告白
俺「ずっとここに……?」
さとみ「うん」
俺「てっきり、事務所とかに行ったのかと」
さとみ「遅い」
俺「え、あ……」
ぐうの音も出ない。奥さんが怒って部屋を出て行ったのにすぐに追いかけない夫なんて。夫じゃないけど。いや。夫を演じるんだ、右原さとみの幸せな結婚生活のために。
俺「さとみ」
鳥肌が出そうだ、自分が天下の右原さとみ様を呼び捨てにしているなんて
さとみ「本名で呼んですらくれないんだね。結局人気な女優と結婚したとしか思ってないの?」
あぁ終わった地雷を踏んだ。右原さとみって芸名だったのか。Wikipediaでも見たら本名が書いてあるんだろうか。でも今スマホを開いてそれを確認するような真似は出来ない。
俺「さとみ、聞いてくれ」
さとみが今にも泣きそうな目をしている。最低だ。最低の夫だ。自分の妻の名前すら呼べないなんて。それでも、何としてでも幸せな生活を取り戻さなきゃ。
俺「俺の顔は好きですか?」
さとみ「え……?」
俺「声は? 俺の声は好きですか?」
さとみ「いきなりどうしたの……?」
俺「俺は、さとみの顔が大好きだ。世界で一番好きだ。声も世界で一番好きだ。だからさとみがある日突然別人みたいな性格になっても、女優をやめても、たとえ不倫しても、俺はさとみの顔と声が大好きだから、その度に愛してみせる」
そうだ、右原さとみが片繁 一とかいう男と結婚したとしても俺は死ぬまで右原さとみのファンだ。何も嘘はついちゃいない。
俺「さとみは、どうですか。俺がある日突然別人みたいな性格になっても、会社が潰れても、不倫は……しないと誓うけど、それでも、その度に俺を愛してくれますか」
さとみ「いきなり何を言い出すかと思ったら、何? あなたがマリッジブルーになったの?」
さとみが笑う。普通にめっちゃ可愛い。
さとみ「私も、あなたの顔と声が好きだよ」
なんとか、なったんだろうか。分からないけど、彼女が笑っているからそれでいいや。
さとみが俺に抱きつく。頭が一瞬真っ白になる。
さとみ「あなたが大好きだから、安心して」
あぁあぁなんだこれは。右原さとみとハグしている。写真集のイベントとかって一冊買ったら握手で三冊で2ショットとかだよな。ハグは百冊くらいだろうか。
震える手で俺もさとみの背中に手を置く。犯罪だ。
俺「……ありがとう」
いつこの身体に片繁の魂が戻ってくるのか、それとも戻ってこないのかは分からない。だけど片繁が戻ってくるまでは、この破裂しそうなほどの幸せに少しだけあやかろう。もう死んでるんだしそれくらいは閻魔様も許してくれるだろう。いや、閻魔様がさとみファンだったら地獄行きかもな。




