願い
それから1週間はほぼそんな調子で過ごした。マリカは毎回俺の勝利。……と言いつつも、段々勝てるか怪しい試合は増えてきている。あまりにもさとみさんが勝てないから三日目あたりから夕飯係を賭けるのはやめた。七日目の今日もマリカは俺が勝った訳だが。
さとみ「え、ちょっとあんまり酸っぱくしないでよ」
俺「いや俺がワカメ食べたんだからダメでしょ」
さとみ「ソウは20歳なんだから嫌いなものだって食べなきゃダメだけど私はいいでしょ!」
俺「いや20越えたら一緒だろ! あんまり年の差を持ち出すとオバサンって言うからな!」
さとみ「言ってみなさいよ」
俺「お、お、おば」
さとみ「え、なんてー?」
俺「ば、ばば……ダメだ……天下の右原さとみに俺はオバサンなんて言えない……」
さとみ「はい、お酢は没収―」
さとみさんが俺の手から酢を取り上げる。ダメだ、俺はさとみさんに逆らえない…………でも、本当にお姉ちゃんみたいだ。
夜。ベッドに入って2人で話している。3週間も経つと、自分が右原さとみと一緒に寝ていることに本当に慣れてしまった。
さとみ「もう私慣れてきちゃった。1週間前は流石にちょっと緊張してたんだけどね」
俺「やっぱり……ごめん」
さとみ「今更だよ。言い出したの私だし」
彼女の優しさに、慣れてしまった自分もいる。
さとみ「私ね、3週間もあの人が戻ってこないと……もう戻ってこないんじゃないかって思ってしまう」
俺「ダメだよそんなこと考えちゃ」
さとみ「でもあなたの魂が今ここにあって、もうあなたの身体は無いのに、どこにあの人の魂があるの?」
俺「それは……分からないけど……。さとみさんは片繁さんの魂が消えたって思ってるの……?」
さとみ「…………」
彼女は答えない。口には出せないだけで、きっと、思っているのだろう。俺はどう思っているのだろう。俺はいつか消えるのだろうか。それともここに居続けるのだろうか。
さとみ「目の前にいるあなたを、愛している人だと思っちゃいけないのかな……?」
なんて答えればいいのか分からない。
さとみ「私は……あなたの顔と声が好きだよ」
俺「そ、それは……」
さとみ「あなたは……ソウはどうですか?」
俺「俺……20だよ」
さとみ「33はダメ?」
俺「いや……俺は……」
たったの1週間……いや3週間で、人の心はここまで変わるものなのだろうか。彼女は俺のことを愛そうとしてくれている。
俺「もしこのまま片繁さんが戻ってこなかったら……」
さとみ「戻ってこなかったら?」
彼女と見つめ合う。
俺「俺は……ここに……いても……」
ここにいても、いいのだろうか。
さとみ「キスしてみる?」
俺「…………え?」
さとみ「あなたがあんまり誠実だから今まで言わなかったけど、私、女優の仕事でキスくらいしたことあるんだから。ソウとだったら何も問題ないよ」
俺「で、でも……」
さとみ「今すぐに、とは言わないけどね」
俺「そ、そう……だね……」
彼女は、俺がずっとここにいても許してくれる。後は俺が決めるだけなのか?
明日、目が覚めるまで。片繁が戻ってくるならそれまでに戻ってきてくれ。そうでなければ、もうこの身体を俺に譲ってくれ。明日の朝起きても俺がここにいるなら……俺にこの幸せを譲ってくれ。そう、願ってしまった。




