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23話 横たわる少女がファルなはずがない

 勇者と魔導士は跪かずに、私と表示板を見てボケっと突っ立ったままだ。


「う、う、う……。こんな、バカな……」

 勇者は感情の抜けた顔をしていたけど、みるみる表情が変化して顔色が真っ赤になった。


 壇上から声が掛かる。

「まさか、貴様が……聖女様とは……。た、度重なる無礼……許しを請いたい」


 し、信じられない。

 あのカストラルが跪いたまま私への態度を改めて、あろうことか許しを請うている。


 この状況なら王妃様のような毅然とした態度、言葉遣いを使用して、聖女様として皆を統率する事もできるだろう。


 でも、私は私だ。

 この庶民的感覚やレイナという自分自身を今更偽るなんて出来る訳がない。

 そもそもただ魔力量が多いだけで、私自身に聖女様だという自覚が全くないのだから。


「カストラル様、お願いがあります。私は何も変わっていません。今まで通りレイナ・カガミハラのままです。聖女様だなんだと急に態度を変える気なんてありません。どうか今までと変わらない気持ちで接して欲しいです」


 いきなり皆の接し方が変化して関係性が崩れるのが嫌だったので、今まで通りにとお願いした。


 本当は聖女様ではないと否定したい思いが強いけど、この状況はミッションを成功させるにはこの上ない好都合。

 つまりルートリアがここまでお膳立てをしてくれたお陰で、貴族たち全てが私を尊重する態度を見せているのだ。


 ここはルートリアの理屈にのっかって、平和を実現した実績から聖女様という体裁にさせてもらおう。

 もちろん事が済んだら辞退させてもらうつもりだけど……。


 さてこの物々しい雰囲気はどう収めたらいいものかしら。

 やはり私から貴族たちに声を掛けて、会場内を支配する空気を変える必要があるわね。


「皆さん、姿勢を戻していただけますか? 私は……」




 言い掛けたところで、突如、会場の外から爆発のような大きな音が響く!

 同時に体に伝わるビリビリ震える衝撃!


 突然の事に驚いて体がビクつく。




 ドカンドカンと続けざまに響き渡る爆音と建物の震えに、ビックリして何が起こったのかと慌てて周りを見渡す。

 特に会場内には変化はなく、ここには影響が無い様だけど不安に感じて両手を胸に当てる。

 ルートリアが私の横に立って優しく肩を抱き寄せてくれた。


 私の方を向いて跪いていた貴族たちも、立ち上がってきょろきょろと周りを見渡し慌てだした。

 ざわざわと状況を確認しあう声が少しづつ大きくなり騒然とし始める。


「なんだ!?」

「どうしたんだ!?」


 不安に駆られた貴族たちの声が大きくなったところで会場正面の扉が開き、衛兵の1人と外で待機していた貴族の執事たちが小走りで入場してきた。

 衛兵はヘラルド王の前に跪くと、少し息を切らせながら報告する。


「国王陛下、別棟の賓客向け客室付近より魔法による衝撃を確認しました。現在、状況を確認しております。犯人は会場外にいるようですので、どうかこのままここで様子を見ていただきたく」


 不安になって、ルートリアの顔を見上げたけど、彼は何か言おうとしつつも口を開かず壇上にいるヘラルド王を確認していた。


 ヘラルド王が立ち上がると、いつも穏やかな様子からは想像できない大声を出して皆に呼びかけた。


「皆の者、慌てるでない。この会場には王国軍の将軍を筆頭に勇者や手練れの軍幹部が参集している。この場で様子を見て欲しい。慌てて会場を出る方がよほど危険じゃ」


 この国王の声掛けとともに、動きの止まっていた王国軍関係者が一斉に動き出した。

 国王自ら声を発したのが効果を奏したようで、貴族たちはざわつきはするもののパニックにならずにすんでいる。


 指揮をとるべきレグハルツ将軍はというと一般貴族よりも動揺が激しく、何か勇者に食って掛かっていた。


「ど、どういう事だ。多少騒ぎを起こす程度ではなかったのか? あんなに派手な衝撃音が鳴り響いて大丈夫なのか?」


 何、どういう事?

 彼らは騒ぎを起こすつもりだったの?


「うーん。確かに俺が思ってたよりは派手だな? 奴らが予想より抵抗したって事なんだろ」


 勇者のこの言葉に私は凄く嫌な予感がした。


 彼のあの企みを思わせる発言、爆発音と衝撃波が感じられた方角。

 また、あの勇者がろくでもない事をしようとしている、そう強く感じた。




 そして、またも会場の正面扉が開く。


 そのとき私は信じたくないものを目にした。


 あの勇者の仲間2人、戦士とアサシンがフル装備で登場したのだ。


 戦士の右肩には水色の大きな布がかつがれている。


「おー、アルマンド、モルネー待ってたぞ!」


「デグラス! お前の指示で襲撃した場所に魔族が居やがってよ。掴まえてきたぞ!」

 水色の布をかつぐ鎧の男アルマンドが、開いてる左手を上げて応える。


「想定より苦戦した。あと私の名前を大声で呼ぶな」

 アサシンなのに大勢の前で名前を呼ばれたモルネーは、表情こそ変えないけど不機嫌そうな口調で返事をした。


 彼らの後ろには両手を前で縛られたベクタードレインとスモークが縄で繋がれて歩かされていた。


「お嬢様! 逃げてください!」


 スモークが貴族たちの集団の一方に向かって叫んだ。

 彼にはサラミがどこに居るのか見えているようだ。


 このスモークの一言で、一時は収まっていた貴族たちの不安が一気に膨れ上がり、ざわつきが大きくなる。


 顔が腫れ上がり傷だらけのベクタードレインが続けて叫んだ。


「レ、レイナさん! ファルファレルロ様が! ファルファレルロ様が!」


「黙れ。口を開くな」


 アサシンがベクタードレインの腹に一撃入れると、彼はヒザをついてうずくまった。


 事態を飲み込めず混乱する私たちを他所に、先ほどまで動揺していた勇者が落ち着きを取り戻して前に出る。


「なあ貴族のみんな聞いてくれ! この聖女を騙るレイナってやつは、平和平和と言いながら裏では魔族と繋がっていやがったぜ!」


 その勇者の声に合わせて、うずくまっていたベクタードレインがアサシンのモルネーに蹴り飛ばされて前に転がり出た。


 さらに戦士アルマンドが肩に担いでいた青い布を投げ落とす。


 それはただの布ではなかった。

 薄汚れた青い布は少女の着ている衣服だった。

 横たわる少女は血こそ流していないが、体中傷だらけで身動き一つしない。

 彼女の横顔は乱れた髪で隠れて見えない。


 戦士はかついでいた右肩とは反対に首を倒してゴキリとならすと、得意げに言った。


「こいつは手こずったぞ。魔法弾は撃つわ、バリアは張るわ」




 そ、そんなハズはない。

 横たわる少女がファルなハズがない。

 彼女は悪魔なのよ。

 冒険者如きに遅れをとるハズが……。

 それにファルなら黒い翼があるもの。




 アサシンがその少女を蹴り転がす。

 彼女の背中には何かの切断面が見えた。


「ちょこまか動くから羽根を切り落とした」




 頭の中が白くなった。

 何も考えられなくなった。

「うぅ、うあぁぁーーーー!!」


 感情が爆発して、声にならない声を張り上げた。

 息が尽きるまで声を出し続けてむせ返り、咳込んだ。


 横に合った診断宝珠から強い光が出たようで辺りが白くなったが、すぐ元に戻った。


 誰かの手が私の肩に置かれた。


「ゆっくりと呼吸を整えるんだ」


 狭くなっていた視野が少しずつ戻って来る。


「落ち着いて。まずは2人を取り戻さなくては」


 錯乱した私へゆっくりした口調でルートリアが声を掛けてくれる。


 この人はなんでこんなに冷静なの?


 見上げると彼は顔を強張らせて連中を睨みつけ、体中に力みが入り微かに震えていた。

 彼はちっとも冷静じゃなかった。

 私が混乱しているから逆に冷静に見えただけで、その実は怒りで震えているのが分かった。


「ハイハイ! 感動のご対面はそろそろ終わりでいいよな?」


 狂気の笑顔を浮かべた勇者が楽しそうに宣言した。


「魔族を引き入れ、悪魔と手を組む逆賊レイナ! さあ、これからてめえを追い込むぜ!!」


次回、「当然の様に具現した歯車たちは無傷」お楽しみ!

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