『ウンディーネさんと行方不明の奴隷さん』
モンスターさんの大軍とゴルゴーンさんの襲来。
立て続けに予想外の出来事が起きたため、兵士さんたちは疲れ切っていました。
精神的にも、肉体的にも。
恐らく、冒険者さんたちも同じだと思います。
その様子を見ていたティーニヤさんのお兄さんが、捜索の中止を決断。
500人のも大軍は、中層をあとにすることになったのです。
お兄さんは悔しそうな顔をしてましたけどね。
「軍を束ねる者として、これ以上被害を出す訳にはいかぬ」
そんなことを口にしてました。
皆さんのことを思う、立派な領主さんだと思います。
ところが上層に着いて早々に、新たな問題が勃発したのです。
それは……。
「お嬢サマ、大変っす! 姐御がいないっす!!」
ベリアさんが行方不明になってしまいました。
慌てふためく、リアットさん。
その気持ちは、わたしも同じです。
でもわたしは、冷静を装って訊ねます。
「落ち着いてください。まずは深呼吸でもしましょうか」
「あ、はいっす。すーはー、すーはー…………もう大丈夫っす」
「それで……リアットさんは、ベリアさんと一緒に行動してなかったのですか?」
「姐御がアイツと話してた時は、近くにいたっすよ」
アイツ? あー、ハンターギルドのボスさんのことですか。
確かにボスさんとお話ししてた時、ベリアさんの周りには誰もいませんでしたね。
「では、モンスターさんたちが押し寄せてきた時に、はぐれたと言うことですか」
「そんな感じっす。あとで合流できると思っていたんすけど……」
「どこにも、いなかったと言うわけですか」
「そうっす……」
ガックリと肩を落とす、リアットさん。
斥候さんである、リアットさんが見つけられないとは不思議なお話ですね。
単にはぐれただけでは、ないような気がします。
なので、わたしはひとつ仮説を立ててみました。
「もしかすると……ベリアさんは、ひとりでボスさんの行方を追っているのかもしれませんね。さっき、とても怒ってましたから」
傍で見ていたので、わかります。
あの怒り方は尋常じゃありませんでした。
まあ、すぐに見下すような態度をとってましたけどね。
それはさておき。
わたしの言葉に、リアットさんが納得した表情を浮かべます。
「姐御なら、やりかねないっすね」
そこで早速、ボスさんを見つけた下層の入り口付近に向かおうとしたのですが……。
「話は聞かせて貰った。だが……今其方に向かうのは危険では無いか?」
お兄さんに止められてしまいました。
ちなみに口調は元に戻ってます。
わたしが、そうしてくれるようお願いしたので。
急に態度とか変わると調子が狂うんですよね。
そのお兄さんが、さらに言葉を続けます。
「兵達も疲弊していて直ぐには動けぬ」
「そうですね……ですから、わたしたちだけでベリアさんを迎えに行こうと思います。リアットさんも、それで良いですか?」
「問題ないっす。お嬢サマと一緒なら百人力っすよ!」
「確かにそうだが……」
お兄さんは心配してくれているんですね。
その気持ちだけで十分です。
「大丈夫ですよ。パッと行って、パッと戻ってきますから」
そう言ったものの……。
「誰もいませんね」
下層に続く入り口の手前。
ここに来れば何かしらの手掛かりが掴めると思っていました。
でも、なにも見つかりません。
首を傾げていると、リアットさんが大きな声で、わたしを呼んだのです。
「お嬢サマ! 姐御がどこに行ったか、わかるかもしれないっす!!」
さすがはリアットさん。
手掛かりを見つけたようです。
早速リアットさんがいる場所に駆け寄ってみます。
するとそこは、ボスさんが座っていた大きな岩の下でした。
「なにを見つけたんですか?」
「ここを見て欲しいっす」
リアットさんが指をさした場所に視線を向けますが……。
「えーっと、岩しか見えませんよ?」
「あ……そうっすよね。実はここに、ルミナモースの粉が付着してるんっすよ」
「ルミナモース? あっ、足跡ゴケとか言われている、ヒカリゴケのお仲間さんでしたっけ??」
「そうっす。この粉は姐御が撒いたものだと思うっす」
「その根拠は、あるんですか?」
わたしの質問に、リアットさんは小さく頷きます。
「最初にここに来た時は、ルミナモースの粉は撒かれてなかったっす。でも今は……ここから、あっちのほうまで粉が撒かれているっす」
リアットさんの指は、岩の下から、左の方へと向けられました。
わたしには見えずとも、リアットさんにはハッキリと見えている。
これが斥候さんの能力なんですね。
すごいと思いつつ、リアットさんの言葉に今度はわたしが、うんうんと頷きます。
「なるほど。ベリアさんは、わざと痕跡を残したと言うことですか」
「多分、そうだと思うっす。ウチが先導するんで、ついて来て欲しいっす」
そう言って、前を進むリアットさん。
焦っているのか、その足取りは、かなり早いです。
なので、わたしはシュヴァルツさんに乗って、あとを追うことに。
しばらく進むと、岩に囲まれた広場みたいなところに出ました。
深淵の谷の中層には、こんな場所があったんですね。
見たことがない風景に、ちょっとワクワクした気持ちになります。
でも、そんな風に思ったのは束の間のこと。
広場の中心に目を向けた時。
血の気が引く感覚に陥りました。
なぜなら……ベリアさんが、血を流して倒れていたからです。




