第七話『褒美と誓い』
モニカは、ノルベルトと共に廊下を歩いていた。
堂々と歩くノルベルトの後ろを、小さくなりながらついて行くモニカ。さっきのノルベルトの言葉を聞いてから、ずっと夢でも見ているような気分だった。
『褒美は俺の部屋で渡す』
ノルベルトが、どうやってレナーテをなだめたのかすら覚えていない。レナーテは当然声を張り上げてノルベルトに詰め寄ったし、モニカはそれを見ている。
しかし、入ってくるのはノルベルトの顔と声ばかりで、何も理解できないままノルベルトの後ろをふらふらと付いてきてしまった。
自分はもしかしたら、今寝ているんじゃないだろうか? レナーテの攻撃をもろに食らい、気絶して夢でも見ているのでは?
その自分の推理を何度も信じて自分の頬をつねりそうになる。それくらい、ありえない状況だった。
「確か……モニカといったな?」
「! ひゃ、ひゃい!」
突然名前を呼ばれて、慌てて返事をしたら声が裏返ってしまった。そんなモニカの声を聞いて、ノルベルトはカラカラと笑う。
しかしモニカはまるで恥ずかしいと思わなかった。声が裏返っても仕方が無い場面じゃないか。むしろここは、声が裏返らなくてはいけない様な状況を作りだした、ノルベルトが恥じるべきだ。
「そう緊張するな。この時間帯この廊下を歩くものはいない」
そうはいっても王族と二人きりとあっては緊張しないわけには行かない。ぎしぎしと音が出そうな硬い動きでノルベルトの後ろを追う。
「さてモニカ。俺の部屋に行くまでに少し話をしようか」
「は、はい。失礼でなければ……」
王族と普通に会話をするなんて、そうそうないことだ。正式に親衛隊になったとしても、話す機会が多くなるとは限らない。気を付けて受け答えをしなければ……。
「お前が親衛隊に志願した理由は何だ?」
聞かれて当然の質問。答えるのに詰まる必要のない質問だ。モニカはできるだけ平静を保ってこれに答える。
「それはもちろん。ノルベルト様に忠誠を誓っているからです。命に変えてもノルベルト様をお守りします」
嘘をいったつもりはない。親衛隊に志願するときに、命をかける仕事だと理解し、覚悟をしたつもりだ。しかし、ノルベルトはまたしても笑った。
「ははは、俺に忠誠を誓っているか」
「何かおかしいでしょうか……?」
どうして笑われたのか理解できず、モニカはついつい聞き返してしまう。ノルベルトは首だけ振り返りながら言った。
「それは嘘だな」
「……」
モニカは口をつぐむ。驚いたというのもあるが、同時に恐怖したのだ。ノルベルトの機嫌を害したのではないのかと一瞬不安になった。
だが、ノルベルトの表情は変わらず穏やかだった。
「知っていると思うが、俺は今まで公式に国民の前に姿を見せたことはあまりない。俺が何か事業を計画し、国民のためにしてやったことも特にない。噂では、実は第二王子はとっくの昔に死亡していて、存在しないのではないかとすら言われ、国民の間では幽霊王子扱いだ。そんな俺にどうして忠誠を誓える? 国を愛しているから王族に仕えたいと思ったというならともかく、俺に忠誠を誓っているというのは無理があるな」
「そんなことは……」
そこから先の言葉は出てこなかった。ノルベルトと目を合わせた状態で嘘を貫き通せるほど、モニカは嘘をつくのはうまくない。
「形式ばった硬い答えなど言うな。俺の親衛隊試験を受けに来るものは、わけありのものが多いだろう。男の親衛隊でも俺に憧れて入ってきたものなどおらん」
「……」
それを聞いてモニカは気持ちを軽くする。それなら別に話してしまってもかまわないと思った。
「申し訳ありませんノルベルト様。私は嘘をついてしまいました。本当はお金が必要なんです……」
「ほう、理由を聞いてもよいか?」
ノルベルトの表情に変化はない。モニカは恐る恐る話した。
「私の父は幼い頃に亡くなって、母と二人暮らしをしていました。母は私を育てるために一生懸命働き、少ない稼ぎで私を食べさせてくれました。しかし、そんな生活がたたったのか、重い病気にかかってしまい、とても働くことができない状況になってしまったのです」
モニカの母の病気は、治療すれば治るというものではなく、薬の力でなんとか発症を抑えられることができるという難病だ。しかもその薬は当然高く、モニカが田舎で働いて稼ぐのは容易ではない。
「私の歳では仕事も限られますし、仕事に付けたとしても生活費を稼ぐのがやっとです。そんな時、親衛隊の募集の話を聞いて……」
モニカは十五歳だ。働けないということはないが、大きな収入を得る仕事につくことはできない。しかも、モニカは田舎村の出身だ。村で働こうと思ったら、さらに仕事は限られる。都会に出てくればそれなりの仕事にはつけるかもしれないが、どの道母親の傍にいることはできない。
「なるほど。親衛隊となれば、給料は確かにいい。親衛隊の衣食住は国が出すから少なくともお前の分の生活費は浮く。そうすれば大人一人の生活費と薬の金はなんとかなるだろう。親衛隊候補者でも、正式な親衛隊ほどではなくても十分な給料は出る」
「……その通りです」
今度こそ嘘は無い。母親の傍にいれないのは心配だが、他にこんな良い条件の仕事は無い。志願理由としてはまともなはずだ。
しかしノルベルトは、モニカが思ってもみなかった言葉を返してきた。
「つまり、お前は金さえ手に入れば俺に仕える理由は無くなるということだな」
「!? そうではありません! そんなことは……ッ!」
ないと言えるだろうか? さっき話した理由のどこにそれを否定する要素があった? それに、実際その通りではないか。お金さえあれば、モニカは親衛隊に志願する理由なんてなかった。お金に困らないならば、今頃母親の傍で働きながら看病をしている。
「……」
モニカは今度こそ恐怖して黙りこんだ。さっきのはきっと失言だったんだ。せっかく正式な親衛隊に近づくチャンスだったというのに、自分でそれを潰してしまった。今すぐ廊下に身体を投げ出し、ノルベルトの足にすがりつきたい気分だ。いや、本当にそうするべきなんじゃないだろうか?
「着いたぞ、ここが俺の部屋だ」
迷っているうちにノルベルトの部屋に来てしまった。
「あの……」
「さあ入れ」
ノルベルトはモニカに弁明させる暇もなく自分の部屋に入って行った。モニカは気分を沈めたままそれに続いた。
* * *
「……うわぁ~」
部屋に入って顔をあげた瞬間。モニカはつい声を出して部屋の中を見回してしまった。
部屋の中は自分達の部屋より遥かに広く、豪華に彩られて美しかった。たくさん物があるというのに、そのすべてが綺麗に整理されていて散らかっている様子がまるでない。自分が普段住んでいるほこりっぽい部屋とは大違いだ。
「すきに座っていいぞ」
「い、いえ、遠慮します!」
さっき失敗してしまったのだから、態度でだけは失礼なことをする訳にはいかない。
あ、さっき思わず声をあげてしまった。……ダメダメじゃないか。
ノルベルトは、「そうか」と返事をしながら棚を開けた。腰に手を当て、何かを探しているようだった。
もしかしたらまだ何を渡すのか決めていなかったのかもしれない。どんな物を渡されたとしても、しっかりと礼を言わなければ……。
「確か親衛隊は今のところ七人だったな?」
「はい、そうです」
モニカが返事をすると、ノルベルトはあるものに手を伸ばしてそれを取った。そしてゆっくりとモニカの前に来てそれを差し出す。厚さはあまりないが、箱のようだ。
「一五個入りのまんじゅうだ。今日は突然押し掛けて驚かせてしまったからな、それの詫びだと思って受け取れ。一人二つずつ配り、余分の一つはお前が食べればいい」
お菓子か。妥当なところかもしれない。ノルベルトは合格者が出るとは思っていなかっただろうから、特別な物がもらえるとはモニカもあまり考えていなかった。
今日は、自分の名前と顔を覚えてもらえただけでよしとしよう。……最悪な覚えられ方をした気もするが。
「ありがとうございます。ノルベルト様」
モニカは深々と頭を下げてそれを受け取る。きっとこの後は、部屋に戻れと言われるのだろうと思った。しかし、そうはならなかった。
「それを皆に配れば、カモフラージュには十分だろう」
「……は?」
予想外の言葉にモニカが顔をあげると、ノルベルトはニヤニヤと笑っていた。そして再び棚のところへ歩いていき、今度は迷うことなく何かを手にとって戻ってきた。
「モニカ、手を出せ」
「? ……はい」
モニカは恐る恐るあいている方の手を差し出した。すると、その手に小さく重たいものがのせられた。
「それが、本当の褒美だ」
「こ……れは? え、えぇえええええ!?」
もはや無礼も何も関係なく声をあげてしまった。モニカの手にのせられたのは、無数に宝石がちりばめられた青い髪飾りだった。
「の、ノルベルト様、これは!?」
「幾重にも青い宝石を組み上げて作られた髪飾りだ。今日のお前の活躍に対して俺が与える褒美だ。ありがたく受け取れ」
「で、ででで、出来ません! こんな高価な物を受け取るようなことなんて、私してませんもん!」
あまりの驚きに、敬語までごちゃごちゃになってきてしまった。でもこれだってモニカのせいじゃない。反省すべきなのはノルベルトだ。
「そう重たく考えるな。この髪飾りはとある商人からの俺に対する貢物みつぎものだ。商いをする上でどうしても優遇して欲しいことがあったらしく、父上と母上、それと兄にも貢物を持ってきた。そこまでするならばと、父上が優遇措置を取ったそうだから、もうこの貢物の役目は終わっている」
ノルベルトは後ろに下がり、椅子に腰かけ、肘をついてその髪飾りを睨みつけた。
「しかし商人め。俺が男女とでも思ったのか、俺がつけるはずもない髪飾りを貢物として持って来るとは。腹が立つが、俺に贈られたものなのだからと無理やり持たされた。見るのも腹立たしいから棚にしまっておいたが、ようやく処分することができる」
「……ですが、ノルベルト様への献上品を私が受け取る訳には」
「今も言ったが、その髪飾りは役割を終えている。俺が部下に褒美として渡すのは何の問題もない。俺の棚の中でほこりを被るよりは、お前の手に渡った方が意味はある」
モニカは改めて髪飾りに目を落とした。
美しい……。数々の青い宝石を織り重ね、全ての宝石の魅力を引き出すように考えられて作られている。それにしても……この宝石の形は……。
「これは……蛇ですか?」
「いや、龍だ」
宝石は細長い動物の形を作りだしていた。なんとなく形から蛇を想像したが、それにしては荒々しすぎる。
「龍……ですか?」
「知らないか? 遥か東の国に伝わる伝説の生き物だ。鋭い牙と爪を持ち、火を吐きながら空を飛びまわったといわれている。その体は堅いウロコに守られており、どんな攻撃も弾き返したという」
モニカは説明を聞いてからまじまじと宝石を見た。確かにそのあたりの造形も細かい。小さいながらも鋭く細かく作られた牙や爪は力強さを感じるし、龍の体を覆うウロコを一枚一枚丁寧に作られているのも見事だった。
「見事だろう? 手作業とは思えぬほどウロコの形が統一されている。しかし、虫眼鏡を使えば、その形に微妙な違いも見て取れるだろう。王族を店から地上を監視する龍とするなら、親衛隊は牙や爪……あるいはウロコと言えるだろう」
ノルベルトは窓に目を向けた。
「男の親衛隊は我の強い者が多い。それを踏まえるなら、男の親衛隊は牙や爪だ。それなら、女の親衛隊にはウロコになってもらいたいな。互いに寄り添い、どんな苦難をも弾き返す強い意思と、守るという優しさを身につけた竜のウロコに。しかし、その宝石の竜のウロコは極限まで統一された形をしているが、人はそうはいかない。性格や能力、生きてきた時間など、何もかもが違う。形から色から多種多様のウロコ達は、はたして強靭な盾としてまとまることができるのだろうか?」
「……?」
申し訳ないことに、その話はモニカには理解しきれるものではなかった。掻い摘んででも、後でクララに話して意味を教えてもらおう。
ノルベルトはモニカが頭をひねっていることに気付くと、「話が過ぎたな」と言って咳払いをする。そして、改めてモニカに向かっていった。
「さて、モニカ。詳しい価値は知らないが、それだけの宝石をちりばめられた髪飾りだ。しっかりとしたところで金に換えれば、薬を買う金には十分だろう。地元で働きながら母親を看病して生活することができるようになるはずだ」
モニカはハッとしてノルベルトを見た。
「家族への愛は尊い。ガサツな俺にすら、お前の母を思う気持ちがよく分かる」
ノルベルトはそう言って少し儚げな表情を浮かべた。なぜかその表情が、旅立つ時に見せた母の顔と重なって見えた。
王族ともなれば色々と制約もあるだろう。ノルベルトは母に会うのも、自由にはできなかったのかもしれない。
「お前はそれでも俺の親衛隊になりたいと思うのか?」
お金に困らなければ、モニカに親衛隊になる理由など……。
「……です」
「なんだ? 聞こえなかったぞ?」
モニカに親衛隊になる理由なんてなかった。そう、ついさっきまでは……。
「私はノルベルト様の親衛隊に……もっとも近い親衛隊になりたいです」
この人を守りたい。母と同じ表情を浮かべて、モニカの母を案じてくれたこの人を……。
「それはなぜか?」
モニカは自然に膝を折り、髪飾りを胸に抱いてノルベルトに頭を下げた。
「それはノルベルト様に……あなた様に心からの忠誠を誓っているからです」
* * *
モニカはノルベルトの部屋を後にして、親衛隊の宿舎に戻った。
自分の部屋に帰る前に、ノルベルトに言われたように全員に二つずつまんじゅうを配って歩いた。
すると、候補者の中に食べ物に詳しい者がいて、受け取ったまんじゅうが驚くほど高いものだということが分かった。一箱で一ヶ月分の給料が軽く消し飛んでしまうくらいの値段だそうだ。……なるほど、確かにカモフラージュにはいいのかもしれない。
モニカは最後に自分の部屋に戻った。モニカの部屋は三人部屋だ。昔からの友達のクララが一人と、後一人は無口な子が一緒に使っていて、名前はカルラという。
カルラは、訓練が終わった後は風呂に入ってご飯を食べると寝てしまう。体力がまだ付いていないのだろう。
しかし、モニカが枕元のまんじゅうを置くとむくりと起き出し「……食べていい?」と聞いてきた。
モニカがこくりと頷くと、カルラはすごい勢いでまんじゅうを食べ、「……ありがとう」と呟いてまた寝てしまった。
そんな様子が可愛らしくて、モニカとクララはクスクスと笑いあった。カルラは、モニカとクララの一つ下らしい。歳も近いから、今後仲良くなれるかもしれない。
クララにも当然二つ渡した。「褒美としては妥当なところよね」とクララは微笑みながら言って、まんじゅうを頬張る。
モニカはカルラを振り返り、しっかり寝たことを確認して髪飾りを見せた。
「ねえ、クララちゃん……これ……」
「んー? なーに? ……ぶ、ブハッ!」
「あ、きたない」
クララは驚きのあまり、口に含んだまんじゅうを吹き出してしまった。顔が向いていた方向が違ったから、モニカはそれを顔で受け止めずに済んだ。
「え、ちょっとモニカ、あんたそれ……」
「ノルベルト様にいただいたの」
「いただいたって! な、なんで……」
モニカはクララが驚く様子を見て、やはりあの時自分が狼狽したのはノルベルトのせいだったんだなと確信した。
(ノルベルト様……)
* * *
「俺にもっとも近い親衛隊か。隊長にでもなって見せるというのか?」
「それがもっとも近い親衛隊だというのならなって見せます。私を、ノルベルト様の傍に置いてください」
ノルベルトはさっきからまるで表情を崩さない。何もかも涼しく受け止めてしまうのだ。モニカは今までにないくらい気分が高揚しているというのに。
「ふ……今は俺の前で気持ちが高ぶり、頭の中が混乱しているのだろう。自分の部屋に帰ってから、改めてその髪飾りをどうするか考えればいい。ただ……」
ノルベルトは少し真剣な表情をして立ち上がった。
「売るにしても持っておくにしても、それは他人に打ち明けない方がいい。渡した俺が言うのもなんだが、間違いなく隊の中が動揺する」
その理由は分かる。これを手渡すのが王族にとって大したことではなかったとしても、一般の感覚からすれば何か意味があるように感じるのは必然。誰にも言わず胸にしまっておいた方が良いに決まっている。ただ……。
「あの! 一人昔からの友達が……親友がいます。その者にだけは打ち明けても構いませんでしょうか?」
モニカは顔をあげ、すがるような目でノルベルトを見た。
ノルベルトは少し目を閉じて考え、優しく微笑みながら答えた。
「お前が心から信頼できる相手と考え、それによってどのようなことが起きる可能性があるかを十分に理解した上で打ち明けたいというなら話すといい」
* * *
モニカはクララにすべてを話した。カルラを起こさないように小さな声で……。
クララは小さくうなずきながら聞いていたが、最後まで聞き終わった時にモニカに問うた。
「モニカ、ノルベルト様が言った『可能性』って言うのは、どういうことを言ったんだと思う?」
「それは、打ち明けることで私とクララちゃんの中に亀裂が入る可能性があるってことでしょ? そんなことあるわけ……」
「馬鹿ッ!」
クララは突然怒鳴った。あまりに大きな声だったため、カルラが起きるのではないかと心配したが、相変わらず寝ている。
「こ、声が大きいよクララちゃん……」
「大きくもなるわよ。あんた全然分かってない」
さすがに声を潜めたが、クララの右腕は、今にもモニカの頭に振り下ろされそうになっている。
「何が分かってないの?」
「ノルベルト様も言ったんでしょう? これが知られれば隊の中に動揺が走るって。もし私があなたに嫉妬して、このことを隊の中に言いふらしたらどうなると思うの? 私達の友情に亀裂が走るだけでは済まない。隊の中がめちゃくちゃになって、解散させられることになるかもしれないわ。そうなれば私達は当然罰を受けるし、ノルベルト様にも迷惑がかかる。最低でもそこまでは想定しなくちゃダメでしょ?」
モニカから、サッと血の気が引いた。もしそうなれば確かにとんでもないことになる。何処まで責任が及ぶか分からない。もしかしたらモニカの母親にも何かしらの責任が……。
「で、でもクララちゃんはそんなことしないよね……?」
「当り前でしょッ!」
今度は怒鳴ると同時にゲンコツが飛んできた。
モニカは頭をさすりながらカルラのことを振り返った。今回も目を覚ます様子はない。
「私がモニカを裏切ったり、モニカの不利益になったりするようなことをするはずが無い。そこまで理解して話してなかったことに怒ったのよ」
「そして今の一撃は、そんな友情を一瞬でも疑ったことに対する制裁? 愛が痛いよクララちゃん……」
クララは頭を抱えるモニカを呆れ顔で見ながら、もう一度髪飾りを見てため息をついた。
「それにしても、訓練所に突然訪問してきたことといい、この髪飾りといい。ノルベルト様はずいぶんめちゃくちゃな人のようね。親衛隊になったら大変そう」
「あはは……」
クララの呟きに、モニカも乾いた笑いを浮かべて少し賛同する。もし親衛隊になれたとしても、相当ノルベルトに振り回されることになるだろう。
「ねえ、モニカ……」
クララが少し神妙な顔をしてモニカを見てきた。
「帰ろうとは思わないの?」
「……」
モニカはフッと笑みを浮かべて髪飾りに目を落とす。クララの言葉の意味はよく分かっている。そして、もしその通りにしたとしても、誰も自分を責めたりしないことも分かる。だが……。
「帰らないよ」
「でも……それを売れば、おばさんの傍に……」
「いいの。私誓ったから」
モニカは窓に近づき、星空を見上げた。青い髪飾りは、月の光を受けて淡く輝く。
「誓った……? 何を?」
「ノルベルト様にもっとも近い親衛隊になるって……親衛隊長になって見せるって、私は誓ったんだ」
星空を見上げながら、モニカはさっきまでのことを思いかえしていた。




