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大魔術師ネクロア ~魔導軍団を率いる最強の魔女が大陸を震撼させる~  作者: レモンティー


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第二十七話 十万騎の軍勢が包囲された

騎士王レオナルドは残存する諸隊を集め、最後の作戦を立てた。

重騎兵の突破は失敗し、夜襲も封じられた。

魔法耐性鎧も決定打にならない。

ならば各地に散った騎兵を一斉に動かし、魔導軍の補給を断つ。

「敵の魔術師は食わずに戦えるわけではない」と王は言った。

「正面で勝てぬなら、後ろから飢えさせる」

老騎兵長オルフェンは頷いた。

「それなら我らにも勝機があります。ただし、十万騎を一か所へ集めてはいけません」

だが作戦開始の朝、各隊に届いた地図はすでに古かった。

グランベルクから延びる街道には新しい橋が架けられ、魔導軍の荷車は分散した経路を走っていた。

水場には結界が張られ、氷晶隊が泥を固めて通行を助ける。

ヴァルディアの騎兵が襲ったのは、荷車のない空の道だった。

「補給隊はどこへ消えた!」

各隊が混乱する間に、ネクロアは広い平原の外周へ工務隊を送り出していた。

「囲むのは兵士ではないわ。彼らが使う道よ」

イザークが地図に印を付ける。

川を渡る浅瀬、丘の切れ目、井戸へ向かう踏み固められた道。

そのうち三つを結界で封じ、二つを氷結で通行不能にする。

残りの一本だけは開けておく。

リュシアが尋ねた。

「なぜ一本残すのですか」

「降伏する者が出ていけるように。それから、敵の隊列がそこへ集まれば、指揮官と交渉できる」

日が傾くころ、ヴァルディア軍の各隊は中央盆地へ集まっていた。

北の峠は結界、東の浅瀬は深い霧、西の丘には魔導軍の旗。

南の道だけが通れるが、そこには武装解除のための検問所が置かれている。

「包囲されている!」

若い騎士が叫んだ。

「違う」とオルフェンが答えた。

「我らは自分でここへ集まった。敵はそうなるよう道を作ったのだ」

レオナルドは遠くの魔導軍本陣を見た。

敵の数は少ない。

だがこちらの騎兵は、馬を走らせる空間を失っていた。

「中央突破は可能か」

「可能でも、何万人もの兵を失います」

「南へ退けば」

「武器を置けば通してもらえるそうです」

包囲の内側では、馬の飼葉が不足し始めた。

騎士たちは自分の食糧を分けたが、馬は干し肉を食べない。

井戸の水をめぐって部隊同士が言い争い、軍紀が揺らいだ。

オルフェンは各隊長を回り、弱った馬を優先するよう命じた。

「戦いが終わっても、こいつらは故郷の畑を耕す」若い騎士は、敵に勝つために連れてきた馬が、帰るためにも必要なのだと初めて理解した。

魔導軍の本陣では、ネクロアが降伏の受付を増やすよう命じていた。

敵が十万なら、武器を置いた後の列も長い。

名を聞き、怪我を確かめ、水を渡す。

地味な作業の遅れが、再び争いを生む。

リュシアは各班に記録係を付けた。

盆地では、白旗を掲げる場所をめぐって小さな混乱が起きた。

ある部隊は旗を持っておらず、別の部隊は敵に近づくことを恐れていた。

リュシアは拡声魔法で手順を繰り返した。

「武器を地面に置き、両手を見せて南へ進んでください」同じ説明を何度も続けるうちに、列が整い始めた。

戦争を終えるにも、分かりやすい命令が必要だった。

軍務卿は怒鳴った。

「そんな屈辱を受け入れられるか!」

オルフェンは静かに言った。

「兵士の命と、あなたの屈辱を同じ秤に載せないでください」


その夜、盆地の各所で焚き火が揺れた。

騎士たちは鎧を脱ぎ、馬の脚をさすり、遠い故郷の話をした。

魔導軍の側では、降伏した騎兵に水を配る準備が進められていた。

捕虜の数が増えれば、食糧も寝床も必要になる。

リュシアは倉庫を開かせ、近隣の村から物資を買い付けた。

「敵に食わせるために、自分たちの備蓄を使うのですか」と若い兵が聞いた。

「生きて帰してこそ、戦争は終わるのよ」とネクロアは答えた。

オルフェンは王へ、降伏を申し出た隊の一覧を差し出した。

軍務卿は紙を奪い、「命令違反だ」と書き込もうとする。

だがレオナルドは筆を取った。

「処罰するな。各隊の負傷者数と飼葉の残量を記せ」軍務卿は目を見開いた。

王は初めて、兵の忠誠ではなく、兵が今夜を越せるかを問うた。

盆地の西端で、若い騎士が馬を引いて検問所へ向かった。

隣の隊長が「王命を待て」と腕をつかむ。

「馬は二日も水を飲んでいません」と騎士は答えた。

「このままなら明日の突撃には立てません」隊長は鞭を握り直したが、馬の鼻から落ちる泡を見て手を離した。

二人は白布を槍に結んだ。

最初の一隊が武器を置いたことは、兵の間を走る噂になった。

恐怖ではなく、帰れるかもしれないという噂だった。

レオナルドは各隊から届いた降伏の申し出を並べた。

どれも署名が違う。

命令違反として破ることもできたが、彼は一通ずつ読んだ。

「皆、同じ景色を見ていたのだな」

包囲された騎兵の列で、一人の兵が白旗を掲げようとした。

隣の騎士はその手を掴む。

「王の命令なしに降るな」

そのとき後方で馬が倒れ、荷車が塞がった。

兵は旗を掲げる代わりに馬を起こしに走った。

騎士も後を追う。

二人が戻るころ、旗を持つ者は十人に増えていた。

降伏の意思は命令ではなく、目の前で誰を助けるかという選択から広がっていった。

包囲された騎兵の中で、若い隊長は白旗を掲げるか迷った。

レオナルドの命令はまだ届かない。

彼は部下の水袋を集め、残りを数えた。

勝利を待つ時間と、生きて帰れる時間は違う。

隊長は独断で負傷者の通路を求める使者を出した。

夜、レオナルドは兵たちの焚き火の間を歩いた。

自分が来たと気づくと騎士は立ち上がろうとしたが、王は手で制した。

「座っていろ」若い兵が恐る恐る聞いた。

「陛下、我らは帰れますか」王はすぐに答えられなかった。

十万騎を率いて出陣した日には、そんな質問を受けるとは思っていなかった。

「帰すために考えている」とだけ答えた。

嘘はつきたくなかった。

盆地の外では、ネクロアが降伏の条件を書き直していた。

騎士個人の責任を問わず、武器を置けば食糧と水を渡す。

王族の処遇は別に協議する。

住民への略奪が確認された者は、出身国に関係なく調査する。

リュシアは条文を読み、曖昧な表現を直した。

「敵に伝える言葉ほど、正確でなければいけません」


翌朝、最初に降伏したのは一隊の弓騎兵だった。

隊長は弓を置き、馬の鞍を外した。

魔導軍の兵が水を差し出すと、彼は自分より先に馬へ飲ませた。

ネクロアはその様子を見ていた。

「あの人はまだ戦える。でも、戦わないことを選んだのね」それは敗北であると同時に、勇気でもあった。

盆地に残ったレオナルドは、兵が次々と南の道へ向かうのを見た。

王の権威は、彼らを死ぬまで戦わせるためのものではない。

そのことを理解するまで、彼は多くを失ってしまった。

包囲線の外に、まだ一頭の馬が残っていた。

負傷した騎兵は戻ろうとし、仲間に止められた。

魔導軍の救護係が綱を持って近づくと、彼は槍を置いた。

降伏の最初の合図は、旗ではなく手綱だった。

負傷馬の手綱を引く兵は、敵の救護係が馬の名を呼ぶのを聞いて驚いた。

鞍の裏に彫られた名前を読んだのだ。

「名前があれば、引き渡す相手を間違えない」

救護係はそう答えた。

包囲の輪の外で、ミリナは馬のための水桶を増やした。

兵士が驚くと、彼女は答えた。

「馬が倒れれば、負傷者も運べません」

降伏を待つ時間を、ただ敵を苦しめる時間にしない。

その判断が救護所の仕事を増やした。

包囲された騎兵の中に、負傷した馬を置いて行けない兵がいた。

魔導軍の救護係は彼の槍を預かり、手綱を一緒に引いた。

兵は問うた。

「なぜ敵の馬まで」救護係は息を切らしながら答えた。

「置いていけば、ここで死んでしまうから」

騎兵は救護係へ手綱を預けたあと、しばらく自分の手を見つめていた。

敵に槍を渡した手で、今度は馬の首を撫でる。

遠くで撤退の角笛が鳴ったが、彼は走らなかった。

馬が立てるまで、ここにいると決めたのだ。

レオナルドの本陣に届いたのは、突破成功の知らせではなかった。

「東の隊が動きません。負傷した馬を置けないと」王は怒鳴ろうとして、地図に刺した旗の数を数え直した。

十万騎という数字の中には、走れない馬も、帰る村を失った兵も含まれていた。

オルフェンは王の前で兜を脱ぐ。

「陛下、包囲を破る道はあります。ただし、全員は通れません」レオナルドは退路に印をつける筆を置いた。

「全員が通れないなら、それを勝ち筋とは呼ぶな」初めて王は、敵を倒すためでなく兵を帰すための命令を書いた。

だが、命令を持った伝令が戻ってきた。

「西の三隊はすでに突撃しています。王旗を見失ったままです」

レオナルドは立ち上がった。

自分が退却を決めても、十万騎は一度には止まらない。

しかも西の隊を救おうと主力を動かせば、包囲の狭い出口が塞がる。

王は兜を取り、オルフェンへ渡した。

「私が前へ行く。あの者たちが聞くのは、まだ私の声だけだ」

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