↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大魔術師ネクロア ~魔導軍団を率いる最強の魔女が大陸を震撼させる~  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/50

第二十五話 騎士王の秘策、魔法耐性の鎧

二度の敗北のあと、レオナルドは王都から運ばせていた箱を開かせた。

中には黒銀色の鎧が並んでいた。

胸当てに埋め込まれた鉱石が、灯火の魔法を吸い込むように鈍く光る。

「魔法耐性鎧。王家の秘蔵品です」と軍務卿が告げた。

「炎と雷の直撃を弱めます」

「何領ある」

「八千領。近衛騎兵の主力に行き渡ります」

オルフェンは鎧を持ち上げた。

通常のものより重い。

馬の負担も大きい。

「魔法を弱めることと、地面を滑らなくすることは違います」

レオナルドは頷いた。

「だから氷のない場所を選ぶ。西の石灰丘だ。岩盤なら凍らせにくい」

鎧を試験した鍛冶師は、王の前で小さな炎を手袋に当てた。

黒銀の鉱石が淡く光り、熱を吸い取る。

「これなら火炎魔法も防げます」だがオルフェンは手袋の内側を触り、眉を寄せた。

「吸収した熱はどこへ行く」鍛冶師は答えに詰まった。

鎧は魔力を蓄え、限界を超えればひび割れる。

王はその欠点を聞いたうえで、短時間の突破に使うと決めた。

秘策とは、万能の道具ではない。

欠点を承知で賭ける一手だった。

魔導軍側でも、セリスは同じことを考えていた。

敵の鎧は魔法を消しているのではない。

別の形に変えているだけだ。

彼女は古い研究帳を開き、吸収術式の符号を調べ始めた。

レオナルドは黒銀の鎧を見つめ、王家の鍛冶師へ手紙を書いた。

『欠点を隠さず報告せよ。

私は知らぬまま兵を危険に晒したくない』。

鍛冶師はその文を読んで胸をなで下ろした。

これまで王に不都合なことを伝えれば叱責されると思っていた。

だが戦場の現実は、都合のよい報告では変えられない。

鎧の限界を知ることが、次の命を守るかもしれなかった。

騎士王は初めて、ネクロアが得意とする平原を避ける決断をした。

一方、魔導軍の斥候が黒銀の鎧を目撃した。

「火の小魔法を受けても、焦げ跡が残りませんでした」

ダリオは眉を寄せる。

「また防御術式か。グランベルクを思い出すな」

禁呪隊長セリスが報告を調べた。

「鎧が魔力を吸収している可能性があります。ですが吸収量には限界があるはずです」

「限界を探すために兵を犠牲にしないで」とネクロアが言った。

「まず、何を守れて何を守れないのか確かめる」

耐魔法の鎧を拾ったダリオは、金具の内側に擦り傷を見つけた。

鎧は魔法を弾いても、着る者の肩に重さを残す。

彼は騎士の歩幅を測り、戦場の泥の深さを調べた。

「無敵なのは鎧だけだ」ネクロアはその言葉を聞いても、騎士を泥に沈める計画には同意しなかった。

軍議の終わり、ネクロアは黒銀の鎧の絵を壁に貼った。

「これを見たら逃げろ、ではないわ。何が分かっていて、何が分からないかを覚えて」術者たちは一人ずつ質問を出した。

雷にも耐えるのか。

連続攻撃ではどうか。

馬の脚は守れるのか。

答えのない問いが増えるほど、彼らの考えは深くなった。

強い敵が現れたとき、恐怖を知識に変える。

それが魔導軍団の戦い方だった。

レオナルド自ら先頭に立つ。

彼は剣を掲げた。

「今日こそ魔術師の軍を突破する!」

八千騎が坂を下り始める。

紅蓮隊の火球が命中したが、鎧の表面で炎が弾け、威力が散った。

「効かない!」と若い術者が叫ぶ。

ダリオは隊列を崩させなかった。

「合図を待て! 勝手に二射目を撃つな!」

ネクロアは鎧の光り方を観察した。

火球が当たるたびに鉱石の表面に細い筋が走る。

吸収はしている。

しかし魔力を消しているわけではない。

「氷晶隊、攻撃を止めて。工務隊は尾根の横を調べて」

「敵が来ます!」

「分かっている。だから結界隊に任せる」

ミラの結界が重なり、先頭の騎兵を押し返した。

騎士たちは鎧を信じて突撃を続けたが、魔力を吸収する鎧も、結界が作る物理的な障壁を消すことはできなかった。

レオナルドは目を見開く。

「鎧は無敵ではないのか」

近衛騎兵の一人は、鎧の胸当てに家族の紋章を刻んでいた。

炎が当たっても熱くならなかったとき、彼は勝利を確信した。

ところが結界の前で馬が立ち止まると、重い鎧はむしろ負担になった。

「守られているのに進めない」彼は初めて、装備の強さと戦場での自由が別のものだと知った。

ネクロアはその兵を遠眼鏡で見て、術者に攻撃を控えさせた。

「鎧の内側には人がいるわ」ダリオは深く頷いた。

以前の彼なら、敵が固まった瞬間に最大火力を撃っただろう。

だが城塞で学んだのは、破壊しない勝ち方もあるという意味だった。

「無敵の鎧などありません!」オルフェンが近衛騎兵へ叫ぶ。

「馬を引け。尾根に寄るな!」だが八千騎の前列は結界に押し返され、後列はまだ坂を下っていた。

ネクロアは敵の鎧に細いひびが入るのを見た。

魔力を吸収できても、重さと速度は消せない。

イザークが石灰丘の地層図を差し出す。

「尾根の外側だけなら、沈下させられます。ただし撤退路を先に造る必要があります」ネクロアはうなずいた。

「道を開いてから、足場を変える」次の戦いは、鎧の強さでは決まらない。

鍛冶師の報告書は、黒銀の鎧の欠点を隠していなかった。

吸収できる熱と魔力には上限があり、重さは馬の疲労を早める。

だが軍務卿は「勝利に水を差す数字」と言って、その頁を封筒の奥へ押し込んだ。

若い書記官は封筒の口を見つめた。

王の命令を覆す権限はない。

それでも彼は、同じ数値を補給担当へ写し送った。

勝敗を決める情報が、剣ではなく一枚の紙に載っていることを知っていたからだ。

耐魔法の鎧をまとった騎士が、炎の壁を無傷で通り抜けた。

歓声が上がる。

だがその直後、馬の蹄が砕けた石を踏み、騎士は落馬した。

レオナルドは鎧の成功を祝う報告を止めさせる。

「鎧が勝ったのではない。馬がまだ負けていないだけだ」

工兵のオルフェンは蹄鉄の交換を提案したが、数万騎分は間に合わない。

王は少数の精鋭だけを先行させる決断を下した。

鎧の秘密兵器は、軍全体の足並みを崩し始めていた。

イザークは石灰丘の図面に赤い印を付けた。

崩せる場所と、崩してはいけない場所。

赤い印の外には村へ続く地下水脈がある。

「ここを壊せば、村の井戸が枯れます」ネクロアは印を一つ消させた。

最短の勝利を選ばないことで、作戦は複雑になる。

だが勝ったあとに住民の暮らしを壊すなら、征服の意味はない。

レオナルドは黒銀の鎧を叩いた。

魔力の衝撃は通さない。

だが膝をついた従騎士の息切れまでは防げなかった。

「鎧を替えろ。先に水を飲ませろ」その命令に、近衛は初めて王の焦りを感じた。

魔法耐性の鎧をまとった騎士が炎を抜けた。

魔導軍の若い術師は慌てて二発目を放とうとする。

ネクロアはその杖を下げた。

「同じ答えを強くしても、違う問いには届かない」彼女は鎧の継ぎ目ではなく、騎士が踏む橋板を見た。

後方の書記官は、出撃した八千騎の名簿を控えていた。

名の隣には、帰還を待つ家族の町も記されている。

王国の兵が何人倒れたかではなく、誰が帰っていないかを確かめるためだ。

リュシアは紙を閉じ、「勝ってから照合するのでは遅い」と伝令に言った。

レオナルドは黒銀の鎧を叩き、傷がないことを確かめた。

だが斜面の下では馬の蹄が小石を踏み外している。

鎧の強さと進軍できることは別だった。

彼は初めて、足元の報告を求めた。

レオナルドは工兵の杭を狙うよう弓兵へ命じかけ、手を止めた。

そこには担架も置かれていた。

彼は斥候を出し、杭の意味を確かめるまで射撃を待たせた。

レオナルドは鎧を叩き、衝撃が伝わる音を聞いた。

オルフェンは言う。

「魔法を止めても、地面の揺れまでは止められません」

騎士王は一瞬黙り、鎧の強さを誇る報告書の余白に、初めて「馬の退路」と書いた。

八千騎は結界の前で停止した。

レオナルドは剣を下ろさず、斜面の下で魔導軍の工兵が動くのを見た。

敵は攻撃してこない。

石を測り、杭を打ち、道を整えている。

「何を企んでいる」オルフェンは地層を見つめた。

「陛下、あの者たちは鎧を狙っておりません」レオナルドは答えなかった。

レオナルドは騎兵に待機を命じた。

馬の蹄の下で、乾いた小石がひとつ転がった。

オルフェンは小石を拾い、盾の内側に押し当てた。

魔力を弾く鉱石も、石の重さまでは消せない。

レオナルドは彼の手元を見て、盾の角度を変えるよう命じた。

そのわずかな動きさえ、対岸の観測手には記録されていた。

レオナルドは八千領の耐性鎧を見渡した。

魔法を防ぐという触れ込みの鎧は、倒れた騎士を自力で立ち上がらせない。

半数を前線へ送ると決めると、軍務卿は「戦力が半減します」と訴えた。

「最初から半分は動けなかったのだ」

王は試験場で膝をついた騎士へ手を貸した。

騎士は立ち上がれたが、明日の戦場で同じ手を差し出せる者がいるとは限らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。