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覚悟

右原さとみが部屋を出てから必死に今の自分の状況を調べた。今は10月1日の午前10時。ネットで確認したところ、どうやら俺は昨日の夜にトラックに轢かれ、つい先ほど死亡が確認されたようだ。そして、この男に乗り移った……。


この男は片繁(カタシゲ) 一(ハジメ)。IT企業の社長で、年収は8000万を超える人生の勝ち組だ。死んでしまえ。ここはどうやらこの男が住む都内高級マンションのリビングらしい。


そして最も重要な事実。この男、片繁が右原さとみと結婚するというのは事実だ。どうやら仲のいい知り合いには事前に伝えていたようで、LINEにもFacebookにも(Facebookなんて使ってる時点で俺とは住んでる世界が違う)お祝いのコメントが来ている。


俺「指紋認証万歳だな……っていや何も万歳じゃねえよ、右原さとみ……マジか……本当に結婚するのか……」


右原さとみが出て行ったリビングの扉を見る。今どこにいるのだろう。事務所に連絡すると言っていたから、事務所とかマネージャーの所とかに向かっているのだろうか。


2020年10月1日

右原さとみ


彼女が書いていた報告の紙には最後にそう記してある。この2人は今日発表するつもりだったんだ。俺のせいでそれが延期されようとしている。俺のせいで、右原さとみの幸せが……


俺「追いかけなきゃ」


扉に向かう。彼女がどこにいるのか全く見当がつかないが、見つけ出して仲直りしなきゃいけない。


いつこの身体に片繁の魂が戻ってくるのか、それとも戻ってこないのかは分からないし、片繁が戻ってくるまでのあいだ俺が片繁として上手くやっていけるかも分からない。20歳のガキが33歳のIT社長の代わりが務まるわけがない。経済学部ならまだしも工学部だぞ。それに、考えただけで腹が立つがこの男が今まで右原さとみと築き上げてきた思い出を俺は何も知らない。


それでも、1人の右原さとみオタクとして、右原さとみに少しでも悲しい思いをしてほしくない。


演じるんだ。どこの馬の骨かも分からない男と右原さとみの恋仲を保つのは本当に癪だが、片繁が戻ってきた日にこの2人が……いや右原さとみが幸せに暮らしていけるように俺が右原さとみの夫を演じるんだ。


扉を開く。覚悟を決めて玄関へ……


俺「えっ」


さとみ「……」


玄関には、右原さとみがうずくまっていた。

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