事もなく幕を閉じた……が、残ったのは"このまま終わらせてしまっていいのか"というモヤモヤとした想いばかり。
────だが今は、目の前の戦いに集中するべきだ。
「それでは皆様……準備はいいですか?」
勇者アルスが雑念をなんとか振り払った時、再び巫女の声が場に響く。
その声に応えるように、アルスは自身の剣の柄を握り締める。
戦いの準備も、覚悟もとっくに出来ている。
アルス含め一行はこれまでの戦いで損傷してしまった武具を修理し……アルスは剣を、ウォルフは大斧と双剣を新たに用意した。
そして前回の戦いで仲間に加わったシオンもまた、自身の兄である勇者カリヴァの盾を身に付けていた。
「手筈通り、先ずは私達が先陣を切ります」
武器を、杖を構え出す人々に向かって続けて掛けられる巫女の言葉……それにあわせて二人の人物が人類連合軍の先頭へと出ていく。
一角獣を駆り、巨大な騎槍を携えるグラシアと騎士団長ペルデール……スーヤ騎士団の中でも指折りの実力者達。
その二人の前に宣言通り舞い降りる巫女────決戦前、彼女は人々を集めて話をした。
・斥候により魔族の大群が此方に向かっているのが判明した
・それらの軍勢を率いているのはあの魔王
・この戦いは魔王の手駒を如何に減らすかが重要
・それを成すため、開戦の際は自分達が先陣を切る
────どうやら今が、その時であるようだ。
「「「グオオオオオオオォォォッッッ!!!」」」
咆哮を上げ、一斉に突撃し魔法を放ってくる魔族の軍勢。
それらを前に巫女は静かに鞘から剣を抜き、その場で構える。
「〜♪」
そして、透き通るような歌声と共に横に一閃──────薙ぎ払った瞬間、前方の大群は放ってきた魔法ごと真っ二つになった。
威力・範囲共に恐ろしい神の御業の如き必殺の一撃……その光景にアルスは目を見開き、周囲の味方は小さく歓声を上げる。
『ザッ…ザッ…』
……しかしその中で、何事もなかったかのように此方へ向かってくる個体が一体。
他の魔物が距離を取ったり回避行動を取る中……その魔物だけが悠然と、仲間達の血や臓物で敷かれた絨毯の上を歩いていた。
「……来ましたか」
遠くからでもビリビリと感じる途轍もなく強大で、それ以上に禍々しい滅紫色の魔力……
この広大な戦場の中、一際異質な存在感を放つその魔物を前に、巫女は改めて剣を構え直す。
大地から生えた樹木で覆われたような身体……その窪みの深淵からは、瞳孔を表すかのように妖しい光が放たれている。
まるで、かつてこの大陸に生きる人々を大勢殺した厄災たる瘴気そのものが生き物の形を成したかのような姿。
「……ッ」
血が、骨が、全身の細胞が告げてくる────あの魔物は危険だと。
この世界に他に比肩する存在はいないと断言出来る程の魔力、そして威圧感……
初めて姿を見たが、最早その正体は疑いようがない。
そんなアルスの直感が正しいものであると告げるよう、巫女がその名を口にする。
「魔王……ハイル……!!」
それは人類と魔族────二つの種族の頂点が遂に相対した……歴史的な瞬間だった。
お疲れ様です。今回が今年最後に投稿するお話となります。
ここまでお読み頂きありがとうございました!
来年もまた頑張っていきますので、どうか共に付き合って頂けると幸いですm(_ _)m




