新生活
さとみ「うーん、なんだかやってることが変わらなくなってきたなぁ」
結婚式の後の予定が全部潰れて家でどうぶつの森をやっているさとみさん。俺は正直こういうゲームをやらないから分からないが、やることがルーティーンになってきて飽きてきていたらしい。
俺「その……分かってると思うけどゲームも俺の趣味であって片繁さんはたぶん一切……」
さとみ「まぁ、だよね。あの日いきなりゲームなんか買ってきてちょっと変だったもん」
俺「ごめん。だから、別にやめたければ……」
さとみ「マリオカートやろっか」
俺「え? でも対戦系は……」
さとみ「頑張ってソウに勝つ。あなたが20歳って聞いたらなんだか勝てる気がしてきた」
俺「いや20歳だから負けてたんでしょ」
さとみ「30代なめないでよね」
どや顔で俺を指差し、ジョイコンを片方渡してくる。上等だ。完膚なきまでに叩きのめしてやる。
さとみ「うーん……全然ダメだった……」
俺「そんな1日で負けるほどヤワじゃないよ」
最後の試合で負けた方が夕食を作ると賭けていたので、さとみさんがキッチンに立っている。
俺「あ、ワカメ入れるの……?」
さとみ「え?」
味噌汁を作ろうとしていたさとみさんの手が止まる。
さとみ「あ、そっか! ワカメ嫌いって先週言ってたのもハジメさんじゃなくてソウの好き嫌いね! ダメ!」
俺「いや!? たぶん! ワカメは片繁さんも嫌いだと思うよ!?」
さとみ「嘘言わない!」
俺「てか先週抜いてくれたじゃん!」
さとみ「ソウはダメ! 好き嫌いせず食べなさい!」
俺「ええええ!?」
めちゃめちゃワカメ入ってた。
さとみ「あ……ベッド」
夜、大きな問題に気付く。ベッドは今まで通り1つしか無いのだ。買ってないんだから当たり前だ。
俺「あぁ、そっか……じゃあ俺向こうのソファで寝るよ」
さとみ「それは悪いよ」
俺「大丈夫、おやすみ」
さとみ「でも……」
寝室を出て行こうとする。
さとみ「一緒に寝よう」
俺「……は?」
さとみ「大丈夫、この2週間私と一緒に寝てたでしょ?」
俺「でもさとみさんは片繁だって……」
さとみ「私は、大丈夫」
俺「強がってない……?」
さとみ「全然」
本当に強がっていないように見えるけど……彼女は大女優だから嘘かもしれない。でも、少なくとも俺のことを気遣ってくれているのは本心からのように思える。
俺「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えるよ……? 少しでも嫌になったらいつでも布団から突き落としていいから」
さとみさんが笑う。
さとみ「分かった。そうする」
俺「流石に朝のキスまでするなんて言わないよね……?」
さとみ「嫌?」
俺「いや、そんな嫌とかそういう意味で言ったんじゃ」
さとみ「冗談だよ、安心して」
さとみさんが笑いながらベッドに入る。俺も……反対側の端の方に入る。
帰ってきてからゲームしたりご飯を作ったりだったから、落ち着いて話をするのは今日初めてかもしれない。
さとみ「……ソウはさ」
俺「うん」
さとみ「その、ご家族とか……会いに行かなくていいの?」
俺「会いに行っても……。この顔を俺の知り合いは誰も知らないし、いきなり親に『俺はあなたの息子です』なんて言ったら冷やかしだと思われて何されるか分かんないよ」
さとみ「そっか」
俺「やっぱり俺のこと気にしてくれてるんだね」
さとみ「それは……そうだよ」
俺「ありがとう……でも、それが理由で俺のことを大切に扱ってくれてるんだとしたら、本当に気にしなくていいから……」
さとみ「ううん。もちろんそれもあるけど……」
俺「片繁さんと一緒にいたい?」
さとみ「それも、ある。だけど今日あなたと過ごして思ったの。私は、ソウと過ごした2週間のことも大切にしたい。これからのことも」
俺「さとみさん……」
さとみ「ソウも優しくて素敵な人だから。私はこの2週間を、夫の偽物に騙された無駄な2週間だなんて思いたくないよ。夫の代わりじゃなくて、ソウをソウとして大切にしたい」
俺「そう言ってもらえるのはすごく嬉しいけど……俺はいつ消えるか分からないんだし……」
さとみ「…………そうだね」
彼女が俺の頭を撫でる。
さとみ「ソウと、ハジメさんを介さずに出会えていたら良かったのにね」
俺「…………」
さとみ「今日はもう寝ようか。おやすみ」
俺「……おやすみ」




