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大魔術師ネクロア ~魔導軍団を率いる最強の魔女が大陸を震撼させる~  作者: レモンティー


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第三十一話 白銀の盾を掲げる者たち

礼拝堂の鐘が三度鳴ると、白銀の盾を掲げた騎士たちが中庭へ整列した。

彼らの前には、焼け焦げた村の模型と、魔導軍の進軍経路を描いた地図が置かれていた。

聖印を刻んだ盾の前で試験用の火球がほどけた。

熱は消え、煙だけが漂った。

兵士たちから歓声が上がる。

しかし試験官は、盾の縁に細い亀裂が走ったことを記録帳に残した。

ガレスは軍の兵站担当に尋ねた。

「我らが守る村で、魔術師の子はどうなる」担当官は返答をためらった。

徴発した食料の帳面には、村人から奪った麦の量が記されている。

ガレスは筆を取り、返還すべき量を書き加えた。

戦う前から、守るべきものを見失ってはならない。

「魔法を使う者をすべて異端と呼ぶつもりか」と若い副官セオンが尋ねた。

ガレスは首を横に振る。

「民を焼く力が怖いのだ。だが恐怖で人を裁けば、我らも同じ怪物になる」

東方の村で、薬師の娘が水を浄化しただけで石を投げられた。

村人たちは彼女の魔法を怖がっていたが、熱病の子供を救ったのもその水だった。

娘の父親は役人に抗議し、夜のうちに娘を隠した。


翌朝、聖騎士が来たとき、村人の誰も彼女の居場所を話さなかった。

恐怖だけでは人の心を支配できない。

軍議の席で、ダリオは先制攻撃を主張した。

だがネクロアは「相手が盾を持っただけで攻めれば、私たちが恐れている証拠になる」と退けた。

アルノーは城塞の経験から、戦いを始める側が補給の負担を負うと説明した。

白銀の盾は宗教的な象徴でもあった。

盾に刻まれた文様を傷つけることは、兵士たちにとって誓いを破る行為に近い。

ネクロアは敵を理解するため、文様の意味を調べさせた。

敵の信念を知らずに勝っても、次の反乱を生むだけだ。

リュシアは旧王国で迫害された魔術師の証言をまとめていた。

名前を書けば家族が危険になる者には番号を与え、証言を封筒に分ける。

「敵の国にも同じような子がいるはずです」ネクロアは頷いた。

「だからこそ、国を焼いて勝つわけにはいかない」

国境の避難所では、魔術師の母親が息子の手を隠そうとした。

指先に小さな火がともるたび、周囲の目が鋭くなる。

リュシアは子供の前にしゃがみ、「その火で、誰かを傷つけたことはある?」と聞いた。

少年が首を振ると、彼女は避難所の灯芯を差し出した。

「なら、暗くなったら手伝って」母親は言葉を飲み込んだが、息子の手を覆っていた掌をゆっくり離した。

礼拝堂の裏でセオンは、戦いに備えて集められた村の子供たちを見た。

盾を磨く仕事を与えられた少年の指には、銀粉が深く入り込んでいる。

「誰がこの子をここへ?」答えた兵は「志願です」と言ったが、少年は首を振った。

「父さんが断れないって」セオンはその言葉を手帳に書いた。

ネクロアのもとへ届いたのは、敵軍の兵力より先に村人の避難希望者名簿だった。

老人十二人、子供二十一人、歩けない病人が四人。

リュシアは避難車の台数を見積もり、騎兵隊に護衛を頼んだ。

ダリオは地図から目を上げた。

「敵が攻めてきたら?」「その時も、村を盾にはしない」


翌日の斥候報告には、白銀の盾が五枚で一組になるという記録があった。

だが六枚の組もある。

ミラは「見間違いと決めつけないで」と伝令に念を押した。

見たままを残すことが、後の戦場で命を救うかもしれない。

ネクロアは盾の配置を写した紙を一枚ずつ机に広げた。

礼拝堂の帳簿を調べたセオンは、魔術師の摘発に使われた費用の欄を見つけた。

村の橋の修理代より高い。

彼は紙をガレスの前へ置いた。

「この金で橋を直せば、子供たちは冬でも学校へ行けました」ガレスは数字を見つめたまま答えなかった。

守ると誓った国で、何を守ってきたのか。

盾の銀色が、初めて重く見えた。

セオンは没収された治癒師の杖を一本、倉庫の奥で見つけた。

持ち手には子供の名前が彫られている。

聖騎士の誓いが誰を守るものだったのか、彼は初めて答えに詰まった。


夕刻、両軍の見張りが川を挟んで向き合った。

対岸の若い騎士が水筒を落とし、流れにさらわれた。

魔導軍の術者が風を起こして岸へ寄せると、騎士は礼を言いかけて口を閉ざした。

感謝したことを仲間に知られたくなかったのだ。

術者も何も言わず持ち場へ戻った。

ガレスは盾の試験をもう一度見た。

火球は確かに消える。

だが試験場の壁には熱が残り、盾を持つ兵の手袋は焦げていた。

試験官は「許容範囲」と記録した。

「許容するのは誰だ」ガレスの問いに試験官は答えられなかった。

彼は手袋も報告書に添えるよう命じた。

白銀の盾を掲げた聖騎士が、魔導軍の斥候を捕らえた。

尋問の場に現れたガレスは、斥候が持っていた地図を広げる。

そこには攻撃目標よりも避難路が多く書かれていた。

「敵の偽装です」と部下は言う。

ガレスは地図の小さな橋に印をつけた。

自分の軍が昨日破壊した橋だった。

偽装なら、なぜ敵はそこを直そうとしているのか。

彼は斥候を牢へ送らず、橋の現場へ案内させた。

ネクロアは戦闘開始の条件を紙に書いた。

村への攻撃、避難路の封鎖、こちらへの明白な侵攻。

そのどれも起きていないうちは、先に火を放たない。

署名した隊長たちは不安を隠せなかったが、彼女は最後に一行を加えた。

「判断が誤りなら、責任は私が負う」

セオンが礼拝堂の門を閉めようとすると、薬師の娘が駆け込んできた。

彼女は村で石を投げられた少女の姉だった。

「妹が人を助けたのは罪ですか」セオンは即答できない。

ガレスを呼び、証言をそのまま聞かせた。

ガレスは兵に命じ、娘を安全な宿へ案内させた。

だが彼女は「守ってほしいのは私だけではありません」と言った。

セオンは、その言葉を命令書より大きな文字で手帳に残した。

ガレスは夜の巡回で、盾の裏を握る若い騎士の手が震えているのを見た。

怖いのかと問うと、騎士は「魔術師が怖いのではありません。明日、自分が誰かを殺すことが怖い」と答えた。

ガレスは盾を握る手を下ろさせた。

「怖いと思えるなら、まだ考えられる」

村の治癒師が連行されると聞き、ミラは抗議文を書いた。

だが文字を読めない村人も多い。

ネクロアは抗議文だけでなく、治療を受けた人々の証言を集めさせた。

傷が治った日付、薬の名前、助かった子供の数。

魔法を禁じる命令に対して、まず人が生きた証拠を並べた。

ガレスは村の治癒師の少女が兵の傷を手当てする姿を見た。

禁じられた魔法で救われた兵は、感謝の言葉を飲み込んだ。

ガレスはその沈黙を見逃さなかった。

ガレスは聖騎士の盾を磨く若者に尋ねた。

「誰を守るための盾だ」若者は即座に「神殿です」と答えた。

ガレスは村の治癒師が追放された報告を握りつぶせずにいた。

守る対象を間違えた盾は、どれほど白くても汚れて見えた。

セオンは翌朝、徴発した麦袋の不足を確かめるため村へ下りた。

帳簿の二十袋は横領されたのではない。

冬を越せない家に、倉番が命令に背いて分けていた。

『盗みとして裁くか』と問う兵に、セオンは答えを出せなかった。

彼はまず空になった家々の穀物壺を数え、ガレスへ不足の理由を報告した。

ガレスは処罰欄に署名せず、軍用の配給量を削って村の備蓄を戻した。

盾が魔法を消せても、飢えは消せない。

リュシアは聖騎士の盾を数えるのをやめ、盾を持たない従者の位置を調べた。

戦場で危険にさらされるのは、光る鎧の持ち主だけではない。

避難路を確保するための地図が、攻撃計画と並べて広げられた。

リュシアは盾が消えた場合の退路を三本描いたが、二本は避難民の道と重なった。

彼女は自軍の最短路を消した。

敵に勝つ道と人を逃がす道は、同じとは限らない。

捕虜の待遇を調べるよう命じられたリュシアは、敵の兵站図に避難民の通る橋を書き足した。

兵を動かす線と民を逃がす線が重なっている。

「ここを塞げば、勝っても人が帰れません」

ネクロアは攻撃目標を一つ消した。

「盾の光が消えた瞬間、彼らは何を守るのかしら」ネクロアは問い、リュシアに盾が消えた場合の退路に加え、捕虜の待遇と民間人の避難路を調べるよう命じた。

試験場の裏では、割れた白銀の盾が麻布で覆われていた。

若い従者が布をめくると、盾の裏側に焼けた革手袋が貼りついていた。

魔法は表面で消えたのではない。

盾が吸い込んだ熱が、持ち手へ逃げていたのだ。

「盾は無傷だと報告しろ」

試験官の命令に、従者は声を失った。

隣の担架には、手の感覚を失った試験兵が横たわっている。

試験官は彼を負傷者名簿から外し、「不適格による除隊」と書いた。

その記録を見たガレスは紙を破らず、証拠として封じた。

「盾を信じて死ぬ兵に、欠陥を知らせないのは信仰ではない」

だが大神官の使者は、ガレスが立ち去ったあと、自分の手元にある試験記録を炉へ投げ込んだ。

燃える紙の向こうで、次の盾が前線へ積み込まれていった。


翌朝、亀裂のない盾だけが前線へ運ばれた。

ガレスは兵の手袋を自費で厚くさせたが、盾の内部に蓄えられる熱までは防げない。

隠された欠陥を暴く証拠は、封じた一枚の報告書だけだった。

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