Act.1 東洋の青年
葬儀屋を辞したカトリシアはアカシを伴っていた。アカシの相方であるヤシロは何やらやることがあるらしい。また、現段階は分からないことも多いため、アカシが単独で調査を始めることにしたのだ。
カトリシアはアカシを実家に案内する道すがら、ちらりと見遣る。
アカシ・カナドメという青年はその名前からして東洋出身のようだった。
烏の羽が濡れたような黒髪、肌は陶器のような白、通った鼻梁と形の良い眉毛、扇の睫毛と切れ長の目。
瞳は切れ長過ぎて鋭く、烟るような黒檀。目尻は皮膚が薄いのか仄かに赤い。
身長も高く、カトリシアはかなり見上げなければならない。スーツに包まれた体躯は鍛え上げられた鋼のようで、それでいて筋肉質すぎる訳でもないように見える。
長めの前髪を耳にかけており、覗く左耳には銀の十字架のピアスが付けられていて、歩く度に揺れていた。
黒のシルクハットに、黒のロングコートを翻し、腰には前から通されたベルト紐がリボンのように結ばれて揺れている。
背筋が伸びてしゃんと歩く姿は男ということを差し引いても見蕩れそうだった。
そして今は、先程はかけていなかった眼鏡をかけている。
「…何か?」
「え、と」
どうも見つめていたのに気付いていたようだ。カトリシアはつい思ったことを口にする。
「あの…ミスター・カナドメ」
「アカシでいいですよ。東洋系の苗字は慣れなくて呼びにくいでしょうから」
「…アカシ、さんは、目が悪いのですか?」
「はい?」
頓狂なことを聞いただろうか。アカシが2度3度瞬きをする。確かにこれでは言葉足らずもいいところだ。
「ええと、先程はかけてらっしゃらなかったから…」
「…ああ、これのことですか」
アカシは得心がいったのだろう、眼鏡に触る。カトリシアがこくりと頷いて見せれば、説明してくれた。
「別に目が悪い訳ではありませんよ」
「え、でも」
「悪い訳では無いですが、無いと困るのでかけているだけです」
なんとも要領を得ない。カトリシアとしては目が悪くもないのに眼鏡が無いと困るという意味が分からない。邪魔にならないのだろうか。
カトリシアが怪訝そうにしているのを見てアカシは少しだけ笑った。
「“視え”過ぎてもいいことはありませんからね。適度がいいんです」
「はぁ……?」
分かったような分からないような。煙に巻かれたようだ。この青年は見た目も中身もエキゾチックのようで、カトリシアは少々苦手なタイプだった。
「ところでカトリシアさん」
「はい」
「その亡くなった貴女の姉君はどういったお方だったのですか?」
「そう、ですね…」
アカシに問われてカトリシアは少し考える。
「誰もが羨むような、素敵な女性、でしょうか」
「ほう」
「姉は、パトリシアは両親の自慢の子供でした。双子の姉ですが、私より美人で器量よしで…。私は出来が悪かったので、叱られることもありましたが、パトリシアは私を庇ってくれました。両親にとっても自慢の子供ですが、私にとっても自慢の姉なのです」
「…その姉君が、貴女のもとに夜な夜な現れる?」
「…えぇ」
そのことを思い出して溜め息をつく。そう、自慢の姉だ。なのに、姉はなにが言いたくて現れるのだろう。もう貴女は亡くなっているのよ、とそう声をかけても姉には届かないようだ。
カトリシアが生きているのが気に食わないのだろうか。カトリシアは生きているのにパトリシア1人亡くなったことが心残りだと言うのだろうか。
「…嗚呼、着きましたわ」
「こちらが?」
「私の実家です」
カトリシアの足が止まり、アカシの足も止まる。
人が亡くなったせいだろうか。心做しか翳りを帯びて見えるこの街にしては大きく立派な屋敷だった。
ここが、レーメ姉妹の家であり、亡霊が現れる家。
「正しくゴーストハウスですか」
「気の所為なら良かったのですが、仰る通りです。 …どうぞ、アカシさんお入りください」
カトリシアに促され、アカシはもう一度屋敷を一瞥して敷地に足を踏み入れた。
屋敷の窓の1つから、こちらを見下ろす影には気付かなかった。




