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大魔術師ネクロア ~魔導軍団を率いる最強の魔女が大陸を震撼させる~  作者: レモンティー


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第三十話 三つの王国を征服した魔法使い

ヴァルディアの降伏から一か月後、グランベルクの城門には三国の旗が並んでいた。

最初に降伏した王国、城塞国家グランベルク、そして騎兵王国ヴァルディア。

いずれもかつては互いに通行税を争い、国境に兵を置いていた。

今、三国を結ぶ街道を行くのは、武器を積んだ軍馬車だけではない。

穀物、薬草、工具、そして魔法学校の教科書だった。

ネクロアは広間の地図を見つめていた。

「三つの国を取ったのですね」とリュシアが言う。

「地図の色は変わったわ。でも人の暮らしが変わらなければ、征服した意味はない」

会議には元敵将たちが集まっていた。

グランベルクの工兵長イザーク、元守備隊長アルノー、ヴァルディアの老騎兵長オルフェン。

かつて互いに剣を向けた者たちが、今は同じ卓で街道の修復費を論じている。

「騎兵が移動できる道を優先すべきです」とオルフェン。

「荷車が通れない道では食糧が届きません」とイザーク。

三国の代表が集まる会議で、ネクロアは一つの提案をした。

「国境を越える魔術師に、出身国による制限を設けないでほしい」旧王国の貴族は反対した。

魔術師が自由に移動すれば、領主の権力が弱まる。

ネクロアは答えた。

「力のある者を閉じ込めるから、力のある者が反乱するのよ」議論は長引いたが、最終的に志願と契約を原則とする制度が決まった。

新しい学校の教室では、子供が小さな水球を浮かべていた。

教師は「上手ね」と褒めたあと、隣の子が水をこぼしたのを叱らなかった。

「できるまで練習しましょう」かつて魔法の才能を隠していた子供たちが、人前で杖を持てるようになっていた。

ネクロアは廊下からその様子を見て、目を細めた。

だが東方の聖騎士団では、別の教えが広がっていた。

魔法は人を堕落させる。

魔術師の軍団は神への冒涜だ。

白銀の盾を掲げた騎士たちが、祈りの声を合わせる。

彼らはネクロアの戦い方を研究し、炎も氷も雷も封じる方法を求めていた。

ネクロアは新しい報告を読んで、静かに地図を閉じた。

十万騎を止めた技術が、次の戦場でも通じるとは限らない。

だが、通じないなら学べばいい。

三千人から始まった軍団は、そうして何度も常識を越えてきたのだから。

国境の橋の補修をめぐって三国の代表が議論になった。

旧王国の役人は「費用を負担するのは損だ」と言い、グランベルクの商人は「橋が狭ければ荷が滞る」と訴えた。

アルノーが図面を広げる。

「ならば橋を広げましょう。通る者が増えれば、どの国にも利益があります」ネクロアは少し笑った。

かつてここで決めたのは攻撃の時刻だった。

今、同じ机で人が安全に渡る道を決めている。

三国の境にある小さな村では、以前なら国境を越えるたびに通行税を払わなければならなかった。

新しい通行証を持った商人が最初の荷車を通すと、見張りの兵は驚くほどあっさり道を開けた。

「これだけですか」と商人が聞く。

「これだけだ」と兵は答えた。

商人は笑い、余った銅貨で村の子供に焼き菓子を買った。

帝国の制度が人々に届くとは、こういう小さな変化のことだった。


その晩、ネクロアは軍団の戦死者名簿を開いた。

最初の三千人の中には、もう戻らない者もいる。

彼女は一人ずつ名前を読み、机の端に置いた灯を消さなかった。

勝利を重ねるほど、守るべきものは増える。

だから次の敵が魔法を封じるというのなら、その仕組みを必ず解き明かす。

彼女はそう心に決めた。

リュシアは三国の地図を新しい紙に描き直した。

国境の線は残したまま、街道と学校と治療所の位置を太く記した。

「線を消すだけなら簡単です」と彼女は言った。

「けれど、人が行き来できるようにするには仕事が要ります」ネクロアは頷き、最初の予算を街道と井戸へ割り当てた。

大魔法で国を屈服させることはできる。

しかし、国を暮らせる場所にするには、毎日の小さな仕事が必要だった。

夜更け、ネクロアは新しい軍旗の図案を見た。

炎でも剣でもなく、五つの光が輪を作る。

紅蓮、氷晶、雷鳴、結界、禁呪。

どれか一つが欠ければ輪は閉じない。

リュシアが尋ねた。

「征服した国の数は入れないのですか」ネクロアは首を振った。

「国の数を誇る旗は、次の国を欲しがるわ」机には修復した橋の一覧と、行方不明者の照会票が並んでいた。

彼女は旗の図案の下へ、小さく書き添えた。

『戻る道を残す』。

合同訓練の休憩中、ナディアはベルクに尋ねた。

「私の氷を見たら、まだ怖いですか」ベルクは馬の鼻先を撫でた。

「怖いさ。でも、知らずに突撃するほうがもっと怖い」ナディアは頷き、次の訓練で使う旗の色を一緒に確かめた。

二人の背後では、かつて敵同士だった術者と騎兵が、水桶を運びながら言い合っている。

その声はもう、戦場の怒号ではなかった。

魔導軍の名簿には、戦場で生き残った者だけでなく、治療のために残った者、橋を直した者、降伏文書を書いた者の名もあった。

ネクロアは一枚ずつめくった。

誰か一人の大魔法で国を統一できるなら、三千人の仲間は必要ない。

けれど彼女が欲しいのは、一人の気まぐれで壊れない国だった。

リュシアが新しい報告書を持って入る。

東方の使節団が国境を越えたという。

ネクロアは名簿を閉じ、会議の準備を命じた。


その夕刻、三国の代表が集まる会議へ東方の使節が通された。

使節は黒い布を外し、白銀の盾を卓上へ置いた。

聖印が刻まれた盾に近づくと、灯火魔法の光が細く揺らぐ。

「神聖諸国は魔術を封じる聖騎士軍団を国境へ集めている」使節は淡々と告げた。

「魔法を失えば、あなた方はただの人間だ」代表たちは息を呑んだ。

今までの勝利を支えた力そのものが、次の敵には届かないかもしれない。

三つの国の旗が同じ広場に並んだ日、ネクロアは祝宴を早めに切り上げた。

境界の村から、税を二重に請求されたという訴えが届いたのだ。

征服のあとに残る仕事は、戦場の勝敗より細かい。

彼女は王冠を外し、村の名前を地図に書き込んだ。

三つの王国の旗が並ぶ広間で、若い使者がネクロアへ地図を差し出した。

「これだけ領土があれば、大陸の半分を従わせられます」

彼女は地図の端を折り返し、描かれていない村を指した。

「ここには、まだ私たちを知らない人がいる」

使者は征服の順番を問う。

ネクロアは答えた。

「まず、橋を直す順番」

勝利を祝う広間で、軍旗の下に工事の予定表が広げられた。

三つの国の地図を並べると、境界線の内側にも壊れた橋が残っていた。

ネクロアは新しい領土を数える報告書の余白に、修復が終わっていない橋の数を書き加えた。

征服は終わりの言葉ではなく、約束の始まりだった。

使節が退いたあと、ネクロアは盾を預かり、結界隊のミラに調査を命じた。

火の灯りは近づけると弱まるが、卓上の紙も水も変わらない。

ミラは盾の周囲へ小石を並べ、魔法の届かなくなる距離を測った。

「全ての力が消えるわけではありません」ネクロアは石を一つ拾い上げた。

「それなら、まだ考える余地がある」勝利の方法は、これまでと同じである必要はなかった。

ミラは盾の光が弱まった瞬間を記録した。

敵の力を恐れるだけでは、次の戦いに勝てない。

ネクロアは彼女に、魔法が使えなくなった場合の撤退経路も同時に描かせた。

ミラは白銀の盾を机から持ち上げ、裏側の小さな傷を見せた。

「ここだけ術式が途切れています」

ネクロアは強い魔法を重ねる案を消し、傷の理由を調べる班を作った。

ミラは白銀の盾の焦げ跡を布で拭こうとして手を止めた。

痕が消えれば、何が起きたかも見失う。

「この傷は残しておきます」と彼女は言った。

ネクロアは盾を箱へ戻し、研究者に見せるため封印した。

レオナルドから届いた書簡には、戦死者の家族への補償と、二度と少年を前線へ送らないための年齢制限が記されていた。

リュシアが読み上げると、ネクロアは短くうなずいた。

勝利の祝宴を求める声には首を振った。

「祝うのは、帰ってきた人たちが眠ってから」

リュシアは戦場の地図をたたみ、新しい地図を開いた。

国境の向こうには、まだ姿を見せない軍の集結地があった。

次の戦いは、今までの勝ち方を知っている相手との戦いになる。

三つの王国の使節が並ぶ席で、ネクロアは勝利の地図を広げなかった。

代わりに、三国それぞれの水路図を重ねた。

川は国境線で止まらない。

「私たちが奪ったのは王冠ではなく、壊れた道を直す責任です」

最年少の使節が顔を上げた。

「では、次に橋が壊れたら、誰が直すのですか」

ネクロアは答えを一人で決めず、三国の代表に同じ机を勧めた。

新しい地図の端には、敵の補給路だけでなく避難できる村も書き込まれた。

リュシアが理由を尋ねると、ネクロアは答えた。

「私たちの戦い方を知っているなら、次は村を盾にするかもしれない」

祝宴を断った夜、最初に動き始めたのは攻撃隊ではなく、村への連絡係だった。

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