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大魔術師ネクロア ~魔導軍団を率いる最強の魔女が大陸を震撼させる~  作者: レモンティー


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第十二話 城壁の高さ三十メートル、厚さ十五メートル

夜明け前、城塞の外壁で最初の角笛が鳴った。

グランベルクの守備兵たちは射撃孔に弩を据え、堀の向こうの魔術師軍団を見下ろした。

「三千人でこの城を落とすつもりか」

年配の弩兵が笑った。

隣にいた新兵は笑わなかった。

昨夜、見張り台から魔術師たちの青い結界を見たからだ。

谷を渡る冷たい風の中で、薄い光の壁だけが揺れずに立っていた。

ネクロアの天幕には、城塞の断面図が置かれていた。

外壁三十メートル。

基部十五メートル。

中壁二十四メートル。

内壁十八メートル。

三重の門はそれぞれ角度をずらし、侵入者が一直線に突破できない構造だ。

「外壁を越えても、そこは殺し間です」

リュシアが指で狭い通路を示した。

「上から矢を浴び、左右から槍で押し戻されます」

「普通の軍ならね」

ネクロアは図面の端を軽く叩いた。

「でも、私たちが調べるべきは壁の厚さじゃない。なぜ百年も崩れずに立っていられるか、よ」

「岩盤が強固だからでは?」

「それもある。けれど城壁の内部に魔力の流れがある。補修した石の年代が違うのに、流れは途切れていない」

禁呪隊長セヴランが身を乗り出した。

「古代式の連結陣ですか」

「おそらく。石を一つの巨大な構造物として扱っている。局所的に壊しても、周囲が衝撃を受け持つ仕組み」

「ならば、魔法砲撃は無駄に?」

「無駄かどうか、確かめる価値はある。ただし街へ向けては撃たない」

最初の調査は戦闘ではなく測量だった。

氷晶隊の魔術師が地面に霜の線を引き、紅蓮隊が小さな光球を飛ばして城壁の凹凸を照らす。

結界隊は測量班を守るため、弩の射程外に半円形の防壁を張った。

城壁の上から矢が放たれた。

一本、十本、百本。

青い結界に触れた矢は勢いを失い、地面に落ちる。

「撃ち返しますか!」

若い紅蓮隊員が叫ぶ。

「まだ。相手の矢の届く距離を記録して」

リュシアの命令は短かった。

魔術師たちは戦いたい気持ちを抑え、飛来する矢の角度と距離を書き留めた。

彼らが以前の王国軍で働いていた頃なら、弓兵の前に立たされ、敵の矢を受けながら詠唱させられていただろう。

今は違う。

魔術師自身が、戦い方を決めていた。

城内では工兵長イザークが壁の振動を測っていた。

「敵は撃ってこないのか」

総督ゲルハルトが不機嫌そうに尋ねる。

「測っているようです」

「何を」

「城壁の弱い箇所、射撃孔の配置、風向き……おそらく、魔力の流れも」

ゲルハルトは鼻を鳴らした。

「城を見ただけで攻略できるなら、百年の歴史などない」

「閣下。相手が城壁を破ると決めつけてはいけません」

「城壁を破らず、どう入る」

「それを考えているのが、敵の大魔法使いです」

ゲルハルトは机を叩いた。

「不安を煽るな。全軍に防御配置を徹底させろ」

イザークは退出しながら、もう一つの命令を胸にしまった。

古い防御陣の記録を、今夜までに調べる。

総督が許可しなくても、城を守るには必要だった。

測量係が城壁の影の長さを記したとき、見習いは疑問を口にした。

「昨日と同じ高さなのに、影が短い」石壁の上部に増築された張り出しが、足元の観測を狂わせていた。

ネクロアは攻撃位置を二十歩下げた。

たった二十歩で射程は変わり、敵の投石が届く場所も変わる。

数字を確かめる仕事が、最初の負傷者を減らした。


昼過ぎ、ネクロアは小さな試射を命じた。

紅蓮隊の十人が、城外の無人の岩場に向けて火球を放つ。

岩が割れ、赤い破片が散った。

続いて同じ十人が、外壁の人影のない石組みに向けて、威力を絞った火球を撃つ。

轟音が谷に反響した。

煙が晴れると、壁には煤がついているだけだった。

「防がれた……」

ダリオが呟く。

「壁が無傷なのではないわ。衝撃が逃がされている」

ネクロアは地面に膝をつき、掌を当てた。

かすかな振動が足元を通り、離れた場所で消える。

「外壁の右側に当てた衝撃が、中壁の左へ流れている」

セヴランが目を見開いた。

「それなら、一点に千人で集中攻撃しても?」

「術式の許容量を超えれば壊せるでしょう。でも周囲の建物まで巻き込む。しかも、相手の思うつぼよ」

「どういう意味です」

「守備兵がいる城壁に大火力を集中すれば、私たちは守備兵を殺してしまう。敵はそれを見越して、壁の上に人を並べている」

ダリオは歯を食いしばった。

「人間を盾にしているのか」

「自分たちの兵士をね」


その日の夕方、城門の前に三台の荷車が出てきた。

荷車には、没収された穀物が積まれていた。

その横を歩くのは、拘束された商人たちだ。

手首を縛られ、弩兵に囲まれている。

城壁から声が響いた。

「魔術師ども! 城を撃てば、こいつらが先に死ぬぞ!」

紅蓮隊がざわついた。

リュシアが杖を上げ、全員を静める。

ネクロアは一歩前に出た。

「その人たちを解放しなさい。街道の通行権について話し合う用意がある」

返答は嘲笑だった。

「話し合いたければ、杖を捨てて門まで来い!」

ネクロアは商人たちを見た。

一人が彼女に向かって小さく首を振った。

罠だと伝えようとしている。

「分かったわ」

ネクロアは杖を地面に立てた。

「今日は攻撃しない。水と食糧をその人たちに渡して」

城壁の兵士が戸惑う。

敵の大魔法使いは怒鳴らず、脅さず、ただ要求を繰り返した。

城内の井戸番は、水桶の底に白い砂が混じっているのに気づいた。

工兵長イザークは石縁に手を当て、城壁への試射から少し遅れて振動が届くことを確かめた。

「衝撃が地下へ逃げている。しかも、井戸の下へ」

総督ゲルハルトは報告書を一瞥した。

「敵の小細工だ。城壁の術式へ魔力を追加しろ」

「追加すれば地下の隔壁が耐えられません。水源が崩れます」

「守り切れなければ、水など残しても意味がない」

イザークは署名済みの測定帳を抱えて退出した。

命令に背けば職を失う。

従えば、街の飲み水を失う。

彼は井戸番にだけ告げた。

「今夜は水を汲むな。私が責任を取る」

夜半、工兵長イザークは井戸の縁で採取した白い砂を、指先でつまんだ。

銀砂――地下の封印にしか使われない鉱物だった。

城壁への小さな試射が、城の奥深くまで伝わっている。

総督は防御魔力の増強を命じたが、その命令を実行すれば地下隔壁が先に砕ける。

「水源を止めなければ、街の人間が飲む水ごと失われます」イザークの進言を、監察兵は聞き流した。

「技師は命令を守れ」

イザークは井戸番にだけ水汲みの中止を告げ、封印の断面図を白布へ描いた。

城の外へ知らせる方法を探すためだった。

だが射撃孔へ近づいたとき、背後で鎧が鳴る。

「何を隠している」

振り返った彼の指には、銀砂が付着していた。

監察兵の視線がそこへ落ちる。

「その粉は、地下の禁区からしか出ないはずだ」

イザークは白布を握り締めた。

今ここで図面を渡せば、総督は危険を隠して攻撃を続けるだろう。

渡さなければ、反逆者として処刑されるかもしれない。

城壁の向こうで、魔導軍の次の試射を告げる角笛が鳴った。

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