29話 以上、尾根ギアしますっ!
ちょ、ちょっとでも修復しなきゃ!
慌てふためいて中心部分に魔力を注入するけど、勇者は待ってくれない。
「食らいやがれ!」
大声を出して振り被った勇者に対して、左右のルートリアとプレシオが歯車の陰から出る。
ルートリアが魔力を伝導させないままの剣で、斜め上段から袈裟切りを仕掛ける。
プレシオは、真後ろから大上段に大きく弧を描く軌道でハルバートの斧の部分を振り、両断を仕掛ける。
勇者を挟み込む形で攻撃をしたのだ。
ところが。
勇者がニヤリと笑った。
「待ってたぜ! 槍をブッ壊してやる!」
なんと、勇者の歯車に対する振り被りはポーズだけで、最初から2人の攻撃を誘っていた。
あらかじめ想定していたからか、敏捷や回避スキルが高いからか、ルートリアの袈裟切りを屈んで躱しながらプレシオの方に向くと、電撃がほとばしる剣を下から上に払うように振り上げた。
振り下ろされたハルバートの槍先に勇者の剣が当たり、ハルバートの刃の部分が大きく欠けた。
プレシオはハルバートが弾かれた衝撃で体を後ろにのけ反らせながら、後方で体勢を立て直す。
勇者の反応スピードが速くて大ぶりなハルバートでは厳しそうね。
プレシオも同じように感じたのか、すぐに槍尻をトンと床に突く。
また、あの不思議な槍が形態を変えた。
次はどんな凄い槍になるのか。
私は『尾根ギア』に魔力を込めながら様子を見守った。
だけど変化した槍は何の変哲もない、町の衛兵が使ってそうな貧相な見た目だった。
ただ、感じた事の無い異常な禍々しさがあった。
「神に近い男を倒すにはさ、神の息子を殺した槍だろ?」
神の息子? 地球でいうイエス様かしら?
って事はあれ、……ロンギヌスの槍!?
「な、槍が変わりやがった! フン、そんなみすぼらしい槍が俺の宝剣に適うかよ!!」
余裕そうに帯電した剣を構えた勇者に対して、繰り出されたプレシオの連続突きは凄まじいものだった。
およそ人とは思えないスピードの多段突きに勇者がひるむ。
流石の勇者も、急所こそ躱すか剣で逸らしているけど、両腕にいくつもの傷が増えていく。
見た目に反して切れ味が凄い。
追加効果があるのかダメージが増えている感じだ。
「後ろだろ? 舐めるなぁああ!」
槍の連続突きに翻弄されるも、後ろを警戒していた勇者がルートリアの下段切りを足でけり上げた。
そこへプレシオから繰り出された、勇者の上半身を狙う渾身の一突き!
勇者はまるでその攻撃を分かっていたかのように、剣を振り上げて槍の柄に直撃させた。
勇者の剣に槍の柄が切断され、切り離された槍先は遠くへ吹っ飛んでいった。
さらに勇者がプレシオへ一歩踏み込むと、振り上げた剣の刃を頭上で一度止め、斜め下向きに袈裟切りを仕掛ける。
これになんとか反応したプレシオは避けるでも受けるでもなく、なんと勇者めがけてタックルした。
懐に入る事で勇者の剣げきを回避したけど、物凄い勢いで振り下ろされた剣の鍔がプレシオを襲う。
「うぐあっ」
剣の鍔で肩をしたたかに打たれて、プレシオは地面に叩きつけられた。
「よーし、まず1匹!」
今度は剣の刃を下げて持ち手を上に引き上げ、槍の様に剣先をプレシオに定める。
「させるか!」
ルートリアが横薙ぎに剣を払って勇者の胴体を狙った。
「残念! 分かってんだよ!!」
勇者はこれすら誘っていたのか、刀身を上から下げた状態でルートリアの剣げきを受ける。
互いの剣が激突する瞬間、ルートリアが魔法剣を発動させた。
ルートリアの青白く光る魔法剣が、電撃を帯びる勇者の剣と激突。
青い光と電気のスパークが火花の様に散って、激しい鍔迫り合いになる!
ルートリアはきっと今まで、魔法剣である事を隠して戦っていたのね。
それで今ここぞで魔法剣を発動させ、勇者の剣を折りにいったんだ。
だけど勇者の剣も雷魔法による帯電で魔法剣状態になっているみたいで、互いに折れることなく鍔迫り合いとなる。
ルートリアの顔が歪んだ。
能力値を魔法で限界まで上げた勇者の腕力に押され始めている。
どんどんルートリアの魔法剣が彼の方に傾き近づいていく。
このまま行けば自分の魔法剣で彼の上半身が両断される!
私は神器に魔力を流して修復を続けながら、一秒でも早く言えるように準備していた言葉を口に出す。
「『宛先』は勇者デグラス。『件名』は……」
件名を言い掛けたところで、勇者が力の向きをずらしてルートリアの魔法剣を横方向に弾き飛ばし、そのまま流れるような太刀筋で上段から具現化した歯車へ切り掛かった!
ガキンッッ!!!!
激しい音を立てて勇者の剣が歯車にぶち当たるが、さらにそのまま歯車を真下に両断しようと奴は腕力だけでなく体重ものせる。
こ、このままじゃ壊されちゃう!!
目に見えてヒビの増える歯車を見て大慌てで魔力を注ぐ。
両手を『尾根ギア』の白い石に向け、多分今まで生きてきて一番全力で魔力を注ぐ!
「『け、件名』は、わ、私の……」
魔力を注ぐのを止めたら今にも歯車たちが壊されそうで、と、とても願いを言う余裕がない!
ヒビは何とか増えなくなったけど、勇者はまだ諦めていなかった。
剣を持つ腕は筋肉が肥大化する。
「うぉぉおおおお!!!!」
ありったけの力を振り絞ろうと雄たけびを上げた。
だめ!
またヒビが増えて……!
そのとき不意に予期しない声が聞こえた。
『ウィンドカッター』
勇者が衝撃で体勢を崩した。
いつの間にか回り込んでいたファルの亡骸からウィンドカッターが放たれ、勇者の背中に傷を負わせたのだ。
今の一撃で勇者の攻撃は急に勢いを失った。
バチバチとスパークしていた勇者の剣の帯電が消えてなくなる。
勇者の剣に備わっていた、あの狂ったほどの攻撃力が失われていくのを私はハッキリと感じた。
い、今だ!
勇者を仕留めるチャンスは今をおいてない!!
私は、あと少しの所で止まっていた台詞をはっきりと声に出す。
「『件名』は、私の下僕になる事!
以上、尾根ギアしますっ!」
私は勢いよく頭を下げた。
私が言い終えた直後、勇者の足元から眩いばかりの白い光の柱が上に向かって立ち昇った。
その光景は邪悪な者が聖なる力で浄化されている、まるでそんな風に見えた。
勇者は次第に穏やかな顔つきになると、構えていた剣を静かに鞘に納めてから私に向かって跪いた。
「……ご主人様、何でも言いつけて欲しい」
具現していた歯車たちは役目を終えたように消失して、真ん中にあった赤茶色の歯車がゴトリと床に落ちた。
「お、終わった……」
私は緊張の糸が切れたように床にへたり込んでしまった。
「や、やったか……?」
ルートリアがゆっくり私に近づく。
「た、倒したのか?」
床に倒れていたプレシオは、勇者に打たれた左肩を右手で抑えながらゆっくりと顔を上げる。
「ええ、決着したわ」
私は二人に勇者との戦いに勝利した事を伝えた。
プレシオは痛みに耐えながらも、やったなって感じで拳を突き出して私に笑顔を返してくれる。
壇上にいたサラミとスモークが下りてきた。
スモークが離れた所にいた戦士の元へ行き、上着をロープ代わりにして縛り上げる。
サラミは苦痛に顔を歪めるプレシオに肩を貸して立たせた。
「か、肩の骨が折れていますわ」
プレシオのダメージに気付いたサラミが、自分の事の様に痛そうにした。
あの後、皆がアサシンに切られた護衛騎士の手当てをしてから、殺されてしまった王様の元に集まったんだけど、私とベクタードレインだけは一目散に女神さまの所に行った。
女神様から蘇生魔法を授けてもらえば、王様を蘇らせる事が出来るかもしれないからだ。
「あれぇ? 私が使えるのは最上級治癒魔法までなのよぅ。そもそも蘇生魔法なんて存在しないわぁ。創造魔法で新たに肉体を創造すればあたかも蘇生したようになるかもだけど……。創造神様がそんな事も知らないなんておかしいわぁ。あなた、創造神様じゃないのかしらぁ?」
「私は創造神様に体と命を授けてもらっただけです」
「でもぉ、魔力量も創造神様と同じだしぃ、同じ感じがするのよねぇ。あたかも体だけが創造神様みたいだわぁ」
「あ、転生するときにこの神器を貸してもらったのですけど、そのとき創造神様が、普通に創造する肉体じゃ神器に必要な魔力量が全然足らなくて神器が発動できない。発動できないと神器を貸す意味がないし、だからと言ってちょうどいい体はこれしかないし、とかぶつぶつ言ってました」
「納得しましたわぁ。つまりあなたの体は創造神様の体、現身を借りているのですわぁ」
ま、まじで!!
私の体、創造神様のものだったの!?
道理でこの阿呆みたいに重い神器を、平気で振り回せると思ったわ。
他にそんなこと出来るの、邪神に作られたルビカンテくらいだし。
あと、この宇宙の帝王みたいな魔力量。
普通の人間じゃありえないものねぇ。
さっきファイアーボールを背中に食らったのに、全然平気でちょっとヒリヒリするくらいだし。
それにしても体まで借り物だったなんて……。
私の第二の人生は、借りもの人生だわ。
ああ、気付いちゃったから、もうおちおちケガもできないじゃない!
どうしよう、背中を少しやけどしちゃったんだけど……。
「ねぇ。用がないなら帰ってもいいかしらぁ?」
ああ、女神様が帰っちゃう。
創造魔法で王様を復活させられないか、聞き出さなきゃ!
するとベクタードレインが私の代わりに声を上げた。
「あの、創造魔法で死んだ人を創造したら、それは死んだ人を復活させた事になるのでしょうか?」
「いくら魔力があってもぉ、創造魔法は創造神様にしか使えないのよぉ。まあもし創造魔法が使えたとしてもぉ、死んだ人の肉体はそのままそこに残って別に新しい体が出現するわぁ。魂は後から勝手に体に宿るものだから、新しい体には別の魂が宿るわねぇ」
それを聞いたベクタードレインはがっくりとうなだれた。
どうやら彼は蘇生魔法に代わるのではと、私と同じで創造魔法に最後の望みを掛けてたみたいだ。
だけど、死んだ人を創造しても別の魂が体に入って、よく似た他人になってしまうと判明した。
つまり王様を生き返らせる事は出来ないのだ。
私はとぼとぼと王様の亡骸まで歩くと、冷たくなった手を握っていつまでも泣いた。
次回、「最終話 私はもう貴方の事が好きなのよ」お楽しみに!




