『ウンディーネさんとゴルゴーンさん』
一難去ってまた一難。
モンスターさんが帰った後に現れたのは、魔人さんであるゴルゴーンさんでした。
ゴルゴーンさんは、シュッとした顔立ちをしていて、目は切れ長。
スタイルもよく、纏っている黒いドレスが、とても似合っています。
ただ……髪の毛の一部が、蛇さんなんですよね。
うようよ動く姿が、なんとも不気味です。
それさえなければ美人さんなのに……って、そんなことを考えている場合ではありません!
ゴルゴーンさんは、『超』がつくほどの危険な魔人さん。
できることなら、神聖領域で、早々にご退場願いたいところです。
でも、次の発動までに時間が掛かるんですよねぇ……。
試しに心の中で魔法名を唱えてみましたけど……ダメでした。
そこで、誰にでもできる、ゴルゴーンさんの対処法を伝えようと思います。
やり方はとても簡単。
バシリスクさんと同様に……。
「奴の目は絶対に見るな! 見ると石化するぞっ!!」
わたしの代わりに、誰かが説明してくれました。
声から察するに女性。
それも冒険者さんのようです。
あと……かなりの実力者さんだと思われます。
なぜかって?
ゴルゴーンさんを見て、的確に対処法を言ってましたから。
つまり、アスモディアに行ったことがあることを意味してます。
もしかすると、王都から来たプラチナランクの冒険者さんかもしれません。
ゴルゴーンさんにお帰り願えたら、あとでお会いしたいところです。
そんなことを思うわたしの目の前で、何故かフウカさんがソワソワした様子を見せていました。
理由を訊ねたいところですが、今はムリそうです。
ゴルゴーンさんが10メートルほど手前まで迫ってきていましたから。
「ほほう……妾の事を知っている者がおるのか。下等なエルフ共だけかと思うたが、手練れが居たか」
手練れと言いつつも余裕の表情を見せる、ゴルゴーンさん。
そんなゴルゴーンさんに対して、兵士さんのひとりが怒声を上げます。
「誰が下等だ! 貴様など返り討ちにしてくれるわっ!!」
あれ? この兵士さんって……。
わたしの忠告を無視してた兵士さんじゃないですか。
頭に血が上りやすい性格なのでしょうか?
無謀にもゴルゴーンさんに立ち向かっていきました。
その結果……。
「愚かな奴め」
ゴルゴーンさんに睨まれると同時に兵士さんは、その場で石化してしまったのです。
まあ、そうなりますよね。
目が合えば数秒と経たずに石化するのですから。
この出来事に、兵士さんたちは言葉を失います。
「「「「「……………………」」」」」
でもすぐに……。
「神官は何をしている! 早急に石化を解かぬか!!」
お兄さんの的確な指示が飛びました。
治療方法は、石化除去と大回復の合わせ技。
完全回復を使える神官さんは、いないようです。
それでも兵士さんは石化から回復し、どうにか一命をとりとめました。
良かった、良かった。
ホッとしたのも束の間。
今度はお兄さんがゴルゴーンさんに声を掛けたのです。
もちろん視線は逸らしたままで。
「部下が済まぬ事をした。謝罪する」
「構わぬ。訊くが……このエルフ共を束ねているのは、お主で間違いないか?」
「如何にも。私が軍の指揮を執っている」
「そうか……ならば、お主に問いたい。深淵の谷で、デッドリースコーピオンを乱獲しているのは、お主等の所業か?」
ゴルゴーンさんの質問に、ビクッと体が固まる、お兄さん。
そのあと、否定するように首を小さく横に振りました。
「私達ではない。だが……私達は、その者を追っている」
「ほほう……お主は、乱獲している者が誰か知っておるのか」
「詳細な情報は判らぬが、ダークエルフである事だけは判っている」
「ダークエルフとな。つまり、お主等の同胞と言うことか」
この言葉を聞いて、兵士さんたちが、ざわつき始めます。
後ろからは……。
「誇り高きエルフと、卑しいダークエルフを一緒にするなっ!」
「「「「「そうだ、そうだっ!!」」」」」
そんなセリフが、湧き上がっていました。
すごい嫌われようですね。
エルフさんたちにとってダークエルフさんは、憎悪の対象と言った感じがします。
ただ……この行動が、ゴルゴーンさんの怒りを買ってしまったのです。
「煩い。黙れ」
兵士さんたちに向けられる、ゴルゴーンさんの鋭い視線。
それを見た直後、少なくとも100人以上の兵士さんが石化しました。
すぐに数名の神官さんが対応にあたりますが……。
人数が多すぎて処置が追い付きません。
このままだと命を落とす可能性が出てきます。
なので、わたしは石化しているエルフさんたちを視認し……。
「範囲魔法発動! 完全回復!!」
回復することにしたのです。
神聖領域ほどではありませんが、眩い光が辺りを照らします。
でもそれは、一瞬のこと。
兵士さんたちの石化が解けると同時に光は消えてしまいました。
えーっと、まだ石化しているエルフさんは……。
いませんね。
蘇生の出番は、ないようです。
治療が終わると、周囲の視線が、わたしに集中します。
ゴルゴーンさんも、そのひとり。
そのゴルゴーンさんですが……。
「先の退魔の光といい……此度の癒しの魔法……もしや、お主は……否、その様なことはあってはならぬ……」
独り言を呟きながら、首を振っていました。
それも、なんだか怯えて様子で。
「あの~、どうかしましたか?」
そこで初めてゴルゴーンさんと視線が合います。
見つめ合うこと数秒……。
「なっ、何故……石化せぬ?!」
動揺する、ゴルゴーンさん。
まあ、驚きますよね。
本来な石化するんですから。
わたしの場合、心の中で完全回復を唱えることで、石化しても解除することができたりします。
以前、ゴルゴーンさんとお会いした時は、この方法で乗り切りました。
ただ……今回は、完全回復を唱えていないんですよねぇ。
唱える前に、石化が解除されるので……。
恐らく、不老不死の効果が発動したのだと思います。
ゴルゴーンさんの石化は、即死攻撃ではありませんから。
そんなわたしを前に、ゴルゴーンさんは言葉を続けました。
「やはり、お主は……あの時の神官か!」
あの時の?
ゲームではお会いしたことが、ありますけど……。
「初対面ですよね?」
「何をぬかすか! 幼き姿に変わろうと、妾は騙されぬぞ……この化け物がっ!!」
化け物って……酷くないですか?
ゴルゴーンさんだけには言われてくありません。
でもそれ以上に気になる言葉がありました。
『幼き姿に変わろうと』
それって、大人のわたし。
つまり……ゲーム内での、わたしの姿を見たことが、あるってことですよね?
だとすると、ゴルゴーンさんもエンシェントワールドのことを覚えている可能性があります。
そのことを確認しようと思ったのですが……。
ゴルゴーンさんは、踵を返し、この場から離れてしまいました。
それはもう、ものすごい勢いで。
そんなゴルゴーンさんの後ろ姿を眺めていると、お兄さんが近づいてきたのです。
「私達は……助かったのでしょうか?」
「そうみたいですね」
「全て、貴女様のお陰で御座います……心より感謝申し上げます」
「いえいえ、そんなことないですよ」
「謙遜しないで下さい。貴女様はティーニヤの手紙にあった通り、素晴らしき御方だと理解致しました」
あれ? さっきから、お兄さんの言葉遣いがヘンですね。
急に丁寧になったような……。
それに、ティーニヤさんのお手紙の内容。
なんだか、ものすごーく嫌な予感がします。
「あの~、お兄さん? そのお手紙に、わたしはなんと書いてあったんですか??」
「『ディーネ様は女神様ですから失礼の無いように』……と、ありました。私もその通りだと思います」
そして、深々と頭を下げる、お兄さん。
なぜか、兵士さんたちも同じように頭を下げていたのです。
そこで一言……。
「わたしは女神様じゃなくて……人族の神官さんですからーっ!!」
深淵の谷に、わたしの叫び声が響くのでした。




