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大魔術師ネクロア ~魔導軍団を率いる最強の魔女が大陸を震撼させる~  作者: レモンティー


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第四十六話 五十万人の食糧を運ぶ道を断て

帝国軍の兵站は壮大だった。

穀物車、家畜、鍛冶場、薬品車、馬の飼葉。

五十万人の軍勢は剣だけでは動かない。

ゲイルは補給路を三重に分け、橋には守備隊を置き、夜間の襲撃に備えた。

彼はネクロアが補給を狙うと読んでいた。

だが、城の撤退で魔導軍が失った時間は取り戻せない。

リュシアは予定した橋の破壊を中止し、別の補給路を探し直さなければならなかった。

帝国の補給将校は、一日に必要な小麦と飼葉を帳面に書き込んだ。

数字は毎朝変わった。

兵が増えれば食糧が足りず、馬が弱れば運搬が遅れる。

前線は進んでいるのに、荷車は進まない。

彼は総司令官に「戦わずして軍が痩せています」と報告した。

ネクロアは補給車を焼くことを禁じた。

「食糧は奪えばこちらのもの。焼けば誰のものにもならない」氷晶隊が夜間に川の流れを変え、浅瀬を深くした。

結界隊は小さな音の遮断幕を張り、工兵隊が橋の要石を抜く。

橋は崩れず、朝まで渡れなくなる程度に傾いた。

兵士が修理に集まるころには、別の渡河地点で荷車が足止めされていた。

橋の修理に向かった帝国工兵は、破壊の跡がほとんどないことに驚いた。

石は砕かれておらず、要石だけが丁寧に抜かれていた。

「敵は橋を憎んでいない」工兵長ギーグは唇を噛んだ。

「戦が終われば使うつもりなのだ」

魔導軍の地術師たちは橋の要石を外した後、川に落とさず布で包んで保管した。

戦争が終われば元へ戻すためだ。

作業を見ていた村人が尋ねた。

「敵の橋を直すのか」エルナは答えた。

「ここを使うのは敵だけではありません。あなたたちも使うでしょう」

東方軍は迂回路を使おうとしたが、そこには避難民を通した後の空の村が並んでいた。

食糧の徴発はできない。

さらに魔導飛脚が各地の倉庫を結び、ネクロア軍だけが短い距離で補給を受けられるようになっていた。

ゲイルは地図の線を数え直した。

「兵力は我々が上だ。だが一日進むための費用は、敵の何十倍にもなる」

ゲイルは補給路を守るために兵を割いた。

だが橋を守れば谷が塞がれ、谷を守れば街道が使えない。

魔術師たちは一つの場所に留まらず、夜のうちに障害を移していた。

敵の姿が見えないまま守備兵だけが増えていく。

ゲイルはそこで、五十万という兵数が重荷にもなると悟った。

ネクロア軍の若い地術師は、補給路を断つ仕事が戦闘より地味だと不満を漏らした。

エルナは彼を川辺へ連れていき、荷車の列を指さした。

「あれが進まなければ、明日の戦場で誰かが死なずに済む」青年はようやく、自分の魔法が何を守っているか理解した。

補給路を断たれた帝国兵は、空になった鍋を叩いて抗議した。

ゲイルは怒鳴らず、残った麦を部隊ごとに数え直させた。

「明日まで食わせるために、今日の嘘をなくせ」不足分を隠した将校は処罰され、兵は初めて本当の残量を知らされた。

夜明け前、帝国の補給隊が谷間で止まった。

谷を封じるのは火ではなく、幾重にも張られた透明な結界だった。

破るには時間がかかる。

隊長が別の道へ向かうと、その先の橋も使えない。

ネクロアは遠くの高台から荷車の列を見つめた。

「五十万人を一度に倒す必要はない。五十万人が一緒に動けないようにすればいい」

谷の出口で止まった輸送兵たちは、食糧袋を守るため槍を構えた。

エルナは一人で前に出て、袋の封を切った。

中身は小麦だ。

彼女はそれを地面にこぼさず、袋を結び直した。

「兵の腹を満たすものを燃やすつもりはない。武器を置けば、荷車ごと保護する」輸送隊長は背後の飢えた兵を見た。

輸送隊長は白い布を掲げた。

だが谷の奥では別の小隊がそれを知らず、弓を引いた。

矢がエルナの肩をかすめる。

護衛の魔術師が反撃しようとしたとき、彼女は手を上げた。

「伝わっていないだけ」結界を一枚張り、降伏の合図が谷全体に見えるよう、布を高く掲げ直させた。

補給車の御者は、食料袋に自分の故郷の印を見つけた。

荷を燃やせば帝国軍は止まる。

だが故郷の冬も苦しくなる。

魔導軍は袋を焼かず、車輪を外して道を塞いだ。

御者はその場で座り込み、初めて敵兵へ礼を言った。

ゲイルの手元に届いた補給報告は、予定数量の半分以下だった。

敵に奪われたのではない。

護衛を増やした結果、運べる荷車が減り、迂回で飼葉が消え、橋の修理に工兵が取られたのだ。

彼は不足分を地図に赤で書いた。

勝利した城の周りだけが、食糧の届かない島になっている。

食糧を受け取った捕虜は、最初は一口も食べようとしなかった。

エルナが同じ鍋から粥をすくうと、ようやく木匙を口へ運んだ。

谷で勝ったのは食糧の量ではない。

明日も人として扱われると信じられる、そのわずかな余地だった。

補給路を断つ作戦で、リュシアは帝国軍の荷車の列を見つけた。

焼けば五十万人の食糧が消える。

しかし列の最後尾には、帝国の野戦病院へ向かう薬が積まれていた。

彼女は火炎隊へ待機を命じ、荷車を止めるため車輪の前に土壁を作る。

帝国の輸送将校が怒鳴った。

「なぜ焼かない」

リュシアは答えた。

「食糧は戦いを長引かせる。でも薬は、戦いが終わったあとにも要る」

荷車は没収されず、別の道へ誘導された。

谷に取り残された輸送兵の一人が、魔導軍の粥を口にした途端、泣き出した。

「この袋は、故郷の村から徴発された小麦なんだ」エルナは袋の印を調べ、村名を記録した。

奪った食糧をただ分ければ、別の土地の飢えを見落とす。

彼女は捕虜に尋ねた。

「村には、まだ種をまく麦が残っている?」男は答えられなかった。

ネクロアは押収した小麦を三つに分けた。

前線の兵、避難民、そして徴発元へ戻すための分だ。

補給担当官は反対した。

「こちらも足りません」彼女は帳簿を閉じずに答えた。

「勝ったあとに飢える村を増やせば、戦争は終わらない」食糧の袋には新しい封印が押され、行き先の村名が書かれた。

橋の修理を命じられた帝国工兵は、要石が壊されずに岸へ積まれているのを見つけた。

手を伸ばすと、石には番号まで刻まれていた。

戻す順番を間違えないためだ。

工兵長ギーグはそれを見て苦笑した。

「敵の方が、橋を直す準備をしている」しかし直せば魔導軍の狙いを破ることになる。

彼は作業を続けるよう命じた。

夜明け、帝国の輸送隊は修理した橋へ殺到した。

ところが橋の向こうでは別の谷が閉じられ、馬が進めない。

ゲイルは魔導軍の狙いを悟った。

橋を永久に壊すのではない。

修理のたびに兵と時間を使わせ、前線の食糧を遅らせる。

彼は地図に残った道を数え、初めて「五十万」という数を重荷として感じた。

空になった帝国の穀倉で、ゲイルは床に落ちた麦粒を拾った。

奪うはずの食料は、村人とともに運び去られていた。

副官が「避難民を追えば荷車を奪えます」と言う。

「追うな」

ゲイルは麦粒を握り潰した。

「食料を得る前に、戦う理由を失う」


その日の午後、補給路に皇帝の使者が現れた。

朱印状には『明朝までに進軍を再開せよ』とある。

補給については一行もない。

参謀が乾いた声で言った。

「兵は二日、まともに食べていません」

「食事を減らせば三日は持つ」と使者は答えた。

「その三日で勝てばよい」

ゲイルは窓の外へ目を向けた。

道端に座る兵が、空の飯盒を逆さにして叩いている。

戦える兵の数はまだ多い。

しかし、命令を受け取る力まで残っているとは限らなかった。

一方、魔導軍のダリオは封鎖線に狭い通路を設けていた。

手押しの薬箱と住民の荷車だけが通れる幅だ。

若い術師が「敵の補給も通るかもしれません」と不安を漏らす。

「通るかもしれない。だから見張る。でも包帯を運ぶ手まで止めるな」

夕暮れ、皇帝の使者は再び進軍を迫った。

ゲイルは朱印状を卓上へ置き、まだ署名しなかった。

命令に従えば、空腹の兵を死地へ押し出す。

従わなければ、帝国の法が自分を裁く。

彼は副官に言った。

「夜明けまでに、全隊の水と食料をもう一度調べろ。総攻撃の命令は、その結果を見てから出す」

使者は冷たく告げた。

「皇帝陛下は、夜明けを待ってはくださらぬ」

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