25話 女神降臨
私は起動した神器に『宛先』と『件名』を宣言するため、急いで具現した歯車の外側にある黄金色の円形枠を掴んで少し回した。
円形枠の内側の歯が、噛み合わされた透明の歯車に回転を伝えて全ての歯車が動きだした。
透明の歯車と噛み合う中心の赤茶色の歯車が、くるりと1回転するとカチリと音が鳴った。
可能な限り早口で神器開放の宣言内容を口にする。
「『宛先』は創造の神様。『件名』は目の前の勇者、魔導士、戦士、アサシン4人を改心させて欲しい!」
創造の神様は、地球やこの異世界を含めた、あらゆる世界を包むように存在していると、転生してもらうときに神様自身が言っていた。
つまり、創造の神様は常にすぐそばに居て、祈りの言葉はどこからでも誰からでも届くのだそうだ。
ならば、創造の神様の姿は見えなくとも、今この場で『尾根ギア』の『宛先』にすることができる。
ところが直後に頭上から声が響く。
「我が名はメーラーデーモン。その宛名に対し件名が容量オーバー」
げっ、メーラーデーモンが出ちゃった。
「何? どうしたんだレイナ!?」
神器の起動を見守っていたルートリアが異常に気付いて聞いてくる。
「あ、メーラーデーモンっていう神器の発信を受ける神様がいるんだけど、その神様から頼み事をする相手にとって、頼み事が限界を超えてるからその発信はダメって言われたのよ」
「何!? どういうことだ? メーラーデーモン? 神器? 神様? 発信?」
しまった説明してない事まで言い過ぎた。
「あ、あのね。この魔道具は頼み事を受ける相手が、実際に頼み事を実現できる内容じゃないと、管理する神様が受け付けてくれないの」
「それは逆に言えば、頼みたい事があればそれが出来る相手を指定しなければいけない、という事か?」
流石ルートリア、よくこんな説明で伝わったわね。
「女神様を創った創造の神様に、勇者たちを改心させるように頼み事をしようとしたんだけど、どうも創造の神様は勇者たちを改心させられないみたいなの」
「女神様を創った創造の神様……」
ルートリアが黙り込んでしまった。
こんなことなら、ファルだけじゃなく皆にこの神器の事を詳しく話しておけばよかった……。
それにしたって創造の神様って万能なんじゃないの?
いくら勇者たちが強いって言ったって、神様から見たら単なる人間でしょ?
彼ら4人を改心させるのはそんなに難しい事なの?
勇者の様子を見ると、どうやらこちらが危惧している行動に移りそうだ。
アサシンは私に向かって身構え、勇者の方は戦士と一緒に貴族たちに向かって歩いて行く。
しまった。どうにかしなければ!
慌てた私の後方から声を掛けられた。
「アルトラン様! これを!」
振り返ると両手にルートリアの剣を抱えたサラミが、貴族たちを掻き分けてこちらに駆けつけて来た。
「うむ。前もって会場に隠しておいて正解だった」
剣を受け取ったルートリアは鞘をサラミに預けると後方に下がる様に指示し、具現した歯車の前に移動して身構える。
彼の行動に反応したのか、前傾姿勢になったアサシンが猛スピードで距離を詰めて来た。
ルートリアに短刀で攻撃を仕掛ける。
このとき私は、オーガやルビカンテを相手にルートリアが見せたあの特殊な戦い方を思い出した。
きっと、アサシンの攻撃をルートリアが片手で逸らし、彼が魔法剣で腕を切断して決着する、そう思った。
しかしそうはならなかった。
アサシンの短刀は途中で軌道を変え、あらぬ方向へ振られるとその勢いで奴の突進の向きが変わる。
私の殺害を優先するため、ルートリアを無視して具現した歯車たちの横をすり抜けようとしているのだ。
びっくりした私は視界の端に移動したアサシンの方に勢いよく体ごと振り向いた。
結果的にこれが良かった。
バガンッッ!!
私の振り向きに合わせて歯車が瞬時に移動したのだ。
そのせいで歯車の側面がアサシンに直撃して奴が吹っ飛び、王族のいる壇下の壁面にぶつかった。
向こうにいる勇者が素っとん狂な声をあげる。
「何なんだありゃ? 盾だけじゃなく武器にもなんのか!?」
戦士が勇者に剣を渡しながら私の事を分析し始めた。
「守りにも攻撃にも使える歯車だな。差し詰め歯車術といったところか」
「何が歯車術だ! そんなふざけたもんが俺の剣術に適う訳ねぇだろ!」
な、何よ歯車術って!
勝手に変な呼び名付けないでよ!
こちらに視線を送る奴らを見て私たちは身構えたけど、彼ら2人は後ずさる貴族たちの方に歩いて行く。
「てめえらはクソレイナを潰す人質だ!」
「抵抗しない方が身のためだぜ」
勇者が戦士と一緒に剣を構える。
ふいに貴族たちの前に長身の男が躍り出た。
槍を構えたプレシオが、貴族たちを守る様に奴に立ちはだかったのだ。
「これ以上は近寄らせない」
彼は槍尻を地面に当てると槍を変形させる。
柄が少し長くなり、槍先の横から斧の様な刃が横に出ている形状に変形する。
同時に彼の体が赤く光を発した。
「ちっ、ハルバートで俺らの武器でも落とそうってか? 舐められたもんだぜ」
「ふん、甘いな。俺たちを無力化させたきゃ殺すつもりで来い。でなきゃ貴様が死ぬぞ」
そ、そうよプレシオ。
勇者も戦士も呆れるほど強いわ。
「うぉりゃー!!」
猛り狂った勇者がプレシオに切り掛かる。
その剣げきをハルバートの柄で受け止めたプレシオは、奴の剣の勢いをそのまま槍先に受け流して剣を滑らせた。
ハルバートの斧の部分に勇者の剣を当てて巻き込み、剣の自由を封じる。
「それが甘いと言っている!」
戦士がその攻防に割って入り、脇から切り掛った。
その戦士の動きに一瞬、プレシオが笑ったように見えた。
彼は瞬時に勇者の剣の拘束を解くと、すんでのところで身を捩って戦士の剣げきを躱した。
攻撃が空を切り戦士が驚きの表情を見せたのもつかの間、斜め下向きに振り下ろされたハルバートが戦士の足首をとらえて切り飛ばした。
「俺がそんなに甘い男に見えたかい?」
「うぐあっっ!」
戦士の負傷に勇者が震えだす。
「て、て、てめえ!! やりやがったなぁ!」
「早く止血しないとさ、仲間が死んじまうぞ」
言いながら油断を見せないプレシオは、変わらず貴族たちの前に立っている。
「おい。ヴィー、アルマンドを止血してやれ。ちっ、もう我慢ならねぇ。ここにいる全員を血祭にあげてやる」
魔法を詠唱した勇者は体が虹色に輝いた。
奴の持つ剣は魔法によりバチバチと帯電してスパークしている。
「俺も正直ここまでやるつもりはなかった。だけどな、これで死体の山ができるのはレイナ、てめえのせいだからな! 自分のせいで人の命が消えていく責任を感じやがれ!!」
私に向かって叫んだ勇者はプレシオに向かって身構えた。
まずい。
あれは勇者の必殺状態、魔法で能力を限界まで向上させた全開の全開。
さすがのプレシオもだめだ!
死んじゃう、私のせいで死んじゃう!
「やめてぇーーーー!!」
大声で叫んだ直後だった。
!!!!
会場の上方から目も開けられない程の光が放たれた。
あまりのまぶしさに勇者を含めこの会場にいる者たちがその場に立ちすくむ。
等しく会場内を照らすその光は徐々に弱まると、それでも直視が難しいほどの光を放ちながら、とてもゆっくりと人型の何かが降りて来た。
それはゆったりとした白い衣に身を包んだ金髪の女性で、まばゆい光を放ちながら物理法則を無視して空中をゆっくりと降りてくる。
その女性は白い素足を下に向け、きれいな顔立ちで微かな笑み浮かべたまま、私たちの目線より高い空中で制止した。
「あれ~? おかしいわねぇ~? まだ儀式の時期じゃないのにねえ~」
その声を聴いた会場の全員が一斉に跪いた。
その場で跪かずに立っているのは私と勇者たちだけだ。
「あらあ~。儀式用の診断宝珠で私を呼ばれたのは創造神様ですかあ~。ベアトリーチェ、参上しましたわあ」
え、どゆこと?
女神ベアトリーチェ様?
これってマジの女神降臨なの!?
次回、「二股の蝙蝠野郎」お楽しみに!




