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24話 当然の様に具現した歯車たちは無傷

 魔力量で私に圧倒的大差で敗れた勇者が、大して取り乱すこともなくただ顔を赤くしただけだったのはこういう事だったのだ。


「よ、よくも……よくも、よくも、よくも、私の大切なファルをぉぉおっ!!」


 無残にも横になったファルを見つめたまま、両の目からとめどもなく涙が流れた。


 不意に後ろから肩を叩かれた、ルートリアではない。

 振り返ると一歩下がって控えていたルビカンテが、私のすぐ後ろに来て人差し指で自身の口を指している。


 な、何?

 何なのよ?


 口をパクパクさせている。

 何? 喋りたいの?


「……喋っていいわよ。な、何? い、一体どうしたの?」

 涙を流し、嗚咽でしゃくりあげながら小声でルビカンテに聞く。


「くっつくのです。あああ悪魔は取れてもくっつくのですっ」

「そ、そうね! 確かルビカンテは、ひっく、両腕が切り離されてもくっつけて、ひっく、元に戻していたわね。……で、でも翼はくっついても、ファル自身がもう……わぁぁああん……」

「ご、ご主人ならたぶん平気」

「な、何が平気なのよぉぉお!」


 ニタアと不気味な笑みを浮かべるルビカンテ。

 彼の言いたい事が分からず泣きながら冷たく突き放した。

 一瞬ひるんだルビカンテはもう一度と不気味な笑みを浮かべると、今度は「ご主人なら元に戻せる」と言った。


 元に戻せるってどういうこと?

 彼女はあんなに傷だらけでもう動かないのよ?

 悪魔はあの状態でも復活できるの?

 でも、目の色に光はないしあれはどう見ても……。


 もしかしたら彼なりに私を気遣って、元気づけようとしているのかもしれない。


 嬉しかった。

 不器用なルビカンテが私を気遣ってくれた。


 それに本当に元に戻せるなら、ファルを元気にできるなら、私が今しっかりしなくちゃ!


「レイナ。奴から目を離さない方がいい」

 後ろを見て話す私にルートリアが注意を促す。


「いいのよ。あんな奴、怖くなんか無いわ」

 そう彼に返事してから、涙で頬を濡らしたまま、ルビカンテに感謝の気持ちを込めて軽くハグをする。


「ありがとう、ルビカンテ。これからひと悶着ありそうだから力を貸してね」

「わっかりましたようっ」


 私はゆっくりと振り返ると、涙で濡れた顔をそのままに勇者とその一行を睨みつけた。


「絶対にあなたへ罰を与えてやる」

「おい、こら! 俺の方がてめえを追い込むって言ってんだろ? 逆だよ逆!」

「どう、追い込むのよ?」


 私が言い返すと、本当に憎たらしい余裕の表情を浮かべた。


「俺がここで暴れたら困るだろうから、てめえは俺に何されても抵抗できないってこった。この意味分かるよな?」


 その勇者の言葉で最初に慌てたのは私たちではなく、奴の上司たちだった。


「ゆ、勇者デグラス殿! 一体何を言い出すんじゃ!」

「貴公、それは我々の思惑とは違う。もはやあの魔力量は聖女様に相違ない。それを踏まえて行動しろ」


「ちっ、てめえらも聖女様かよ」

 機嫌が悪くなった勇者は床に唾を吐いた。


「おい! 魔族との戦争であんたには俺が必要なんだろ?」

 今度は壇上のヘラルド王に向かって声を荒げる。


 厳しい表情の王様はゆっくりと口を開く。


「勇者デグラスとその一行よ。そなたらは我が国にとって大切な存在と思っておった。しかし、儂らが大切にする聖女レイナ様へのあの態度はいかん。儂はそなたが……」


 ヘラルド王が王族としての判断を述べる中、なんと真横からその発言を遮った者がいた!


「まこと! お前はわらわの国(・・・・・)に不要な人間。低俗なゴミは存在自体が不愉快じゃ。早う出て行け。レイナ様はわらわのもの(・・・・・・)になるのじゃ。侮辱は許さぬぞえ」


 腹立ちを顔に出し、ごくゆっくりと喋る王妃様がキツ過ぎて、配慮された私の方に寒気が走る。

 あと気になる箇所が何カ所もあるけど、今はそれどころではない。


「ちっ、どいつもこいつもよう……」


 頭をかいた勇者は、ハリオス侯爵とレグハルツ将軍の方に向くと吐き捨てた。


「やめた」


「え?」

「何?」


「もうてめえらにヒイコラすんのはやめたんだよ!」


 吐き捨てた勇者の言葉に、女魔導士があっけらかんと応じる。

「そうよねぇ。何だか聖女騒ぎでしらけちゃったしぃ」


 すると戦士アルマンドとアサシンのモルネーもそれに反応する。


「何? デグラス、やっと他国へ行く気になったか?」

「向こうの方が待遇がいい。当然」


 こちらを向いた勇者は反り返って私を見る。


「ちゅう訳だ。ほら俺も手土産が必要だし? それが王族の首なら言う事ねぇなあ」


 とうとう勇者が本性をあらわした。

 端から奴らは王族なんて何とも思っていなかったんだ。

 まあ、それは昨日の勇者の態度を見ても分かる事だけど、王族や貴族たちの前でそれを明らかにしたのが大きい。

 つまり宣言したのだ。

 奴らにとって私たちは敵だと。

 そしてあろうことか王族の殺害まで言い出した。


 私は速攻でルビカンテに合図するとバッグから神器を取り出させる。

 今ここで神器を使わずしていつ使うというのだ。

 



 私は迷わずに神器『尾根ギア』の力を開放した。




 ルビカンテの持つ神器から虹色のまばゆい光が周囲に放たれる。


 この場にいる全員が何事かとこちらに注目した。


 私はルビカンテから神器を受け取ると胸の前に掲げる。


 中央部の石が白く光る錆びた歯車は、私の胸の前で宙に浮いた。

 その歯車の外側に直径2メートルの黄金色に輝く細い円形枠が出現する。

 細い円形枠の内向きには、沢山の歯がぐるりと1周並んでいる。


 中心の赤茶色の歯車と外側の細い円形枠の間に、大小沢山の透明な歯車が出現した。

 それら全ての歯車はそれぞれの歯が嚙み合っていて、どれかが動けば互いに動きが伝わる状態だ。




 神器の起動であっけに取られていた勇者が叫んだ!


「ヴィー! レイナの行動がおかしい! 潰せ! 魔法攻撃だ!」

「分かってるからッ! ファイヤーバーストアロー!」


 私は魔法を詠唱するヴィネグレッタの方へ、大急ぎで体の向きを変える。

 浮遊する歯車たちは、まるで懐中電灯の光が瞬時に方向を変えるように、私の身体の向きに合わせて一瞬で空中を移動した。


 ヴィネグレッタから放たれた3連続のファイヤーアローが一直線に私目掛けて飛ぶ。


 カカカン!


 具現した歯車に激突した炎の矢は一瞬だけ当たった場所にとどまった後、落下しながら消失した。


「えっ! マジィ!? 効かないのぉ!?」

「クソ、なら俺が! サンダァーースパァーーク!」


 今度は勇者から放たれた電撃が私に向かって直進し、具現した神器に直撃した。

 まぶしい光に遅れてバチィッという短い衝撃音が響く。


「うあ」

「ぎゃあ」


 私の周囲にいた貴族たちは多少の放電を受けたようで後ろに転んだ。


 勇者の雷魔法は具現した歯車に通電したようだけど、すぐに地面に抜けたようだ。


「お、俺のサンダースパークが……」


「へ、へぇ~。流石あの魔力量で具現した盾は伊達じゃないのねぇ。でも残念でした~。私はねぇ、出し惜しみしない性格なのぉ。悪いけどいきなり最強魔法で終わりにするから!」

「え!? ちょ、ちょっと待てヴィー! 爆発系はヤメロ。屋内じゃ俺らが巻き添えを食らう!」


「平気よぉ、爆発系より集中火力の高い魔法でアイツだけを溶かすから。あ、でも後ろの壁が無くなるのは諦めなさい」


 そう言い放ったヴィネグレッタは両手を私の方に向ける。


 彼女の両手の前に虹色の大きなガラス玉が具現して浮遊すると、周囲からその中へ青い光の粒子が収束していった。

 一瞬だけ、浮遊する虹色の玉の中に小さな青白い光が見えた。



「消滅するがいい! 原子熱線(アトミックレイ)!!」



 直後、その虹色の玉から丸太並の太さの白い光線が放たれ、具現した歯車に激突した。

 激突した太く白い光はジジジと聞いた事もない音を響かせ、絶え間なく赤い火花を周囲に撒き散らす。


「うひゃあ」

「熱っちぃぃいい」


 先程放電を受けて転んだ前列の貴族たちが、今度は飛び散った火花に慌てて顔を背け、腕で頭を覆って身を守っている。


 ま、眩しい!

 辺りは白と赤の光に包まれて眩しくてよく見えない。

 そして遅れてやってくる熱気。

 どうやら両横から回り込んでくる熱気のようだ。

 歯車の陰でこの熱気。

 周囲にいる貴族たちは相当の熱気を浴びているが大丈夫だろうか。


 5、6秒間ずっと光のシャワーを浴びてから白い光が細くなり始め、最後には針金ほどに細くなってようやく消えた。


 ま、眩しかった。

 まだ、目がチカチカする。

 まあ、当然の様に具現した歯車たちは無傷な訳だけど。

 もう何をされても壊れる状況が想像できない。

 なんとか前列の貴族たちも平気のようね。

 でも少し焦げ臭いのは、彼らの髪や衣服が火花で少し焼けたからみたい。


「ちょっと! 眩しいじゃないの!」


 ようやく視界が元に戻ってきたので私が文句を言うと、奴ら4人があんぐりと口を開けて呆然としていた。


「う、う、うそでしょー!!??」

「ヴィーの原子熱線(アトミックレイ)が……」

「ま、魔法攻撃が無効なのか?? いや……だからといって俺の剣が効くとも思えん……」

「私としたことが……。決着したと思い傍観してしまった」


 神器の鉄壁さに驚く勇者たちと対照的に、貴族たちが騒ぎ出した。

 特に腰が抜けたようになった前列の貴族たちが、悲鳴をあげて後ろに逃げようとしている。

 だが、この場には出席した貴族数百人が詰めかけている。


 いくら前列の貴族たちが後ろに下がろうにも、中列、後列の貴族たちが様子を見ようと詰めかけて後ろに下がれない状況だ。


 慌てふためいて大声をあげる貴族も出る中、惚けていた勇者が大声で叫んだ。


「うるせえんだよ! おい、騒いだ奴から殺すからな! 殺されんのが嫌なら黙って見てやがれ!」


 貴族たちを脅すように両の手からは魔法で作った電気をだし、バチバチと音を立てた電流がスパークして床へ放電している。


 マズい。

 魔法は余裕で耐えたけど、この後、勇者が貴族たちに手を出したり、アサシンがスピードにまかせて私を襲ってきたら困る!


 私は起動した神器に『宛先』と『件名』を宣言するため、急いで具現した歯車の外側にある黄金色の円形枠を掴んで少し回した。


次回、「女神降臨」お楽しみに!

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