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大魔術師ネクロア ~魔導軍団を率いる最強の魔女が大陸を震撼させる~  作者: レモンティー


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第四十七話 皇帝は総攻撃を命じた

帝都から届いた命令書には、皇帝レグナスの朱印が押されていた。

「これ以上の遅滞を許さず。魔導王国の首都を陥落せしめよ」ゲイルは紙を読み終え、しばらく火鉢の前に立っていた。

補給の遅延、馬の衰弱、前衛の疲弊。

それでも皇帝は五十万という数字だけを信じていた。

ゲイルは皇帝への返書を三度書き直した。

危険を正直に記せば臆病と見なされる。

楽観的に書けば兵が死ぬ。

結局彼は、補給の遅延と兵の疲労を数字で示し、決戦延期を求めた。

返事は短かった。

「進め」彼は紙を畳み、部下に言葉を飲み込んだ。

総司令官は三方面軍に最後の集中を命じた。

攻城塔を前に押し出し、分散していた小隊を再び大きな隊列へ集める。

ネクロアの魔法に対して最も危険な陣形だと知りながら、首都を包囲するには兵を寄せるしかなかった。

ギーグは低く言った。

「敵が待っているかもしれません」ゲイルは答えた。

「分かっている。だが命令は変わらない」

皇帝の使者は、総司令官の迷いを臆病と決めつけた。

「五十万の兵がいれば、どんな魔法も押し切れる」ゲイルは怒らなかった。

「五十万の兵には五十万の腹がある。陛下はその数を数えたことがあるか」使者は顔を赤くして帰った。

首都では、鍛冶師たちが杖の金具を修理し、仕立て屋が防寒布を縫っていた。

魔術師だけが戦っているのではない。

厨房の女たちは夜通し粥を炊き、子供たちは水桶を運ぶ。

ネクロアは城壁からその光景を見て、ここを守る理由を改めて確かめた。

魔導王国の首都では、避難民の最後の隊列が城門を通り抜けた。

ネクロアは魔術師たちを広場に集めた。

紅蓮隊は焦り、雷鳴隊は反撃を望み、結界隊は疲れ切っていた。

彼女は一人ずつを見渡して言った。

「ここから先は、誰か一隊が英雄になる戦いではない。全員が隣の隊を信じる戦いよ」

皇帝の総攻撃命令を受けた伝令は、ゲイルの前で膝をついた。

「拒めば閣下の家族も」ゲイルは封書を閉じた。

「知っている」彼は攻撃開始の時刻を記しながら、野戦病院へ撤収準備を命じた。

命令に従うふりをしてでも、生きて戻す人間を増やしたかった。

決戦前夜、魔導軍の宿舎では、誰も勝利を口にしなかった。

負傷者の名、避難した家族の行き先、明朝の持ち場を確かめる声だけが聞こえた。

ネクロアはその静けさを誇らしく思った。

恐怖を知らない兵より、恐怖を抱えて役目を果たす兵の方が強い。

決戦前夜、ゲイルは若い副官に家族への手紙を預けた。

副官は受け取りを拒んだ。

「閣下は帰れます」ゲイルは笑わなかった。

「帰れるかどうかを決めるのは、勇気だけではない」遠くで魔導王国の鐘が鳴り、彼は戦場の方角へ顔を向けた。

夜、首都の外に帝国軍の松明が無数に灯った。

地平線が火の川になったようだった。

ネクロアは五色の魔法陣を描き、中央に空白を残した。

リュカが尋ねる。

「その中心には、何を置くのですか」ネクロアは微笑んだ。

「敵が最後まで気づかなかったもの。私たち自身の選択を」

ゲイルは命令書の裏に、撤退の条件を書き込んだ。

『補給車が三日分を下回った場合。

前衛の旗が二刻以上見えない場合。

負傷者の後送路が塞がれた場合』。

皇帝の朱印に対抗できる権限はない。

それでも兵を死なせる前に、自分の手で停止の基準を残したかった。

副官はその紙を見て顔を青くした。

「陛下への反逆と受け取られます」ゲイルは頷いた。

「そうかもしれない。だが、誰も生きて戻らなければ、忠誠を示す相手もいなくなる」彼は撤退命令を封筒に入れ、最も信頼する伝令に渡した。

まだ開くな、とだけ告げる。

ゲイルは皇帝の命令書を机の端へ置き、負傷者名簿を中央へ寄せた。

命令には期限がある。

名簿に書かれた者には、その先の人生がある。

彼はどちらから読むべきか、もう迷わなかった。

一方ネクロアは、五色の術式の中央にある空白へ、一本の白い線を引いた。

リュカが首を傾げる。

「敵の逃げ道ですか」彼女は答えた。

「逃げ道だけでは足りない。武器を捨てた者が、追われずに歩ける道よ」ノインはその線を守る結界に、攻撃魔法を通さない条件を加えた。

帝国軍の新兵は、戦列の隙間から白い道を見た。

あれは敵の罠か、それとも逃げ道か。

まだ答えは分からない。

彼は懐の手紙を握り直し、太鼓が鳴るたびに故郷の畑を思い出した。

皇帝の総攻撃命令を受け取ったゲイルは、命令書の最後にある一文を読み返した。

『退却者は敵前逃亡とみなす』。

彼は副官へ命じた。

「この一文を各隊へ伝えるな」

副官が青ざめる。

「勅命に逆らうのですか」

ゲイルは紙を折った。

「敗北の前に兵を処刑すれば、勝てる戦も負ける」

彼は代わりに、負傷者を後送する経路を三本示した。

帝国の勝利を信じる将軍が、皇帝に逆らう準備を始めた。

ゲイルの幕舎に皇帝の使者が再び現れた。

彼は補給の不足を記した帳簿を見ず、「撤退は反逆とみなす」と宣言した。

ゲイルは朱印状を机へ置き、指揮官たちの顔を見渡した。

誰も口を開かない。

彼は自分の署名で、負傷者の後送路を確保する命令を追加した。

皇帝に従うための作戦書に、皇帝の許さない一行が加わった。

首都の南門では、避難してきた子供が水桶を落とした。

桶は石畳を転がり、兵士の足元で止まる。

兵士は拾い上げようとして、手が震えていることに気づいた。

少年が「怖いの?」と尋ねると、彼は頷いた。

「怖い。でも君が水を飲める場所を残したい」少年は桶を受け取り、礼を言わずに走った。

礼を求める余裕は、どちらにもなかった。

リュカは五色の魔法陣を見て、紅蓮隊が主役ではないと知った。

以前なら反発しただろう。

だが千の火球が敵を止めなかった丘を思い出し、「炎は何をすればいい」と尋ねた。

ネクロアは防護壁の模型を指した。

「壁の中の水だけを熱して。人を狙わない」彼は術式を一度消し、火球の形を細い熱線へ変えた。

ノインは退避路の幅を測り、足りないと報告した。

「負傷者が担架で通るなら、兵二人分では狭い」ネクロアは陣の中央に残した空白を広げた。

その分だけ包囲の力は弱まる。

地術師が顔を曇らせると、彼女は言った。

「逃げられる敵がいるから、止まる敵もいる。閉じ込めるだけの魔法なら、五十万を救えない」

ゲイルは朱印の押された総攻撃命令を畳んだ。

従えば兵が死ぬ。

背けば自分が裁かれる。

彼は副官に命じた。

「負傷者の運搬車を前へ。命令の前に、それだけは済ませる」

皇帝の総攻撃命令を受けたゲイルは、紙を握りつぶさなかった。

命令書を部下全員に見せたうえで、予備隊の投入を一刻遅らせた。

「命令を隠しても責任は消えない」副官は彼の決断が処罰に値すると知りながら、時計を合わせた。

帝国の若い副官はゲイルの手紙を懐に入れた。

自分の家族宛ての手紙はまだ書いていない。

彼は戦場の向こうに白い線を見た。

敵が残した通路だという。

「あれを通れば帰れるのか」隣の兵が答えた。

「帰るには、命令が要る」副官は初めて、敵の魔法より自軍の命令を恐れた。

ゲイルは総攻撃命令の朱印を指でなぞった。

従えば兵を失う。

拒めば処罰される。

彼は命令書を閉じ、伝令に「負傷者の後送を先に」と告げた。

数分の猶予しかなくても、守れる命はあった。

帝国の鼓手は叩き続ける手を止め、前列の兵が振り返るのを見た。

音が届かない部隊がある。

ゲイルは命令を重ねる前に、伝令の帰着を待たせた。

ゲイルは総攻撃の時刻を記した後、負傷者を後送する道を赤で囲んだ。

参謀が「敗北を想定するのですか」と尋ねる。

「五十万を預かる者が、帰り道を考えずに済むものか」

彼は書類の余白に、退却時の合図を追記した。

皇帝の総攻撃命令を受け取ったゲイルは、伝令に一つだけ確認した。

「撤退時の負傷兵収容命令は?」

伝令は首を振った。

命令書には前進の時刻しかない。

ゲイルは余白に自分の名で収容時刻を書き足した。

皇帝の命令にない一行だったが、明日その紙を読む兵には、前進より大切な一行になるかもしれなかった。

夜明け前、帝国軍の太鼓が鳴った。

ゲイルは皇帝の使者を見送ると、遠くの城壁を見た。

偽の停止旗を使った作戦は成功したが、魔導軍はもう旗だけで動かない。

次の一手が同じように通じる保証はなかった。

敵の魔術師は一万二千。

こちらは五十万。

数だけなら圧勝のはずだった。

ゲイルは戦況報告の末尾に空欄を残した。

五十万の兵を動かしてなお、その欄に勝利の時刻を書けるとは思えなかった。

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