最終話 私はもう貴方の事が好きなのよ
結局あの後、女神様に頼み込んで最上級治癒魔法を私に授けてもらった。
消費魔力量が膨大で、普通なら大勢の魔術師でようやく発動できる大魔法らしいんだけど、私なら1人で即発動だそうだ。
治癒魔法も他の魔法と同じで適性が必要だそうで、通常なら診断宝珠が桜色の癒し系じゃなきゃ使用できないらしい。
私の場合は白だった。
白は全ての色が合わさっているそうで、治癒魔法も問題なく使用できる。
ちなみにベクタードレインの属性は闇なので、女神様からはどんな魔法も授かることはできないと分かった。
王家の人たちは、国葬の準備と今後の国家運営を検討するため忙しくなった。
亡くなったヘラルド王は、これから起こる戦争を食い止めるため犠牲になったとして、名誉ある死を遂げた事にされた。
次の王様はカストラルだそうだ。
勇者の仲間たちは反逆者として裁かれ処刑された。
王様を殺害し、もしくは共犯したのだから当然の流れといえる。
彼らを抱え込んで騒動の切っ掛けを作ったハリオス侯爵とレグハルツ将軍は、あの戦闘で他の貴族と一緒に逃げ出していたけど、自宅に国軍を差し向けられて捕縛された。
2人とも貴族という事もあり、処刑は免れたものの終身刑になり牢屋暮らしになった。
魔族との戦争を間近に控えるこの状況で王様を失った混乱が少なからずあり、国軍の立て直しも必要なことから、戦力は魔族軍を迎え撃つだけ特化する防衛優先となった。
そして、今回の戦争の発端となった勇者デグラスを下僕にできたので、開戦回避を最優先として特別チームの編成を行い、勇者を魔族領へ連れて行って事情の説明と謝罪をする事になったとルートリアに聞かされた。
あの事件の後も、皆してお城の客室に泊まらせてもらってるのだけど、急遽ルートリアが皆を広い部屋に集めて特別チームの話をしたのだ。
もちろん下僕の主である私が行くしかないのよね。
つまり謝罪行脚の旅だ。
でも訪問先は魔族領。
今の魔族領は、まさに人族へ戦争を仕掛けようとしている混沌とした状況だわ。
「ねぇ、ルートリア。これってやっぱり冒険者パーティ『自由の剣』のミッションなのかな?」
「人族の代表として国家をあげて訪問するのは、戦争間近のこの状況では難しい。やはり我々『自由の剣』が特別チームとして、スピード優先で魔族領を訪れる必要があると思う」
彼の説明を聞いたプレシオが頷いている。
「やっぱりさ、状況に応じた臨機応変な対応と交渉力で乗り切るしかないだろう」
肩の骨折を最上級治癒魔法で治してあげたので、すっかり元気になっていて同行する気満々だ。
「魔族領に行くなら私がご案内いたしますよ。邪神様の神殿に行けばファル様を直してもらえるかもしれませんし」
ベクタードレインは本当にいい魔族だ。
「潜入や交渉なら私の固有魔術『赤い情報操作』がお役に立てるかもしれませんわ」
エレガントなロングスカートの冒険者服に着替えたサラミは、自分も皆の役に立ちたいと立候補してくれた。
「ファル様のためなら、ま、魔族領だって、俺は行きますよ!」
スモークは多少腰が引けているけど、大好きなファルのためならとやる気を見せている。
よく聞いたら彼は盗賊のような調査・潜入が専門だそうだ。
「ありがとう皆! でも、魔族領に行くのは謝罪行脚なのよ。勇者を魔王に土下座させて、私たちも謝って戦争を回避するだけだから」
不意に後ろから肩を叩かれた。
「ごっ主人っ! 俺が居た方がぁああ、安心だろぉぉ? そうだろぉぉお?」
「ええ!? ルビカンテも一緒に来てくれるの? あなた、下僕は辞めていいよって言ったよね?」
何故か私の元から離れずに、ニタアといつもの気味の悪い笑みを浮かべている。
「俺ぁよおお!! 強ええ奴に従うんんだぁああ」
つまり私は悪魔に強さを認められたと……。
まあ、創造神様の現身じゃ、悪魔が認めても仕方ないか。
もう1人の悪魔であるファルは、女神様から授かった最上級治癒魔法で傷だけは治したので、黒い羽根も元に戻って見た目はすっかり復活した。
普通なら死んでしまうと治癒できないらしいけど、なぜかファルの場合はできた。
やっぱりファルは普通の生き物とは違うみたい。
たぶん邪神の身体が分け与えられてるからかな?
でも意識というか魂が無くて動けないので、ベクタードレインに操作してもらっている。
新調した青いドレスがとても綺麗よ、ファル。
絶対に復活させてあげるからね。
結局、皆一緒に魔族領へ行ってくれる事になった。
ありがとう。
仲間ってこんなに素敵なんだ。
全く人の事を信じられずに浮浪者をしていた私に、かけがえのない大切な仲間が出来た。
転生して18年、私は本当の意味でやっと生まれ変われた気がした。
「ねぇ?」
私は後ろを振り返り、腕を縛って拘束している勇者デグラスに話し掛けた。
「あんたと私、辿った運命はまるで違ったわね。全然違う結果を招いたのは、たぶん仲間の違いだと思うのよ」
「ご主人様、そりゃ違うんじゃねえ!? どんな奴が仲間になるかの前によ、そいつの性根が先にありきだと思うぜ?」
あなた自分の事がよく分かってるのね。
自身の現状を、処刑された仲間のせいにしなかった所だけは褒めてあげるわ。
出発は明日の朝になったので、今晩までにやらなくてはいけない事がある。
告白してくれた2人への返事だ。
夕方、自分の屋敷へ戻ろうとするプレシオを掴まえて、私の部屋に招き入れる。
「プレシオ。あのね、あのときの答えなんだけど……」
「い、いや、いい。分かってるからさ、言わないでくれ。見てて気付いたんだ。レイナの目にはさ、俺は映ってないんだよな」
そう先に言われてしまうと、伝えようと覚悟していた言葉が出なくなってしまう。
「私ね、勇者とやり取りの最中に自覚したの。あの人の事が好きだって」
「だよな。今回はあいつに負けたくなかったんだけど……。でもさ、結構勝ってる事もあるんだよ、ほら身長とかさ! でも今回は惨敗かな」
彼は笑って場を和ませてから、屋敷に戻って行った。
プレシオは、私がルートリアを好きだって気付いてた。
あの日、庭園でプレシオに告白されて、たぶんそれで私は、自分が誰の事を好きなのか初めて意識したんだよ。
ありがとうプレシオ。
こんな私のために魔族領にも同行してくれる貴方に感謝してる。
私は扉を出て歩いていくプレシオの後ろ姿を見送った。
そんな感じでルートリアへの返事に気合いを入れていたのに、彼ったら思わぬ事を言い出した。
「私は自分の力の無さを痛感した。今のままではレイナにはとても釣り合わない」
「え? え? 私の事を娶るって言ったじゃないのよ」
夕食の後、話があると彼を部屋に呼んで緊張して挑んだのに、答えを言う前から彼の反応が想定外だった。
「貴女への気持ちは変わらない。だが私が成長せずに貴女と婚姻する事は、死んだ父上が良しとしないだろう」
「あのねぇ、私はもう貴方の事が好きなのよ。この気持ちはどうしたらいいのよ!」
私が勢い余って彼に好きだと言うと、真面目ぶってた彼の表情が緩んだ。
「……よかった。実は良い返事がもらえるかどうか不安だった。レイナはこんなに魅力的だから」
「あ、あ、ありがと」
急に甘い雰囲気に変わったので、顔から火がでると思うくらい恥ずかしくなった。
「もちろん私も貴女が好きだ。だが、婚姻はちょっと待って欲しい」
「それは逆にありがたい、かな。むしろすぐ結婚する方が困るっていうか……」
正直、ルートリアと恋人同士の時間を過ごしてみたかったというか、いちゃらぶしてみたかったというか……。
しょうがないでしょ!
前世でも恋人がいなくて、二度目の人生で初めて恋人ができたと思ったら、こんな素敵な王子様なんだから!
「なら今は婚約という事で、婚姻は魔族領から戻って来てからにしよう」
「う、うん。そうね……むぅ」
返事をしてすぐルートリアにキスされた。
それも頭の後ろから手で押さえられての強引なやつ。
「ん、んんっ……」
あまりにしっかりした長いキスに、ちょっと酸欠気味になって軽く意識が飛びかけた。
やっとキスが終わって息が吸えたので、彼に抱き寄せられたまま、酸欠でぽーとする頭で考えた。
これで絶対に謝罪行脚を成功させなきゃいけなくなったわ……。
もし失敗して戦争になれば結婚どころじゃなくなるもの。
不安に駆られて何の気なしに壁際のバッグを見ると、バッグの開け口から神器『尾根ギア』の赤茶色の歯が見えていた。
もう聖女としての平和実現なんて二の次にして、今度こそ自分の幸せを掴むために神器を使おう!
そう心に決めた。
了
魔族領への謝罪行脚は残っていますが、勇者へもう遅いして、ざまあして、下僕にして、イケメン2人から告白され、王子様と婚約して玉の輿を実現、聖女として成り上がり、タイトルとあらすじ、キーワードタグを全て回収したので、本編はこれにて完結になります。
お読みいただき、本当にありがとうございました。
※第三章14話15話の婚約破棄について
八年前のサラミに起こった婚約破棄と断罪イベント、今回の婚約パーティのお話を、三人称サラミ視点によるガチガチ恋愛小説として書きました。
タイトル
没落寸前の実家を再興するためなら、婚約破棄を選びます
ジャンル 異世界〔恋愛〕
全四話完結。
約16000文字。
タグ
婚約破棄 真実の想い 初恋の人 過去の人 覆水盆 もう遅い ざまあ/ざまぁ
どうかどうか、完結させたご褒美に広告の下のリンクから「あらすじ」だけでも見ていただけませんか。
お疲れと思いますので、ブクマだけして後からじっくり読んでいただけたら泣くほど幸せです。




