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夏至祭の時空の彼方  作者: 有嶺 哲史
第二章 インテルメディオの風来坊
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第5話 サティオスとイシドロ

 女公爵フリアーナはおれを、遠い異界の修行から戻って来た弟として公表した。

本当に弟なら母が後添えになってから生まれたことになり、おれは先代公爵の胤となる。

すると誰の胤か判らないフリアーナより継承順位が高いはずだ。

ところが誰もそれを指摘しないし、おれが生まれたとされる時のことを憶えている人もいないらしい。

しかし彼女の話を公国民は疑わない。


 これでも騎士はたったの三人だ。

ミーヤかマリサが不在の時はおれが騎士の正装でフリアーナの傍に立つことになった。

服装をミーヤに相談すると彼女は自分の正装を貸してくれた。

すると小さいのが難点だがそれだけではなかった。


「あそこが膨らんでいる。あれは何?」


露天劇場で中間界の男達には無い盛り上がりに気付いた女たちが少し騒ぎ始めた。

変な噂が立つ前に自分で男用の正装を作って着ることにした。

ここに慣れてきたおれはこのころから自分の考えを表に出すようになった。

希望は大体叶えてくれた。

コスチュームはカエサルの彫刻を思い出しながら作った。

立派な彫りのある胸以外、防御性能より機動性を優先した動きやすい鎧になった。

下半身を覆う布は膝まで伸ばした。

自分ではかっこいいと思った。

赤いマントも作ったが立派すぎるとして許されなかった。

軍を指揮するとき遠くからよく見えるように金色に輝く青銅の、翼の生えた兜を作った。ただしこの国にまだ軍はなかった。


 フリアーナはおれを身の回りの世話、公国民へのメッセージの仲介役にして自らは表に出ることが減った。

彼女はそれまで質素だった宮殿を建て替えた。

国中がよく見える高い木造楼閣を建設させ、居住棟の最上階で仕事をした。

おれは彼女の執務室に出入りする唯一の男だった。

楼閣から見える水平線の曲がりを改めて感じた。

この空間の歪みにおれは密かに懸念を持っていた。

天体が重力崩壊するとき空間がゆがみ、風景が瓶底から見る感じになると思っていたからだ。

彼女の部屋で二人だけになることは普通で、おれは異界がえりの弟ということになっているからみだらな噂は立たなかった。

いつも夕方になると退出した。

その前に天気がいいと夕景色を見るのが常だった。

遠くの森の向こうに落ちてゆく光源は大きくて夕方の時間は長い。

故郷の夕景を想いながら急にいなくなったおれを現世界の人は探しているのだろうか、などという思いがよぎった。

そんなときフリアーナがいつの間にかそばに居て一緒に眺めていることもあった。


 二人の女騎士は護衛の他、定期的に出歩いて情報収集もしていた。

隣国は馬車に乗れるミーヤの担当で国内はマリサの担当になっていた。

以前から仲がいいとは言えない隣国に前回ミーヤが外交官として行ったのも表面的には貿易交渉だった。

しかし裏の目的はスパイ活動で、数日間隣国の中を調べていた。

そしてスパイ活動を気付かれ、いやがらせで馬車に細工された。

おれの眼前で馬車が転倒したのはその工作が原因だった。

しかしミーヤはちっともこりずにその後も同じことをやっていた。

 馬車の転覆事故の理由が分り用心のためおれが同行して隣国に行った。

たまたま隣国の公爵は不在だったので臣下の一人、イシドロ・ピエドラ・デル・リオ(川の石のイシドロ)に会った。

体格がいい男であるが背はおれの方が高い。

それでおれを見たとき思ったらしい。


「おれの先祖はゴート人だ。お主はフランク人か?」


こんな所で聞くとは思わなかった名前だ。


「なんだそれ? シャルルマーニュは確かに大男だったが彼は例外だ。皆デカいわけじゃない」


イシドロは他に何も知らず、この話題は続かなかった。

一瞬中世の地球にいるような錯覚をした。


 ミーヤと交渉を始めたがイシドロは頑固に一歩も引かない。

名前通り石頭との交渉は決裂しそうだった。

やっぱりだめかと思った時、彼は


「おれとおまえの勝負でけりを付けないか」


と言った。イシドロは筋肉バカだった。

体格のいい男を見ると勝負したがる。

難しい交渉がえらく単純な話に変わった。

おれは以前から持っていた趣味を提案した。


「相撲で勝負するのはどうだ」


彼は相撲を知らなかったがスポーツ好きなので興味を持った。

おれが相撲のルールを説明すればルールが簡単なことがイシドロの気にいった。

二人で二十番勝負をすることになった。

場所が決まり土俵づくりをしていると櫓太鼓の音を聞いて見物人が少しずつ集まり出した。

行司はミーヤと隣国の女一人が一番交替でやる。

イシドロはここの女と同様に股がほとんど左右に開かないので四股は踏めない。

だが運動神経のいいイシドロは強い。

勝負は互角に進んでいった。

おれの得意技は上背を生かした吊り出しだ。

おれの手がイシドロのマワシを掴みそうになると吊り出しを期待する観客は大喜びだ。

吊り上げてしまえば必ずおれが勝った。

二十番勝負はきっちり引き分けに終わり二人とも疲れ果てた。

宿舎でミーヤと一緒に泊まった。

同じ部屋でベッドを並べたがミーヤは小学生のようにスッと寝た。

翌日おれ達とイシドロは外交交渉に戻った。

イシドロは昨日とは打って変わって友好的な態度になり信頼が生まれた。

取引が成立し、以後帰りの馬車に姑息な工作がされることはなくなった。

単純なルールなのに決まり手が沢山あるなど、奥が深い相撲が気に入ったイシドロは隣国に相撲協会を作り会長になった。

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