寝室
その日の18時をまわると、各新聞社がネットに右原さとみ結婚の記事を公開した。今ごろTwitterは阿鼻叫喚だろう、片繁がTwitterをやっていないのが残念だ。まぁ、俺もこんなことになっていなければ阿鼻叫喚する側なんだけど。
夜、ベッドに2人で座って話す。
さとみ「もう後戻りできないね」
俺「そんな、さとみと結婚できたのに後戻りなんて」
結局今日一日さとみって呼んでいる。隙を見て本名を調べたら彼女の本名は「國子」という名前だったが、こう、個人的に偽の夫としてそこに越えがたいラインがある。さとみも受け入れてくれたようだ……あまり良いことではないかもしれないけれど。
さとみ「朝マリッジブルーだったくせに」
パジャマを着たさとみが俺の隣でいたずらな笑みを浮かべる。あー可愛い。
さて、今がどういう状況かというと、怖くてベッドに入れないのである。ベッドはシングル2つじゃなくてダブル。陰キャオタクがこれに右原さとみと一緒に入れと。てかこれよくよく考えたら俺キスとかそのあれみたいなことしなきゃいけない日が来るんじゃないか? それは流石に偽物がしたらダメだろ!
俺「あ、あの、なんかいきなりでめちゃめちゃ気持ち悪くてあれなんだけど、ちょっとしばらくキスとかそういうあれ的なのはちょっと……」
殺してくれ。いやこの身体が片繁のものじゃなかったら自殺してる。セクハラなんてレベルじゃない。魂だけ消滅させる方法を俺に教えてくれ。
さとみ「ある日突然別人みたいにってあなたが言ってたの、そういうのがダメになったってこと?」
俺「あ、いや、そういうわけじゃ……それも……あるかも……」
俺は右原さとみと何を話しているんだろう。素直に悲しくなってきた。
さとみ「取り敢えず今日はもう寝よう?」
俺「そ、そうだね……」
ベッドに入るんだ。見えない壁を感じろ。これはダブルベッドではない、シングルである。暗示をかけてガチガチの身体をベッドの中に入れる。
隣に、いる。
さとみ「でも残念だな、キスは毎朝してたのに」
俺「え?」
さとみ「先に起きた方がキスして起こすって約束。ちゃんと毎日やってたじゃない」
なんだそれは今すぐこの男の心臓をぶち抜いてやる。右原さとみと毎朝そんなことをしていたのか? キスで目を覚ますなんて眠れる森の美女なのか? 確かに美女だわ。さとみには申し訳ないがしばらくそれはしてあげられない……
さとみ「あ、でも私からする分にはいいのか。私があなたより先に起きた日は」
もう、寝坊は出来ない。




