『ウンディーネさんと精霊術師さんのお手紙』
アンデイルさんが見回りをするようになってから、町の治安は随分と良くなったそうです。
でもそれは日中のお話であって、夜になると騒ぎだす冒険者さんが数名ほどいるのだとか。
まったく困った冒険者さんたちですね。
呆れてものが言えません。
ティーニヤさんは、冒険者さんたちを見つけ次第、町への出入りを禁止させると言ってました。
でもなぜか見つけることが出来ずにいたのです。
おかしなお話だと思いませんか?
そもそも、よその町から来た冒険者さんたちは、宿屋さんに泊まっているのです。
宿屋さんを調べれば、すぐにでも犯人さんが見つかるはず……。
ところが騒ぎが起きる時間帯に、外出している冒険者さんはひとりもいないとのこと。
なら騒ぎを起こしている冒険者さんたちは、元々イールフォリオにいた冒険者さんになるのでは?
そんなお話も、当然でてきました。
ですが、そう言った事実は無かったようです。
なぜなら被害を受けたエルフさんのひとりが……。
『見たこともないエルフだった』
……と証言していたからです。
謎だらけの、不思議な事件。
どうにかして解決したいところです。
でも今日は、犯人さんを捜すお手伝いができないんですよねぇ。
なぜかって?
実はこれから、ラドブルクに行かなければならないからです。
アルファルムンを訪れたのが、今からちょうど14日前のこと。
恐らく今日のお昼過ぎには、ベリアさんたちがラドブルクに着いていると思われます。
そんなワケで、犯人さん捜しはまた後日。
わたしは町の見回りをするアンデイルさんとアスィミさんに別れを告げたあと、神殿に向かいました。
そしてシュヴァルツさんとフウカさんを連れて神殿に入ると、神具の腕輪をつけた左手を天井に向かって高く突き上げたのです。
「門よ開け! 移動目的地ラドブルク!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
神具の腕輪による光の柱が消え、ラドブルクの神殿に到着します。
そこで見えたのは……。
「範囲魔法発動! 完全回復!!」
魔法の練習をする、エリサさんの姿でした。
なんと言うか、相変わらずですね……。
苦笑いを浮かべながら、わたしはエリサさんに声を掛けます。
「エリサさん、こんにちは」
「ふえ? お師匠さまじゃないですかぁ! こんにちはですぅ。丁度良いところに来てくれましたぁ!!」
「ちょうど良いところ? 何かあったんですか??」
「はいですぅ。これを見てくださぁい」
そう言うと、エリサさんは胸元から一通の封筒を取り出しました。
それをわたしに手渡します。
「これはなんですか?」
「エリミアちゃんからの、お手紙ですぅ。今朝、女神さまが持ってきてくれましたぁ」
女神様は郵便屋さんみたいなこともするんですね。
そんなことを思いつつ、封筒の中からお手紙を取り出します。
「これ……読んでも良いんですか?」
「はいですぅ」
「ではお言葉に甘えて」
今回も謝罪文みたいな内容なんですかねぇ。
そう思っていたのですが……。
お手紙の内容は全くの別物。
そこには驚くべきことが書かれていたのです。
「え? エリミア様……NPCのお仕事を辞めたんですか??」
「そうみたいですよぉ。また冒険者に戻るみたいですぅ」
「あー、確かに。そう書いてありますね。でも……『エリミア』ではなく、『エイシア』として冒険者さんの登録をすると書いてありますが、これはどう言うことですか? 冒険者カードの偽造はできないんですよね??」
先日ウンディーネさんと一緒にいた、女性の騎士さんのお話を思い出しながら、エリサさんに訊ねます。
するとエリサさんは、少し困った表情で、言葉を返してきました。
「本当ならダメなんですけどぉ……エリミアちゃんは亡くなっていることになってますからぁ、特例ということで、お名前を変えて貰えたみたいですぅ」
なんですって!
その特例で、わたしもお名前を変えたいですっ!!
『ウンディーネ』から『ディーネ』に。
……なんて、無理ですよね。
死を偽装すると言うことは、イールフォリオの町から離れることを意味します。
そこまでして、お名前を変えようとは思いません。
今のわたしにとって、イールフォリオはとても大切な町なのですから。
でもエリミア様は、そのイールフォリオの町を捨て、今度はお名前も捨てて新たな旅に出るようです。
それも今度は……。
「王都で冒険者さんの活動をするみたいですね」
お手紙の一文にある『カスタリーニ』の文字を見ながら、そう口にします。
「エルフ領だとぉ、エリミアちゃんだってバレちゃいますからぁ」
「あー、なるほど」
有名だと大変ですね。
そんなことを思いながら、お手紙を読み進めていきます。
そして残り数行というところで、内容は前回と同じ謝罪文に変わっていました。
ティーニヤさん、フウカさん、町のエルフさんに対して『ごめんなさい』……と。
お手紙を読み終え、封筒と一緒にお手紙をエリサさんに返します。
「ありがとうございます。ところで……どうしてエリミア様はNPCのお仕事を辞めたんですか? お手紙には、そのことを書いてありませんでしたよね??」
「わたしもぉ、それが気になって女神さまに訊ねてみたんですよぉ。そしたらぁ、契約している高位の精霊さんとお別れしたとかでぇ、気持ちを切り替えるために『冒険者としてやり直す』と言ったそうですぅ」
契約している高位の精霊さん。
それって、アンデイルさんのことでしょうね。
エリサさんのお話に、わたしは納得するように小さく頷きます。
「なるほど、そう言うことですか」
「あとぉ……エリミアちゃんは目標にしている冒険者さんがいるそうですぅ。これも、女神さまが教えてくれましたぁ」
「へえ、そんなかたがいるんですか。きっとものすごい冒険者さんなんでしょうね」
エリミア様はゴールドランクの冒険者さんです。
となると、目標にしている冒険者さんは、それ以上のランクであると思われます。
ところが、わたしの言葉にエリサさんは首を傾げました。
「うーん……すごいのかなぁ? だってぇ、エリミアちゃんが目標にしている冒険者さんってぇ……わたしと同じ神官みたいですよぉ??」
「え? 神官さんなんですか?! なら、その神官さんはとてつもない実力を持っているとか……」
「それは無いと思いますよぉ。冒険者さんをしている神官なんて、聞いたことないですからぁ……って、ひとりだけいましたぁ!!」
「その神官さんって、どんなかたですか?」
「お師匠さまですぅ」
「……わたしっ?!」
確かに神官さんであり、冒険者さんでもありますが……。
「それは、さすがに無いですよね。エリミア様と面識がありませんし」
「ですよねぇ~。きっとぉ、間違えて言ったんだと思いますぅ。エリミアちゃんはドジっ子さんですからぁ」
ドジっ子さん。
前にもそんなことを言ってましたね。
それなら、ものすごい間違いをしたものだと、わたしとエリサさんは苦笑するのでした。




