第18話 時空の旅の全否定?
「じゃあ、おれのでたらめを言おう。母宇宙と子宇宙というものがある」
「? いきなりぶっとんだねえ」
「母宇宙の中に現世界と中間界をつなぐ太い道があったが不安定だった。その入口が望遠鏡付近を通過した。あのとき空中にキラリと光る何かが見えた。そしておれと、すぐ後で君を吸い込んだ。しかし不安定なので一度月に取り落とした。月で呼吸が出来たのはおれ達の周囲の地球の時空もひっぱっていったからだろう」
「でも、『嫌だ』と言う言葉でなぜ月まで飛んでいったの? なぜその言葉が効いたの?」
「偶然の一致だと思う」
「でも他の宇宙なら観測さえ出来ないと思うよ?」
「高次元を使って宇宙間を往くという、観測とは違う方法があるのだ」
「あらまあ、素晴らしいでたらめね。先をどうぞ」
月の母は他に誰も見ていない。
おれが初めてフリアーナに会って説明した月の母は偶然彼女の生母とそっくりだったのだろう。
いかに不思議でも偶然の一致はあり得る。
「話を進める」
そこからカルメンの理解度を無視して仮説の塊をしゃべった。
「子宇宙である我々の宇宙とインテルメディオの間に昔から別にチャンネルが出来ていた。インテルメディオの人々は最後にそれを伝って我々の宇宙に転生してきた。ただしおれと君だけは元からの地球人だから転生の途中ではじき返されて戻ったのだ」
彼女は理解できずポワンとしていた。
気を取り直して彼女は
「あちらの世界に何年もいたのにこちらに戻ってきたとき時間が経っていなかったのはなぜ?」
「現世界、中間界いずれも別々の時間が流れている。中間界で大冒険をしている間はそこの時間だけが進行していて、地球の時間を使っていなかった。地球から来た君とおれの戻り先は最初の出発時点になるのが普通だろう」
「皆と同じようにチャンネルを通って現世界には行かなかったの?」
「分身が出来て、行った可能性が有る。時空にはじき返される前に我々二人の情報はチャンネルに取り出されて通過してゆき、出口で情報から実体への再構成が起こった。これが転生だろう。神経ネットワークの意識情報が地球のどこかの胎児の脳にコピーされて、おれたち二人もどこかで生まれかわったのだ」
「占星術かな? 生まれるときの星座に影響されるという話に似ている」
「調べようが無いから憶測以上のことは言えない。中間界の人々は、おれ達みたいに二重に存在することは無く既に地球に到着して転生している。それぞれ自分に最も似た相手に乗り移った。到着時点はおそらく今から数十年前の地球だ。年齢によって転生する時点がそれなりにずれる」
「過去に来ることは因果関係の破壊。物理学は因果関係が大前提。だからタイムトラベルの物理学的説明は全部間違いよ」
「そのとおり。だが異世界からの到着だ。タイムパラドックスと全く同じではないかも」
「ところで、このアタシと転生者のアタシは二重身になっているの?」
「いや別人だ。転生する前の人に転生後のことは判らない。転生後の人にとって転生前は自分の人生ではなく、その記憶は記憶というより幻影だと感じる。しかし転生によって無意識に前世の心残りに動かされることはあり得る。前世の記憶が断片的に思い出されてもそれは夢と区別がつかないだろう」
おれの話は終わった。
それをぶち壊すようにカルメンは胸を張って自信ありげにニッと笑った。
「どうしても細かい矛盾が納得できないわね。それじゃあアタシの解釈よ。解釈というより見た通りを話すわ! すべてはアンタが望遠鏡を覗いているとき失神したあとの、僅かな時間に見た夢なのよ。夢ならどんな矛盾も抱き込んでくれるが他人は信じない」
「あの壮大な冒険だと思っていたのが夢? なぜ失神したと?」
「あのときアンタはとても眠そうだったわ。しかもあの匂いよ。凄かったわよ。アンタはペンキをどんだけ使ったの? 揮発性物質の中毒で失神したのよ」
カルメンの全否定論は簡単で強力だったが証明できるわけではない。
夢だとすれば月に飛ばされて白い母を見た、という不自然さも納得できる。
しかも登場する美女達がみんなおれに恋するなんてことも納得できる。
でもあまりに長すぎないか。
「ハッ、ハッ、ハッ。全部アンタの夢よっ! ワタシはずっとここにいたんだもん。異界なんて行ってないよ」
そう叫んで彼女は笑いながら庭に出た。
暗くなった空に僅かに明るさが残っていた。
追いかけて庭に出ると何かが光った。
彼女は望遠鏡の下に倒れて気を失っていた。
たった今、分身が異界から帰ってきて彼女の意識が合体したと思った。
運び込んでベッドに寝かせるとすぐ気が付いて言った。
「あらワタシ、さっき聞いたあなたの夢の中に出演しているような夢を見ていたわ」
「やっぱり。それは夢ではない。たった今君は本当に中間界から帰ってきたのだ。君はおれより先に出たのに、何かがあって帰着が遅くなったと考えられる」
「夢ではないと、なにを根拠にそう思うの?」
「最初に言った冒険譚で、わざと言わなかったことがある」
「え?」
「あちらの世界で、おれの寝所に忍び込んだ君がテーブルに乗っていろいろ見せてくれた。そのとき君の尻のてっぺんに立派な吹き出物を見た」
「……ぎょえっ! 思い出したわっ! アンタにお尻を見せていたわね」
カルメンは赤くなって少し黙った。
それは甦ったばかりの異界の生々しい記憶だった。
カルメンは異界に行って大胆になり、おれにぶっとんだショーを見せた。
彼女の尻の吹き出物は大冒険を全否定から救った。
「アンタあのとき、吹き出物しか見ていなかったの? 私の尻に興味なかったの?」
カルメンはベッドから降りてこちらに寄って来た。
「……い、いや」




