『ウンディーネさんと町の守護神の死の真相』
お家を修理している間、アルマさんはイールフォリオの宿屋さんに泊まることになりました。
宿泊費はもちろん、わたしが出しますよ?
そう思っていたのですが……。
「宿代? んなモンいらねーよ」
……と、さらっと拒否されてしまいました。
「いやいや、さすがにそういうわけにはいきませんよ。お家の修理代だってお支払いしてないんですから」
「んなこと言われてもなー。ディーネの姐さんには相棒を助けてくれた恩があるしよー。それに、あの家の残金も貰っちまってるからなー」
「それとこれとは別ですよ」
「そーかもしんねーけど。なんつーか、わりぃ気がしてなー……」
アルマさんは困った表情を浮かべ、顔をそむけます。
夜が近づく夕暮れの空。
宿屋さんを前にして、しばらく沈黙が続きました。
ところがこのあと、意外な人の言葉で会話が動き出したのです。
「こんばんは、ディーネ様」
それはギルドの受付さんをしている、シリフィさんでした。
「シリフィさん、こんばんはです。お仕事の帰りですか?」
「はい。ところで隣にいらっしゃるのはドワーフの棟梁さんですよね? どうもご無沙汰しております」
「受付のチビッ子じゃねーか。ひっさしぶりだなー。元気にしてたか?」
「チビッ子って……棟梁さんとあまり変わらないじゃないですか」
「ははっ、ちげーねー」
「それはそうと、棟梁さんはイールフォリオに来ていたのですね。凄い偶然です。ディーネ様、お呼びする手間が省けて良かったですね」
アルマさんから、わたしに視線を移したシリフィさんはニッコリ笑います。
そのシリフィさんに対して、アルマさんは怪訝な顔をしました。
「おいおい、偶然なんかじゃねーぞ? オイラはディーネの姐さんに家の修理を頼まれたから、イールフォリオに来たんだ。じゃなきゃ、こんな遠くまで来ねーよ」
「……え? で、ではどうやって来られたのですか??」
「んなモン、ディーネの姐さんにかかりゃ、あっという間よ!」
得意げに語るアルマさん。
その一方でシリフィさんは、おどおどしながら、わたしを見つめます。
「あ、あのー……ディーネ様。『あっという間』とは、どういう意味なのでしょうか?」
「えーっと実は……」
特に隠すことでもないので、わたしは神具の腕輪のことをシリフィさんにお話しすることにしました。
しかしアレですね。
なんだかんだでシリフィさんには、わたしのことを知られている気がします。
不老不死のことも家族以外はシリフィさんにしか教えていませんし……。
それはさておき。
お話を聞き終えたあと、シリフィさんは祈るように両手を組んだのです。
「神様からの寵愛を受けるとは、さすがディーネ様です。エリミア様亡き今、ディーネ様がこの町にいてくださることに心から感謝します」
寵愛? そんな大げさなものじゃないと思うんですけどね。
ちょっと気に入られているだけのことです。
そんなことよりも、わたしはシリフィさんに聞きたいことがありました。
「感謝ですか。そう言われると照れちゃいますね。そうそう! アルマさんから教えてもらったのですが、エリミア様ってイールフォリオのギルドマスターさんをやっていたそうですね」
「はい……とは言ってもギルドマスターのお仕事は片手間にしていただけですけどね」
「片手間と言うことは、本業のお仕事があったんですか?」
「本業は、この町を治めているティーニヤ様の護衛です。でも実際は、お話し相手になることのほうが多かったみたいですけどね。お互いにハイエルフ同士だったので気が合ったみたいですよ。なので当時から副ギルドマスターを務めていたドーラさんがギルドを仕切ってました」
そう言ってシリフィさんは苦笑します。
「昔からドーラさんは大変だったんですね」
「そうですね。でも……本当に大変だったのはエリミア様がお亡くなりになったあとでした。水不足やフレイムドラゴンの件など、私たちではどうしようもできませんでしたから……」
当時のことを思い出したのか、シリフィさんは一瞬暗い顔を見せました。
ですが、すぐに笑顔に戻ったのです。
「……でもそんな問題も全てディーネ様が解決してくださったので、今のドーラさんはかなり楽をしていると思います」
「それなら良いんですけどね。ところで……エリミア様って、何が原因でお亡くなりになったのですか?」
わたしのこの一言に、アルマさんが反応を示します。
「そいつぁオイラも気になってた。エリミアの姐さんほどの腕がありゃあ、ここいらのモンスターに、やられたりしねーだろ? まさか病気ってことはねーよな??」
「エリミア様の死因ですか……」
そこまで話して、シリフィさんは口を噤みました。
イールフォリオの町を守っていたエリミア様。
『水の守護神』と呼ばれていたのですから、そう簡単に倒されるとは考えられません。
アルマさんが言うように、この付近で強いモンスターさんはいませんし……。
そんなことを考えている最中、シリフィさんはゆっくりと口を開いたのです。
「……実は私たちも良くわからないのですよ」
「わからねーって、どーいうコトだよ?」
「本来死者が出た場合、病気なら家族が。モンスターによるものなら、パーティを組んでいる冒険者が報告したりしますよね? そしてそのあと、神殿に運ばれます」
「フツーは、そーだわな」
「ところがエリミア様の場合、誰もその報告をしていないのです。気づいた時には神殿に寝かされていたと、神官様は仰っていました。そしてそのまま復活の儀式が行われたので、詳しい死因がわかっていないのです」
なるほど、それなら死因は特定できませんね。
しかし一体誰がエリミア様を神殿まで運んだのでしょうか?
そこが気になるところです。
それともうひとつ……。
「ちなみに神官さんって、ここを辞められた神官さんですか?」
「いえ、その時はアルファルムンの神殿にご用事があったらしく、見つけたのはラドブルクの神官様でした」
「ラドブルクの神官さん? それって……エリサさんですか??」
「はい。前の日に麻痺の治療しにイールフォリオに来られまして、そのまま神殿にお泊りになったのです。そしたら、あんなことになってしまって……エリサ様はエリミア様のお姉様なんですよね。さぞ驚かれたことと思います」
「でしょうね。でも、お姉さんであるエリサさんがエリミア様を見つけたのなら、死因になるものとか、わかったんじゃないですか?」
「どうなんでしょう……姉妹と言っても離れて暮らしてますからね。滅多に会わないとエリサ様からも聞いています。むしろ動揺や悲しみなどで、正常な判断ができなかったのかもしれませんよ?」
「あの姉ちゃんなら、それも十分ありえるなー。弟子の奴らが取り立てに行った時も、えらくビビッてたしよ。パニックになって、それどころじゃなかったんじゃねーかー?」
確かにエリサさんは少し臆病なところがあります。
身内が亡くなったことで冷静な判断ができなかったというのも、わからなくもないです。
でもなにか引っかかるんですよねぇ。
それが何なのかわかりませんが……。
考え込んでいる隙に、アルマさんは宿屋さんに姿を消そうとしてました。
「あ! 宿代を受け取ってください!!」
「だーかーらー、いらねーっつーの。また明日なー」
くっ、逃げられてしまいましたか。
残念でなりません。
こんなやり取りをしたからでしょうか。
エミリア様の死の真相について、これ以上考えることはしませんでした。
後日、エリサさんと出会うまでは……。




