第9話 おしゃべりミーヤ
ミーヤはおれの話をよく信じてくれる。
中間界の前途を心配し、何とかできないかと考え続けていた。
おれの相対性理論の知識程度で中間界を救う方法など手掛かりもなかった。
ミーヤは言った。
「現世界に行って物理学と天文学を勉強したいな!」
大きなまん丸眼鏡の女教師が、黒板に相対性理論の公式を書いて振り返ってにっこりする光景が思い浮かんだ。
「現世界で勉強してもここを救う方法は無いと思うよ」
「だったらそのまま現世界でお兄様といっしょに暮らしたいわ。他の人のいない現世界で」
この世界が無くなるなんて、と泣く彼女をそっと抱いた。
壊れるのは明日じゃあないと慰めた。
〝他の人のいない〟とはどういう意味か。
普段ミーヤはフリアーナやマリサに嫉妬する感じは微塵も見せないが。
そのとき突然不思議な感覚に捉われた。
「ここは夢の中のような気がする。おれは今夢を見ているのだろうか」
「私はお兄様の夢の中にいるの? だったら夢の主であるお兄様は私を好きなようにできるわ。どう? 何かやって。夢ならばひょっとしてあのことも」
「いや、君を統一されたインテルメディオの女王にしてあげたい」
「じょ、じょ、女王? フワッ、ハッ、ハ。私がぁ? でもお兄様が目覚めると女王になった夢の私は消えているのね。はかないけどおもしろい喜劇みたいね」
こんな会話をしていると目の前すべてが夢みたいな気がしてきた。
夢なぞ破壊して早く覚めたいと少し思った。
このころミーヤの胸や胴が一段と大きくなっていた。
顔は依然可愛いが相当ふっくらしてきた。
ミーヤの運命的で不可解な肥満が始まっていた。
太るにつれてミーヤはますますおしゃべり好きになっていた。
フリアーナの身の回りを世話する役は他人に変わり、おれが楼閣に行く頻度が減るとフリアーナとの間に距離感ができ始めた。
しかしある夕方、たまたまおれが楼閣の窓から外を見ていたら久しぶりにフリアーナが寄り添って体をくっつけてきた。
わざと擦り寄せてくる弾力に溢れた腰のボリュームにいやでも女体を意識した。
しかし君主と臣下だから本能にまかせて抱くわけにはいかない。
フリアーナの表情は少し憂いを含んで色っぽかったが謎めいた光もあった。
夕日を見ながら彼女は想い出を述懐していた。
めずらしく早口の独言は聞き取りにくく不可解な内容だった。
ポカンとしたおれを見て彼女は言った。
「お兄様は神代界に行く前だからわからないわね」
以前ミーヤから聞いた、フリアーナの神代界での事件を言っているらしい。
彼女の眼は不可解に揺れていた。
家に帰ってからもフリアーナの感触が生々しく残っていた。
だが寝ると意外な夢を見た。
…………ゆれる水底でフリアーナが人魚姫の格好で岩に座っていた。うなだれた彼女はつぶやいていた。
「もう辞めたい。公爵なんて」
…………
これが彼女の本心なのか。
しかし翌日見たフリアーナはいつもどおりケロッとしていた。
昨日初めてフリアーナもおれに〝お兄様〟と呼びかけた。
白い母の言っていた〝双子の妹〟は彼女だと思った。




