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辺境のウンディーネさん  作者: みずのひかり
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『ウンディーネさんと新しくなったマイホーム』

 アルマさんがイールフォリオの町に来てから10日(1週間)が経ちました。

 そして今日、お家の修理が終わりを迎えたのです。


 本当なら、もう少し早く終わる予定だったんですけどね。

 修理している途中で気になるところがありまして、ちょっとばかりリフォームしてもらったのです。


 その出来栄えに……。


「おお、素晴らしいではありませんか!」


 完成したお家を眺めながら、わたしは口元を緩めます。

 一方アルマさんは、微妙な面持ちで首を傾げていました。


「マジでこんなんでいーのか?」


「こんなの? いやいや、最高ですよっ!!」


「そーかー? いやまぁ、ディーネの姐さんがいーならかまわねーけどよ……馬小屋を潰してまでフェンリスヴォルフと一緒に寝てぇとか、オイラにはちと理解できねーなー」


 そう……わたしが気になっていたのは馬小屋の存在。


 馬小屋はシュヴァルツさんをハンターさんから守るために必要だったものです。

 ですが、その脅威がなくなった今、わたしとの距離を遮る障害でしかありませんでした。


 神殿で寝泊まりしている時は問題なかったんですよ?

 常に隣にいてくれましたから。


 でもお家で暮らすようになったら、離れ離れになってしまうんです。

 わたしはそれがとても嫌でした。


 そこでアルマさんに頼み込んで、シュヴァルツさんが通れるくらいの大きなドアを作ってもらうことにしたのです。


 なんでもアルマさんの相棒さんである木の精霊さんは、傷んだ木を再生させるだけでなく、自由な形に変形させることも可能なのだとか。

 こうして馬小屋だった場所は、お部屋の一部へと生まれ変わりました。


 十畳ほどのお部屋が、今では倍の二十畳くらいあります。

 大きなシュヴァルツさんが床に寝ても、ゆったり広々としていて、とても快適です。


 天井も高いですからね~……って、あれ?


 頭を抱えるアルマさんに、わたしは視線を上に向けながら訪ねます。


「あの~、アルマさん。天井の一部が少し低くなってませんか? それにハシゴらしきものが見えるのですが……」


「それなー。昼寝用の寝床だ」


 ハシゴを数段上がってみたところ、木製のベッドがありました。

 そのすぐ上には天窓が見えます。


 狭いながらも、かなりお洒落な空間。

 確かにここなら、お昼寝ができそうです。


 でも……。


「なぜ、こんなものを作ったんですか?」


「屋根を直す時に、魔力の使い過ぎで眠くなっちまうコトが多くてよ。下におりてくんのもめんどくせーから、寝床を作ったってワケよ。わりぃ、そのままにしてたわ。すぐに取っ払うから待っててな」


 そう言って、アルマさんは大きな木槌を構えます。

 ハシゴから降りたわたしは、すぐさま首を横に振りました。


「いえいえ、このままでいいですよ!」


 新しくなったマイホームは広くなっただけでなく、なんと屋根裏部屋付き。


 良いではありませんか!

 ワクワクが止まりませんよ!!


 こんなわたしとは対照的に、アルマさんは冷静に最終チェックを行います。


「んじゃ、コレで依頼は完了だな」


「はい。ありがとうございました」


 アルマさんに向かって、わたしは深く頭を下げたのです。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 場所は変わって、イールフォリオの町の中。

 アルマさんをポルトヴィーンにお送りするため、わたしたちは神殿へと向かいます。

 その途中でペドラさんに出会いました。


 今日は1週間に1度、ラドブルクからお仕事に来る日でしたっけ。


 ペドラさんもわたしに気づきます。

 それと同時に目を丸くしました。


「よう! ディーネの嬢ちゃんじゃないか……って、隣にいるのはアルマの棟梁か?! 随分と早くこっちに来れたな」


「まーなー。ディーネの姐さんにかかりゃ、あっという間よ!」


 あれ? このやりとりって、シリフィさんの時にも見たような……。

 これは神具の腕輪のことをお話しないとダメなパターンですかね?


 そう思っていたのですが、ペドラさんはシュヴァルツさんをちらりと見たあと、妙に納得した様子で両腕を組んだのです。


「……ほう、フェンリスヴォルフは、そんなに足が速いのか……」


 ボソッと何か口にしたようですが、うまく聞き取れません。

 とりあえず質問されることはなさそうなので、このまま黙っておくことにします。


 それよりも、ここでペドラさんにお会いできたのはラッキーでした。


「ペドラさん。以前、お馬さんを治療した時の報酬って……今でも有効ですか?」


「欲しいものがあったら、カスタリーニからでも取り寄せるって言ってたアレか。もちろん有効だ。何か欲しいものでも見つかったのか?」


「はい。オークさんが育てている木の実が欲しいんです」


「オークの木の実か、そんなのお安い御用だ。だが、一体何に使うんだ? 嬢ちゃんに必要なものだとは思えないが……」


「わたしじゃなくて、アルマさんに届けて欲しいんです」


 このやりとりを聞いていたアルマさんが、慌ててわたしとペドラさんの間に入ってきたのです。


「オイオイ、なんの話をしてやがる! オークの木の実なら、今までどおりオイラが買いにいくぞ?」


「それでまたセイレーンさんがお家に忍び込んできたら、どうするんですか?」


「……うっ、そりゃ困るな」


「ですよね。だったら毎月届けてもらえば良いんですよ。ペドラさん、お願いできますか?」


 わたしはアルマさんからペドラさんに視線を移します。


「月に1度、アルマの棟梁のところにオークの木の実を届ければ良いんだな? 問題ないが、嬢ちゃんはそれでいいのか??」


「はい。今わたしが欲しいのは、それしかないので」


「相変わらず人が良いんだな。わかった、任せておけ」


「ありがとうございます」


 今度はペドラさんに向かって、深く頭を下げました。

 そして頭を上げると、アルマさんが顔を赤くしていたのです。


「なんつーか……気ぃつかってもらって、わりぃな」


「いえいえ、これくらいのことはさせてください」


 結局宿泊費はおろか、リフォームの代金も受け取ってくれないのですから。


 そんなことを思っているわたしの前で、ペドラさんがアルマさんに声を掛けます。


「ところで……棟梁はいつまでこっちにいるんだ? 嬢ちゃんの家を直しに来たんだから、しばらく滞在する予定なんだろ??」


「いんや。家の修理ならさっき終わっちまったからよ。これから帰るところだ。んじゃあ、オークの木の実のコトはヨロシクな!」


「…………」


 笑顔で手を振るアルマさん。

 そのアルマさんを見つめながら、ペドラさんは言葉を失っていました。


 結局、あとで説明しないとダメかもしれませんね。


 わたしは苦笑いを浮かべながら、アルマさんを追いかけるのでした。

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