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夏至祭の時空の彼方  作者: 有嶺 哲史
第三章 インテルメディオの崩壊
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第10話 謎の撹乱

 ある朝突然リリオ公国内のあちこちに壁紙が貼りだされていた。

人々が群がった。


〝騎士にして伯爵アルマン・ド・サティオスはフリアーナ女公爵と向き合って微笑んだ〟


〝向き合って微笑んだ〟、とは、ここ中間界では現世界でいう〝寝た〟と同じみだらな言葉だ。

何の証拠も無いのに噂は一気に広まった。

公国内の男達はおれをうらやましがっただけだ。

しかし女達はおれを不潔な不忠者と言った。

近親姦を指摘する者はいなかった。

女公爵も二人の女護衛官も噂に激怒していた。

君臣離間の陰謀だ。

陰謀を考えるなんてここの人々には似合わない。

 女公爵は壁紙を信じないように命令を出したが噂は収まるどころではなかった。

二度目の壁紙が貼りだされたからだ。

今度はフリアーナもショックを受けた。


〝フリアーナはここインテルメディオの人間ではない。嘘だと思うなら公衆の面前で彼女の裸体を隅々まで白日の下に晒してみよ。見たことのない器官が存在するであろう。彼女は宇宙人であり、偽りの支配者である。命令を聞くべきではない〟


もはや尊称さえつけていない。

彼女がアルコ家の後添えの連れ子だったことは公然の事実だが、彼女が宇宙人だとは誰も思っていなかった。

ここの女にとって壁紙に書かれた部位を公衆に晒すことは肩の黒子を見せるくらい何でもない事としか感じない。

それをフリアーナだけが死ぬほど恥ずかしく思い、嫌がることを、貼紙をした者にはわかるということだ。

思わず皆がフリアーナを見た。

彼女は手で顔を覆った。

顔面蒼白で、誰も何も言わなかった。

この文書はどうも現世界の臭いがする。

実際にフリアーナが壁紙のとおりのことをすれば不可解な出っ張りや引っ込みを見た公国の女たちにショックを与え、宇宙人といわれると皆フリアーナを気持ち悪く思うだろう。

ひいては統治に疑惑を抱き始める。

壁紙を無視するとフリアーナの疑惑は消えない。

いずれにしてもこのままでは統治が乱れる。

君民離間策だ。

少しして、おれは自分で貼紙を出した。


〝ドーニャ・フリアーナの統治の正当性を疑う者があれば私と決闘せよ。決闘に負けた者は噂を否定すべし。決闘せずして噂を拡散する者は反逆者・謀反人として命をとる〟


以前おれがマリサと互角の戦いをしたという噂も広まったので誰も決闘に名乗りを上げるものはいなかった。

おれが恐れたほど大スキャンダルにはならず、そのうち沈静した。

しかし噂を口に出さなくなっただけで、おれに付いた悪いイメージを消すものではなかった。

実は正当な君主になるべきは誰か、という問いの真実の歴史的証拠をおれだけが持っているがそれを今はまだ持ち出すべきではない。


 間を置かずリリオ公国の西にあるエスクード(盾)公国が中間界全征服の戦争に乗り出すと決めたことが分かった。

壁紙は戦争への挑発だった。

少し前に相撲の友であるイシドロから手紙が来てエスクード公ドン・ミゲルは本当に戦争を始める気であること。

やる気満々の公爵を止められなかった自分を不甲斐なく思うと陳謝していた。

ちょっと前、初めて創られた軍の華やかな式典が行われた際イシドロは開会の号令で声がよく出なかった。

それを口実に冷遇され政治的力を失っていた。

おれは返信した。

こうなったことは遺憾であるがイシドロの努力を高く評価する。

実は今、戦争どころではない。

かなり近いうちに中間界は崩壊する。

そのときは住民全員がすみやかに現世界へ繋がるトンネルに入って転生できる準備を始められよ、と伝えた。


 リリオ公国でまことに久しぶりに族長会議が開かれた。

意外にも年配の男達だけであった。

仲がいいとは言えないが二国並立状態で長年平穏だった中間界に色々な意味で変化が起こっているのは確実だ。

古い族長が聞いた。


「なぜいまごろ戦争を?」


それなりに尊重される伯爵であるおれが答えた。

地球ではこんな場で相手にされることは無い。


「それは世界が二つに分かれていることからの必然だ」


「ただの脅しではないのか」


イシドロからの通報を知っていたおれは続けて言った。


「隣国の友からの手紙によれば彼らは本気だ。理由がないから、といってこちらが大人しくしていても口実はいくらでも作られる。仲裁してくれる第三国もここにはない。勝算ありと見ている欲に眼のくらんだ相手に言葉は無力で、力で現実を突きつけるしかない。彼らは全力で攻めてくるので環濠くらいでは止められない。我が国民は力を合わせ、きっと国を守る楯になってくれる」


結局開戦することで一致し、あとのことはフリアーナに一任された。

会議が終わり二人だけになった。

すると


「怖いのよ、怖い……」


統治者がおののいている。

彼女は震えながらおれにすがりついた。

少しの間だけしっかり彼女を抱きしめ離した。

おれが強硬に主戦論を唱えるのが不安なのだろうか。

帰宅してからも考え続けていた。

思い出すたび彼女の肉体の記憶は麻薬のような力でおれをとりこにしようとしたが、おれは臣下であり断固騎士的紳士的態度に終始するのが正しいと思った。

本当に兄妹かもしれないし。

まるでそれをからかうように最近のフリアーナは表情も仕草もふんわりべったりしてきて妖艶さを隠さなくなった。

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