22話 わたしの魔力量
「レイナだと!?」
声を張り上げた奴がいる、勇者デグラスだ。
「やっぱりねー。どっかで見た顔だと思ったのよ。2年以上も前の話だし自信が無かったけど、あんただったのね?」
ヴィネグレッタが納得したようにうんうんと頷いた。
つかつかと私に近づいてきた勇者が、私の顔をじろじろと見てくる。
「んんーっ? て、てめえは! くそレイナ!!」
「デグラスってば彼女と昨日会ったって言ってたよねぇ? 何で分かんないのよ」
「い、いや髪型が全然違うし、顔も昨日よりカワイ……」
「しかも2号さんにしようとして口説いてたしぃ」
「う、うぐぐ……」
ヴィネグレッタに突っ込まれて、恥ずかしそうに顔を真っ赤にする勇者。
ざまあみろだ。
「だ、大体てめえが聖女だって? 騙るにしても酷過ぎるだろ。魔力なんか毛ほども無いくせして何が聖女だ!」
「あなたよりは多いわよ」
「はあ? てめえみてえな交渉しかできねぇボンクラが、俺より魔力ある訳ねえだろが!」
「それが私の方が多いのよ」
今度はあきれ顔で人を馬鹿にしてくる。
ころころとよく表情の変わる男だ。
そばで様子を見ていたハリオス侯爵が、ホッとした様子で勇者に声を掛ける。
「デグラス殿、では彼女は大した事ないのだな?」
「大したも何もこいつの実力はゴミ同然よ。よく聖女だなんて騙るよなぁ」
その点は私もちょっと思う。
聖女でもないのに聖女だと紹介するのはどうかと思うのよ。
まるで私が詐欺を働いている気がして凄く気まずい。
軽く首謀者のルートリアを睨んでおく。
「いやレイナ、例えば勇者デグラス殿だが、彼は外から見て勇者だという印がある訳じゃない。彼が勇者と呼ぶに相応しい実力が備えているから、周りが敬意を表してそう接している」
「確かファルが前にそんな事を言ってたわね」
勇者が偉そうに頷いている。
腹立つわー。
「聖女様についてだが、伝説では平和を愛し無血で争いを鎮めたそうだ」
「そうなんだ」
「伝説の聖女様と同じ行いを国家レベルで実現しているレイナを、聖女様として扱う事に何も問題はないだろう」
「……」
なんかどうも丸め込まれている気がする。
私が聖女だなんて違和感しかない。
自分の聖女様のイメージが、まばゆい光と共に奇跡を起こす美少女のイメージだからかもしれない。
「今さら魔力量を測らずに逃げるなんて許さねぇからな! てめえは聖女様なんだろ? これだけ貴族たちが期待してんだ。残念な実力をしっかりと見せつけてやるんだな」
勇者が余裕を持って私を挑発する姿に、安心した様子のハリオス侯爵がルートリアの前に出る。
「殿下! これだけ皆を扇動したのですぞ! ちゃんと聖女様の実力を示していただかなければなりますまい」
いやらしそうにニヤニヤ笑っている。
私が失笑を買う事態になれば、美味しいとでも思っているのだろう。
このやり取りに心配そうな顔の将軍が口を挟む。
「我々には王国軍以外に頼れるものなどありません。それなのに貴族たちがすっかり浮ついてしまった。殿下にはその根拠を示していただかなければ収まりがつきませぬ」
将軍の方は責任や体裁を気にするタイプのようね。
自分たちで始めた余興が騒ぎとなり責任問題になるのを気にしているようで、早く鎮静化するように要求してきた。
「将軍、私も王国軍が無くて良いとは考えていない。だがあれこれ言う前に聖女様の力を見て欲しい。グリドル教長、レイナ様に魔力量の測定を案内してもらえるか」
そばに控えていたグリドル教長が私の事を診断宝珠の前まで連れて行くと、丁寧に測定方法を説明してくれる。
「グリドル教長は私の事を疑わないのですか?」
「……失礼ですが半信半疑じゃ。アルトラン殿下に限って虚言など考えられぬ事。じゃが、魔力量が多すぎてエルベの教会にある診断宝珠が壊れたのも信じがたく……」
そうか! また壊す可能性もあるのか!
こんな高そうなのを壊したら目も当てられない。
「あ、あの、この診断宝珠はどのくらいまで測れるのですか?」
「こいつは集団儀式用じゃから王国民全員で魔力を注いでも計測できるぞ」
じゃあ心配いらないな。
「おい! 早くやれよ! それで醜態を晒せグズ!」
うるさいわねバカ勇者。
今からやるわよ。
ルートリアの方を見ると、頷いてから注目を集めるために皆に声を掛ける。
「それでは聖女様に魔力量を計測していただこう!」
診断宝珠を支える柱の下段にドレスが当たらないように片手で裾を寄せながら、もう片方の手を宝珠の外に出ている部分にかざす。
昨日の勇者との対峙はただの口げんかだったけど、今日は魔力量の勝負。
魔力量なら能力なんだから、負ければ奴もショックを受けて逆恨みするかもしれない。
だから、さっきまではちょっと加減しようと思ってた、だけど……。
邪神に対抗する聖女様が数万程度の魔力量じゃ皆が納得しないわよねぇ……。
こんだけ貴族たちを煽っといて勇者にちょい勝ちじゃ、逆に不安で騒動になるかもしれないし……。
「レイナ、勇者に遠慮はいらない。ここは全力で頼む」
私が迷っているのが分かったのか、ルートリアに小声で囁かれた。
……なんかもう考えるのが嫌になった。
いいや、勇者に力の差を見せつけてやる!
やけくそになった私は目をつむり、手に力を籠め、そして……
本気を出した。
診断宝珠は先の誰のときよりも力強く光り輝き、表示板には今までの誰よりも多くの数字が表示される。
XXXXX
1XXXXX
2XXXXX
3XXXXX
4XXXXX
5XXXXX
52XXXX
524XXX
5242XX
524288
変化する数字がようやく止まり、診断宝珠が白色に光輝いた。
524288
ま、まじですか……。
あ、あは、あはははは……。
「わたしの魔力量は524288です……」
混乱した私は思った事をそのまま呟いたけど、もちろん誰からも返事はなかった。
居合わせた誰もが身じろぎもせず、まるで時間が停止したようだった。
永遠にも思える空白の数秒の後……。
ザザァッ!!!!
会場の皆が王族も含め一斉に私へ跪いた。
そして会場に割れんばかりの声が響き渡った。
「聖女様!!!!」
……。
……え、う、あ。
どう、しよう……。
次回、「横たわる少女がファルなはずがない」お楽しみに!




